第31話 From シン

 シグレ Lv.51 Human

 称号:ベテラン

 異能:1/10

 ■HP 74/743

 ■MP 36/359

 ■攻撃力 577

 ■防御力 391

 ■素早さ 406

 ■魔法耐性 62

 ……


 ■炎耐性 60

 ■氷耐性 58

 ■雷耐性 61

 ……


 ~装備~

 武器◇ ドラゴンバスター(長剣)

 防具◇ 旅人の革鎧

 アクセサリー①◇ 旅人の籠手

 アクセサリー②◇ 韋駄天の靴


 通常、モンスターを倒したり、<素材>と呼ばれるアイテムを加工して武器を作ったりすると、強力な武器や防具が手に入る。

 だが俺の場合、“EASY”と思しき難易度をプレイしていた所、最上位難易度のボスモンスターと遭遇し、そして撃破。大幅なレベルアップを遂げる事になった。

 正規のルートをショートカットしたようなもので、大したモンスターすら倒していない。その為、自分に見合った武器や防具を一切所持していなかった。


 俺は一度宿屋を出て、シンジュクの武器屋を訪れると、店で一番高価な武器を購入した。<ドラゴンバスター>という名の長剣で、柄の部分に龍の意匠が施されているバスタードソードだ。ぶっちゃけ名前負けも良い所で、市販品の中ではマシというレベルなのだが、この際仕方ない。

 まぁ、装備している中級プレイヤーも居るし、粗悪品って訳でもないしね。それにラインナップで、レベル五十で装備できる武器も限られる訳だし。

 ……でも、実は次のボス戦。ドラゴンとの戦いでは使わない予定なんだよね。装備しておいて何だけど。

 でも買っちゃったし、いいか。


 潤沢な資金があったので、俺は武器屋を出た足でそのまま防具屋へと向かった。そこで、同じく市販品でそこそこのレザーアーマーと、籠手を買った。

 この防具、<旅人>シリーズは、装備すると若干だが素早さが上昇するのが特徴だ。

 その後は露店を散歩していたのだが、防具を売っている行商が居たので覘いてみた。ここでは<韋駄天の靴>を購入。

 これは素早さが上昇するアイテムだな。レベル五十前後のプレイヤーなら愛用している人も多い。

 そんな訳で、異能のお陰で戦闘時は十分の一になるとは言え、適正なステータスと装備品が整ったのだった。


 再び宿屋に戻ると、夜の内にルーシアにチャットを入れ、ウィットに富んだ小粋なジョークと明日の予定を話した。今回はちゃんと何時に集合するかを決めておいた。

 テレクラ、エロイプ、ライブチャット……だっけ。通話機能のある媒体で自慰行為をするプレイがあるが、VRゲームが台頭するハイテクノロジーの現代でもそういった、ややアナログ式のプレイが跋扈していた事も頷ける。

 こ、蠱惑的な声色だぜ……! 十八という数字で禁じられたコスモが広がっている……ッ!


 いかんいかん、取り乱した。

 <グリフォンの羽根>を使用すると行ける目的地が、まだ行っていない場所を無数に指し示した時は一瞬ビビったけど、当然と言えば当然だよな。プレイしていた筈なんだから。

 このアイテムは、一度行った事がある場所へ瞬時に移動する事が出来るアイテムだ。逆に言うと、行った事が無い場所へは飛ぶことが出来ない。

 もし初期装備、初期レベルである事が正しいように、俺が最近になってアヌビスゲートを始めた新参だったのなら<サッポロ>や<オキナワ>といったプレイヤータウンには飛べない筈なのだ。だがしかし、出来る。これは俺が以前からプレイしていた事の証拠に他ならない。

 まぁ、いい。最終的にはラスボスか黒幕をぶっ飛ばして、解決すれば済む話だ。

 俺はそんな事を考えながら、眠りについた。


 で、翌朝。

 ルーシアと朝食を楽しんだ後、俺達はすぐに行動を開始した。本日はドラゴンを狩る。最初のステージ<森>のボスの討伐だ。

 道中、レベルが中級者クラスに上がった事もあり、以前よりも快適に進む事が出来た。ルーシアも、俺に合わせて今まで歩行のスピードを落としていたのだろう。いつにも増して、ハイペースな一路であったが、俺はそのペースに難なく付いていく。

 湿地帯を突き進み、昨日グリフォンを屠った場所へと出る。ボスモンスターは一度撃破すると、暫くの間は蘇生しない場合が多い。今回もそのようで、二人して胸を撫で下ろした。流石にもう一度はゴメンである。


「ちょっと待ってくれ。ダイアログを確認しておきたい」


 暫く進んだ時、ダイアログを見つけた。以前見つけた時、その内容はゲーム時代と異なるものだった。それ故、今回も確認しておきたかった。

 ――この世界で何が起きているのかは分からないが、ダイアログを調べれば、もしかしたらその糸口が見つかるかもしれない。


「確か、ゲーム時代もこの場所には設置されていたわね」


「ああ」


 俺は屈んでダイアログを確認してみる。スイッチを入れると、ホログラムによるメッセージが投影された。


 <俺は、彼に尋ねた。そうしたら……まさか、こんな事になるなんて……>


 やはり内容が変わっているようだった。ゲーム時代、ここのダイアログをチェックすると、ボスモンスター攻略のヒントが表示される仕組みになっている。この先に棲まうドラゴンについての記述が書かれているのだ。


「ねぇ、こんな文章だったっけ?」


「いや……」


 訝しむルーシアを他所に、俺は一人思案していた。仮にこれがアヌビスゲートのアップデートプログラムだったとして、既存のデータが一新された……という事なのだろうか。

 だとしたら、ゲームからログアウト出来ない現状も、Anubis社の想定通り、もしくは把握済みなのだろうか。だとすれば、俺達は慌てる必要など無い。救助を待てばいいだけだ。

 ……いや、違う筈だ。

 五ヶ月が経っている。この年月は決して短い期間ではない。アップデート、即ち仕様ではないと考えた方が無難だ。そう考えると、我々は非常事態に直面している事になる。


 であるならば、このメッセージは何だ? 確か以前見つけたものは『あれは叡智の結晶だった』だったか。叡智の結晶……。何かを作り上げたのか?

『彼に尋ねた』というが、彼とは誰だ? 人か?

 恐らく、あの瓦礫の山と化したサイバーシティと関係があるのだろうが、分からんな。


「シグレさん、こっちにもあるわよ。しかも、何かちょっと新しい感じ」


 ルーシアに手招きされて赴くと、もう一つのダイアログがあった。他のダイアログが古ぼけていたり、苔むしていたりするのに対し、それは汚れも少なくて比較的新しい印象を覚えた。

 このダイアログだけ新しい……? ゲーム時代にも無かったものだな。


「誰かが設置したのかな?」


「罠かもしれないな。一応後ろへ下がっておいてくれ」


 俺の脇から興味深そうに見やるルーシア。俺はそのダイアログのメッセージを表示してみる事にした。


 <後から来る人へ。ア……を倒して欲しい……

 ヤツ……寸前、力を振り絞って分身……た。そして、このダイアログを……>


「何、これ……不気味ね」


 文章は途切れ途切れだった。俺は背筋がゾッとするような寒気を覚える。

 しかも、このダイアログだけ文体が違う。書いた人間が違うのだろう。

 気になった俺はメッセージの送信元を確認してみる。そこには“シン”の二文字。

 俺は、得体の知れぬ人物からのメッセージに、薄気味悪さを感じたのだった。

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