第6話

黒川麻子が宗教から抜けると聞いて俺は単純に羨ましかった。やるやん、麻子ってなもんである。麻子は十一歳でバプテスマを受けた敬虔な信徒だから教団から排斥処分となるに違いない。排斥とされたら、麻子に話しかけることは禁止される。まだ表立って公表されていないが時間の問題なのは間違いない。そうなるとあんずは学校に友達がいなくなる。俺はこの世もあの世もどうでもいいからクラスに何人かの友達のようなやつがいる。学校の中だけの陽炎のような薄い友達が。昨日何回オナニーしたとか誰が可愛いだとかくだらない話は尽きることがない。


今夜のご飯は健康のために薄味にされたピーマンの肉詰めで肉が見えなくなるほどケチャップをかけて米と一緒にかき込んで夕食を終わらせるとあんずのベッドでYouTubeを見た。スマホを持たない俺とあんずはこのiPadが世界との窓だ。教団が用意したiPad用のアプリには大量の聖書の解説書が入っていて宗教の勉強用のタブレットだけど、俺にとってはオナニー用の動画を見たり、音楽や映画やドラマなどのこの世の情報を学べる最高の板だ。風呂から上がったあんずがふらふらと部屋に戻ってきて「上がったよ」とだけ言うと曖昧な目で俺を見ながら「きょうちゃんは友達がいていいね」とつぶやいた。麻子の話を聞いた日からあんずはご飯をあまり食べなくなった。ただでさえ細い身体が薄くなり頬の柔らかそうな膨らみが引き締まって無駄のない鋭い美しさを醸すようになった。二つ隣のクラスの俺のところにもあんずは彼氏がいるのかとか風呂の写真を買いたいだとか何件ものアホが寄ってきている。「あんちゃんも友達作りなよ」と言うと、あんずは困った顔で「そうねえ」と曖昧に笑った。「とりあえず風呂するわ」と言って風呂場の洗濯物置き場からあんずの脱ぎたてのパンツを手にとって風呂に入る。あんちゃんあんちゃん大好きよ。とパンツの匂いを嗅ぎながらすでに勃起したちんぽをさすり、ボディソープを二回ポンプしてちんこに擦り付ける。摩擦の抵抗がなくなった手は鬼頭をこねくり回しながらあんちゃんのクロッチを舐める。あんちゃんにバレから殺されるだろうなあと思いながらも、しぬほど可愛いあんちゃんの身体から分泌された残滓に興奮し、少し激しく手を上下すると一気に絶頂が来る。すきすきすきすきすきすきすきすきいくいくいくいくよあんちゃんごめんなさいごめんなさい。出た精液はそのままシャワーで流してあんちゃんのパンツを洗濯物の山に投げると髪と身体を洗って風呂を出る。あんずの部屋はもう真っ暗で隣の自分の部屋のベッドでiPadに漫画をダウンロードしているとあんずが部屋に来た。「きょうちゃん、この世の友達なんて捨ててよ」といきなり据わった目付きで言うあんちゃん美しい。風呂上がりのまだ湿った髪からいい匂いがして病んだ目は光を吸収して真っ黒の穴だ。あんちゃんあんちゃん俺を吸い込んで殺してくれよ。ブラジャーを着けずにパジャマだけのあんちゃんの乳首は分かりやすくて触りたいのを我慢しながら、ベッドの縁にやけに姿勢良く座るあんずを見返す。「どういう意味?」とわざと冷たい声で答えるとあんずは固まって「そのままの意味だよ」と小さな声で答えた。弱ったあんちゃん可愛いね可愛いね、友達を捨てるも何も世界には俺とあんちゃんしかいないんだよ。俺たちとこの世にははっきりとした境界線が見える。牧場の柵のようで友達と言っても柵の向こう側にいるやつらだ。でもあんちゃんは違う。いつだって俺の隣にいる。生まれた時からだ。俺はこの世の柵をいつか乗り越えて柵の中に入ってやる。「あんちゃん、一緒に寝よ」と手を引いて横になってあんずを背中から包むように腕を回す。髪の匂いをかぐと、俺と同じ匂いで安心した俺はそのまま眠ってしまった。


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