#006:非情かっ(あるいは、探そうぜ掴もうぜG★ボール)

「……2億。2億らとぉ?」


 年末の宝くじくらいのお金。うん、初夢くらいのドリーム感はあるわね。


 むくりと顔を上げた私に、びびくぅっ、と再びのけぞるアオナギだったけど、私は構わずその蒼白い髭面に、自覚出来るくらいのアルコール臭を帯びた桃色吐息をもはぁと吐きかけながら言葉を紡ぐ。


「てつゅめぇ。てぃてみんひゃい」


 呂律が回らな過ぎて、何を言ってるか自分でも分からなくなってきたけど、まあ要説明ってことね。


「……だ、ダメ人間コンテストは、ダメ人間同士が己のダメを武器にして戦う、いわば格闘技的な側面を有したものなんでげす」


 アオナギは、私がずいと鼻先に突き出したお猪口に冷酒を注ぎながらそう言う。格闘技?


「『格闘技』って……こうゆう?」


 言いつつ私は立てていた左膝を鋭く伸ばし、座卓の下に蹴り込み入れる。その先には正座から膝立ち状態でお酌していたアオナギの無防備な股間があったらしく、鈍い手ごたえ(足ごたえ?)と共に、ぺるむきっ、みたいな断末魔を残して白目を剥いた。


「い、いやさ、ねえさん、ほんとに殴り合うわけじゃねえってばよぉ。とゆーか、そ、そういうの、やめましょうぜ?」


 お茶漬けをざぶざぶ掻き込んでいた隣の丸男が、怯えた顔でそう懇願してくるけど。お前は炭水化物を常に取り込んでないと死ぬのか?


「……基本のルールは、一対一での対局制だ……でげす。自分のダメエピソードを交互に撃ち合うのでげす……各々に許された持ち時間は一手30秒未満。ただし1分単位の考慮時間が10分ずつ設けられている、で、げす」


「基本が守られるこたぁ、そうそう無いんでげすがね? ま、ねえさんならそんな些末事、意に介しやせんでげしょうけど」


 ふっ、と現世に戻ってきたかのように続けるアオナギの言葉に、畳みかけるようにして丸男。


 内容はともかく、「げす」って語尾が被ってたら、どっちが喋ってるか分かりづれえだろうがぁっ、と、今度は両手を腰の後ろで突っ張り、両脚を投げ出すようにしてダブル金的をお見舞いする。こぎとっ、と、えるごすむっ、みたいな呻き声を上げて悶絶する細いのと丸いの。


「た、対局は一手ごとの交替制でげす。先手後手のDEPが出揃ったところで評価が下され、敗者にはペナルティが与えられる……でやんす」


 めげずにアオナギが続けるが、「やんす」と修正してきたか……なかなか大脳を使うじゃないの。「DEP」が何かは分からないし、「ペナルティ」がどんなもんなのかも知らないけど。


 ……ま、どうでもいいのよ、些末事は。


「……己のダメエピソード、『DEP』を電流に変換し、相手のケツにキツい一撃を食らわし合う……それが、ダメ人間コンテストなんでげ……やんすっ」


 丸男が満面の笑みで手もみをしながらそう高らかにぶち上げる。


 電流。何か、ヤバそう感はちらちら垣間見えてきているけど、何つっても2億だしね。

 ……面白い。


 それよりもお前も「やんす」に変えてどうすんだよっ、と、右かかとを丸男の股間に当て、高速の振動を発生させる。


 オバヒぃぃぃぃぃぃ、との謎の叫びと共に、今度は丸男が白目を剥いた。

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