【第13話:魔人族】

「さぁ……残っているのはサイクロプスと……そこの魔人どもか?」


 空を見上げてオレが投げかけた言葉に、返事は攻撃となって返された。


 一斉に空に大きな赤い魔法陣が5つ浮かび上がったかと思うと、人族には扱えない魔法が放たれ、無数の炎の手がうねりながら次々とオレに襲いかかってきた。


「く!? 何とか距離を詰めないと厳しいな!」


 魔人たちの個々の強さは脅威というほどではなさそうだが、中々練度が高く連携が取れており、魔法で空を飛んでいるために中々距離を詰めれなかった。


【魔人族】


 魔人族には人族と同じようにいくつもの種族が存在する。


 大きく強靭な肉体を持ち、巨大な武器を振り回すような戦い方を好む【鬼人きじん】と呼ばれる者たち。


 今回襲ってきているような大きな魔力を保持し、人には扱えない強力な魔法を操る【慟魔どうま】。


 小柄で力は非力だが敏捷性に秀でており、諜報や暗殺に暗躍する【童扇どうせん】。


 他にも少数派の種族が多く存在していた。


 ただ、その魔人が住民の大半を占める国『魔人国ゼクストリア』は、この島がオドムと呼ばれていた頃から他国との国交を絶っているため、あまりその詳細は知られていない。


 魔人国ゼクストリアは、先の魔王が討伐された事で領土の半分を失ってはいる。

 だが、魔人族は個々の戦闘能力が他の種族より秀でており、ゼクストリアは少数精鋭とも言える軍隊によって未だ強力な軍事力を保持し、今でも滅びず世界の脅威として恐れられている。


 今回の件も含め、『世界の揺らぎ』は恐らくゼクストリアが主導している可能性が高い。


 まぁこればかりはまだ情報が少ないし、『ハグレ』と呼ばれるゼクストリアを出た魔人たちもいるので予想の域を出ないのだが。


「しかし、厄介だな……以前の技や魔法が使えれば……」


 魔剣を抜いた事でオレは聖魔剣レダタンアの力を使えるようにはなっている。


 しかし……オレはあの時、位階レベルを全て失っており、今の位階レベルは4だ。

 少し強いCランク冒険者程度の力しかない。


 全てを失ったオレは、この15年低ランクの依頼をこなしながら平穏に暮らしてきた。

 そのツケが今オレに重くのしかかっていた。


≪黒を司る穢れの力よ、我が魔力を贄に荊棘となりて怨敵を貫け≫


咎人とがびと荊棘いばら


 聖魔剣レダタンアの力も加わり、無数の黒き荊棘が空中に浮かぶ魔人たちを捉える。


「ぐっ!? なんだこいつの魔法は!?」


 しかし、浮かんでいた高さがそこまで高くなかった事もあり、地面に叩きつけられた魔人ですら目立ったダメージはみられなかった。


 でも……地面に降り立った。それで十分だ。


「グラウンドストライク!」


 一番近くに降り立った魔人との間合いを詰めると、剣技を発動させて真上から叩きつけるように切り裂いた。


 と、同時に足元に小さなクレーターが作り出される。


「ば、馬鹿な……き、貴様、なにものなんだ!?」


 物言わぬ体になった仲間と、その足元に出来た小さなクレーターを見て1人がそう叫ぶ。


「なんだ? 自己紹介して欲しいなら先ずは自分からしてくれよ」


 お道化て言葉を返しながら、


「サークルスラッシュ!」


 振り向きざまに放った剣技で、その叫んだ魔人を上下に分断する。


 あの時、位階レベルを失い、適応属性が光から闇に変わってしまったために魔法までも失った。


 だが……剣の技だけは失っていなかった。


「ヴォーパルスト……!?」


 次の剣技を放ち、このまま先に魔人を全て潰してしまおうとした時だった。


 後方から放たれた強力な雷撃により、剣技をキャンセルして一度距離を取ることを余儀なくされた。


 体高5メートルに届く巨躯。

 大きな一つしかない目でこちらを見据えた単眼巨人サイクロプスが、殴るような動作で雷撃を次々と放ってくる。


「やはりサイクロプスは操られているのか」


 このタイミングで的確にオレだけを狙って特殊能力の雷撃を放ってきたという事は、単なる扇動ではなく完全に支配し操っているという事だろう。


 まるで……魔王軍だ。


「少人数を敵地に派遣し、現地で確保した魔物の軍勢を操って攻め込む。考えただけで恐ろしいな……」


 敵国に攻め込ませたい魔物をあらかじめどこかで倒しておき、特殊な魔法で死体を処理。

 その死体を貴重な空間拡張された魔法鞄などを用いて大量に現地に運び、そこで死体を取り出して霧散させる。

 あとは暫く待てばその魔物が次々と発生するので、それを何らかの方法で操って魔物の軍勢として攻め込む。


 最後の「魔物を操る」という部分が、単に扇動しているだけなら、まだ冒険者や常駐している街の衛兵でも何とか対応できるかもしれない。

 しかし、統制の取られた魔物の恐ろしさはで嫌と言う程思い知らされている。


 このままでは、今の王国の防衛体制では防ぎきれなくなるだろう。


「でも……せめて世話になったこの村ぐらいは守らせて貰う!」


 残りの魔人にまた空へと逃げられたため、作戦を変更してサイクロプスに向けて疾駆する。


 次々に放ってくる雷撃を左右に躱して何とかサイクロプスに近づこうとするのだが、後方上空から3人の魔人が魔法を放って邪魔してくるので思うようにいかなかった。


 この剣を抜き放った今のオレならサイクロプスに大きな傷を負わせることも難しくない。

 しかし、挟撃されているこの状況でサイクロプスを倒し切るのは難しく、時間だけが過ぎていった。


「腑抜けて平和を謳歌していたつけが大きいな……」


 オレは薄っすらと額に汗を浮かべ、一人愚痴をこぼしながら何か良い策はないかと考えていると、こちらに間断なく魔法を放っていた魔人が突然地面に叩きつけられる。


「ぐがぁ!?」


 いまだ上空には暴風が吹き荒れており、強力な風属性の魔法で攻撃されたのが見てとれた。


「今よ!!」


 オレもせっかく訪れたチャンスを逃すつもりはなかった。

 その声が聞こえたのと同時にサイクロプスに目掛けて上位剣技を放つ。


「セブンズストライク!!」


 霞む剣速で7つの斬撃を叩き込んで下半身を吹き飛ばし、崩れ落ちてきた頭を逆袈裟に斬り上げると、驚愕の表情を見せて霧散するサイクロプスをその場に残して振り返る。


 続いてまだ倒れている魔人たちを視界に捉えると、闇を纏った剣で横薙ぎの一線を放って3人纏めて息の根を止めた。


「終わったか……」


 そして、こちらに視線を送る少女と向き合う事になるのだった。

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