【第10話:その正体】

「真実を見抜く魔眼……アーキビスト……」


 真実を見抜く? それってどういう意味だ?

 オレの過去に起こった出来事までわかるという事か?


「……ッドさん! テッドさん? どうしたの?」


 リシルの呼びかけに我に返ったが、少し混乱してしまったようだ。

 しかし、オレってこんなに弱かったのか?


 それとも……弱くなったのか……。


「ちょっと混乱していた。すまないな」


「気にしないで。でも、だから私にはわかるのよ。あなたが……」


 リシルがその言葉を発しようとしたその時、2度目の轟音が響き渡ったのだった。


 ~


 その轟音は先ほどの祠が破壊されたような音とは違って、何かもっと別の音だった。


「今度は近いぞ!?」


「いったいなに!? 何が起こっているのよ!?」


 周りにいた村人たちが怯え、叫んでいた。

 その混乱は別の者の不安を煽り、恐怖に変わっていく。


 15年前、まだ世界が戦禍に見舞われていた頃ですら、この村は幸運にも直接の被害を受けなかった。

 それはつまり、この村のほとんどの者は戦いを知らないという事だった。


 群衆の混乱と言うものは、時に勝てる戦いに不要な被害をもたらす。

 何とかしなければ……しかし、そう考えたのはオレだけではなかったようだ。


≪緑を司る解放の力よ、我が魔力を糧に風となりて声を届けよ≫


とどろく風≫


 リシルの詠唱により現れた緑の魔法陣は、一陣の風を生み、村中にその声を届ける。


『みなさん! 落ち着きましょう! 私はリシル。Bランクの冒険者です! 村を覆う守護結界はいまだ健在ですし、この原因となっている事にも心当たりがあります。私はこの村の者ではないけれど、同じ冒険者のテッドさんと協力して必ずこの村を守ってみせます! 魔物が襲ってきた時の訓練はしていませんか? 訓練通りやれば大丈夫です。皆でこの事態を乗り越えましょう!』


 何だかリシルが眩しかった。


 最初は突然聞こえてきたリシルの魔法音声に皆ただ驚いていたが、遅れてその言葉を理解する。

 先ほどまでいだいていた恐怖と混乱は姿を消し、代わりに希望と勇気の芽が息吹いていた。


「そ、その通りだ! みんな年に1度の訓練通り行動しようぜ!」


 ゴドーも自身の仕事を思い出したかのように忘れていた声をあげ、丁度よいとばかりに高い櫓の上から指示を出し始める。


「女子供と老人は、村の集会所に! 自警団に所属している者はそれぞれ武器を取って一旦門の所まで集まってくれ!」


 こいつも出会った頃は新米の衛兵だったな。いつもおどおどしていたのに立派になったものだ。


「ちょっとテッドさん! 何そこで遠い目してるんですか!? 私たちも働きますよ!」


 ちょっと感慨深い気持ちになっていたら怒られてしまった……。


「あぁ……すまない! セナ! 悪いが今から話す事をギルドでサクナおばさんに報告しておいてくれないか」


「わ、わかったよ! それぐらいは任せて!」


 今、事態が動いている状況で音に近いこの場を離れるべきではないと判断し、調査依頼の件や、セナ自身の救出の件、この事態の原因は人為的なものである可能性が高い件などを掻い摘んで説明したので、あとはギルドに報告に向かってもらう。


「それじゃぁ頼んだぞ!」


「ほ、報告内容が難しいよ!? 一応、報告するけどテッドさんも後で報告してよね!!」


 掻い摘んで説明したつもりだったが、ちょっと色々詰め込みすぎたようだ……。


「はは。わかったよ。とりあえず急いで頼む!」


 ギルドへの報告の件が済むと、待っていたのかリシルが近寄ってきて小声で話しかけてきた。


「もう終わった? あまり他の人には聞かせれないから……」


「例の組織の件か? それとも今の状況についてか?」


「組織の件もだけど……両方ね」


 表情を変えずにそう言うのだが、何か不味そうな感じだ。


「まず、例の組織は確実に来てるわ。私が魔眼『アーキビスト』で確認した感じだと構成員は5人だから少ない方なんだけど、その代わりに揺らぎで発生する新たな魔物が問題だわ……」


「凄いな。新たに発生するようになった魔物の種類までわかるのか??」


「私のアーキビストは未来は見えないし特別な予測も出来ないけど、過去に起こった事は全て知る事ができるの」


 やはり十分に凄いと思うが、未来が見えると色々と生きにくくなりそうだから、過去だけで良かったかもしれないな。

 オレなら未来なんてものが見えたら、見えた未来に肝心のが振り回される自信がある。


「これは私しか知らない情報なんだけど、現象としての『世界の揺らぎ』を起こすのはそれほど難しい事じゃないの」


 そんな情報、一介の冒険者のオレはあまり聞きたくないのだけれど、今はそうも言っていられないか。


「魔物を倒すと暫くすれば元の魔力となって霧散するでしょ? だから死体の残るような特殊な魔物以外は、その死体を遠くに持ち運ぶことはできない。でも、それを可能にする魔法を奴らが編み出したようなの。霧散する前にね、状態保持が出来る魔法を使うのよ」


「そんな魔法があるのか。と言うか編み出したのだったか。でも……死体が持ち運べるようになって何の得があるんだ?」


 研究などには役立つだろうから、王都の魔物研究者なら喉から手が出るぐらい欲しいだろうが……。


「そうね。でも、その消えるはずだった場所ではなく、まったく別の地でその状態保持魔法を解いたらどうなると思う?」


 この話の流れで切り出すんだ。もう答えはわかっているが……。


「そ……それが『世界の揺らぎ』という現象の正体か……」


「うん。そして今回奴らは厄介な魔物の死体を用意してきたみたいなのよ」


 もうその話し方だと嫌な予感しかしない。


「あまり聞きたくない話だけど、聞かせてくれるか? その奴らが用意した魔物の死体ってのは何なんだ?」


「オーガや戦闘蟻ウォリアーアントなどのランク3の魔物と……ランク6の単眼巨人サイクロプスの死体よ」

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