【第3話:ギルド依頼】

 オレは怒るセナを宥めて冒険者ギルドから連れ出した後、村で唯一の鍛冶屋に来ていた。


「おやっさーん。頼んでおいたもの出来てる?」


 村のはずれのこんな立地でも何とかやっていけているのは村で唯一の鍛冶屋というのもあるのだが、元々大きな都市の工房で働いていたので腕は確かだというのも大きかった。


「ん? なんだテッドか」


「なんだとは失礼だな。そんな愛想のない接客してると客こなくなるぞ」


 オレが愛想のない返事に突っ込むと、おやっさんは


「うるせーな。オレは鍛冶屋だ。武器や道具は売っても愛想は売ってねーんだよ」


 と言いながら一人でニヤニヤしている。


「なに上手く返してほくそ笑んでるんだよ……そもそも上手くもねーけど」


「うん。気持ち悪いね」


「く!? テッドはともかくセナに言われるのは嫌だな……」


 オレは良いのかよとまた突っ込みたくなるが、話が前に進まないので聞き流してもう一度頼んでおいたものが出来ているのか聞いてみる。

 すると、おやっさんはニッと笑って何も言わずに奥の工房に引っ込んでいく。


 後ろで「やっぱり気持ち悪いね」とかセナがまた呟いているが、可哀想だからおやっさんには内緒にしておいてあげよう……。


 それから程なくしておやっさんが戻ってくると、


「ほらっ。出来てるぜ」


 と言ってカウンターに、その髭面からは想像できないようにやさしくそっと小ぶりの剣を置く。


「ほら。冒険者になれたら武器を買ってやるって言ってただろ?」


 オレはそう言ってセナにカウンターの上の剣を受け取るように促す。


「えぇ!? 冗談だと思ってたのに本当だったの!?」


 なに!? 冒険者認定試験に合格したのを聞いて慌てて依頼したのに……。


「なんだ。いらないんならオレが受け取っちゃうぞ?」


 と剣に手を伸ばすふりをすると、セナは


「うわぁ!? うそうそ! いるいる!!」


 と言って慌てて剣をつかみ取っていった。冗談なのに……オレって信用無い……?


 しかし、ついこの間までオレの後をちょこちょことついて回っていたのに……子供の成長は本当に早い。

 その小さかったセナが剣を鞘から抜いて嬉しそうに振っている姿は思ったより様になっていて、ちょっと感慨深いものがあった。


「まぁ無茶な使い方しなければDランクの間ぐらいはずっと使えるだろうから、ちゃんと手入れして使うんだぞ」


「わかった! テッドありがと!」


 オレは現金な奴だなぁと思いながらもセナの頭をわしゃわしゃと撫でるのだった。


 ~


 鍛冶屋を後にしたオレは、今日の依頼をまだ受けていなかったのでもう一度ギルドに向かって歩いていた。

 ちなみにセナは既に受けている依頼があるようだったので先ほど別れている。


「しかし、大丈夫かなぁ。セナはしっかりしてるように見えてたまに無茶をするからなぁ」


 心配してももう冒険者になったんだから何があっても全て自己責任だと思い直し、オレはその日も依頼を一つ片づける事にする。


「サクナおばさーん。なんか急ぎの依頼とか、困ってる依頼ある?」


 オレはギルドに着くと、サクナおばさんにいつものように滞っている依頼がないか確認する。

 また「サクナさんとお呼び」というやり取りがあったが割愛しておく。


「そうだねぇ。特に困っている依頼はないねぇ……あ!? そうだ! ギルド依頼を受けてくれるかい?」


 ギルド依頼とは誰か依頼人などがいるわけではなく、各ギルド支部がその時の状況に応じて出しているギルドが発行している依頼の事だ。


「なに? 昨日オーク討伐やったからもう無いかと思ってたけど、また何かの討伐依頼でもあるの?」


 昨日受けたオーク討伐もギルド依頼だったので、もう当分ギルド依頼は無いだろうと思っていたのだが、こんな辺境の村で立て続けにギルド依頼があるとは珍しい事もあるものだ。


「討伐依頼じゃなくて調査依頼だね。昨日、メキダスの街の騎士様が来てね。ひと月前から異常な魔物の行動がみられるようになっているから気を付けるようにと」


 メギタスとは、このトーマスの村から一番近い町で、規模は比較的小さいが城壁もあり、常駐する騎士もいる立派な町だ。


「え? それって……」


「そうそう。昔魔王が誕生した時と似てるって話だからおっかないよ。嫌だねぇ」


 昔、魔人国で魔王が誕生した時も魔物の異常行動が各地で確認されていたので、この村の周りでも異常行動が見られないか調査して欲しいという話だそうだ。


「まぁ魔物の異常行動なんて、魔王とか関係なくたまに起こる事だからきっと大丈夫さ」


 オレはそう言ってサクナおばさんを安心させると、村周辺の魔物の調査依頼を受けたのだった。


 ~


 ギルドを後にしたオレは、村近くにある森の中のほこらに来ていた。


 祠は魔力の乱れのある所に、その乱れを軽減して鎮めるために建てられる事が多い。

 ここの祠も例にもれず、この周辺にわずかな魔力の乱れがある為に建てられたものだ。

 しかし、祠を建てても完全に魔力の乱れを鎮める事が出来るわけではない為、他所より魔物が発生しやすく、魔物の異常な行動を確認するにはちょうど良い場所なのだ。


 この世界の魔物とは、世界に満ち溢れている魔力を餌にしている生命体全般を指す。

 ただ、空気中の魔力だけでは魔物としての位階が上がらないらしく、人や動物、他の魔物を喰らう事で強くなっていくと言われている。

 ちなみに人の場合は魔物を食べても強くなることは出来ないが、魔物を討伐する事でその魔力を僅かだが取り込むことが出来、位階をあげて強くなっていく事ができる。


 この人族の位階の事はレベルと呼ばれる事が多く、人族の限界は10位階レベル前後だと考えられている。


「しかし、この村周辺は魔物が少ないから中々調査にならないな……」


 オレは結界石を使って身を隠すと、携帯食料をかじりながら長期戦の準備に入る。

 この辺りの魔物に見つかって襲われても返り討ちにするぐらい簡単なのだが、魔物を倒してしまうと調査にならないというジレンマが……。


 結局オレは、こうしてそのまま一晩祠の前で夜を明かす羽目になるのだった。

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