音楽に挫折し、音楽で立ち直った少年の物語

本編においては、「ルートム記」こそ白眉です。
音楽一家に育ち、フルートの演奏に行き詰まり、自分を劣等生と思いこんだケントはいつしか異世界に紛れ込みます。そこで出会うのは、音楽家のフーオ先生、浮浪児のハック。暮らしの中で世話になるハックのため、ついにケントは音楽に本気になり始める。そして、フーオ先生のコンサートで演奏することを宣言するが……。

現実世界での息詰まる思いを、ファンタジー世界で困難を越えることで乗り越えようとする王道の展開ですが、作者のキャラクターを愛しても甘やかしたりはしない姿勢により、努力を余儀なくされ、それにより成長していく姿が鮮明に描かれます。
青春群像ものの傑作といえる短編集。あなたはどの物語を気に入るでしょうか。