第21話 VSロジャー

 ヤバい。過去最大級にヤバい。なんとかして逃げなきゃ……

 そうじゃないと私が殺される。


「ララ。お前、何人殺した? いや、何人でも構わねぇ。貴様は悪だ」


 男が近寄ってくる。私は剣を作って男に向かって噴射する。しかし男は剣を容易く受け止めて、へし折る。


「随分と脆いな。この剣の強度はお前の心に依存するのか……怯えてる現在だと、こんなヘボ剣しか出せないと」


 心に関係? そうか! もしかして能力の動力源は感情! 私の感情が高ぶると生み出されるもの。そ能力に目覚めたのは恐らくホームズ先生へのなんかしらの感情が強くなったから。しかし、そんなことはどうでもいい。とりあえず感情を高めろ! なんでもいい。そうすれば奴を倒せるかもしれない!


「死ね!」

「……おせぇ」


 渾身の一撃も簡単に避けられる。男はどんどん近づいてくる。考えろ。身近な感情はなんだ。恐らく憎しみだ。誰に対する憎しみ? 全てだ。私を見殺しにした社会に意味も無く虐めたあいつら。全てが憎いし、殺したい!


「憎しみのヘイトリッド・ブレード!!」

「な!?」


 ありったけの憎しみを込めた一撃。それは弾丸並みの速さで飛んでいき、ロジャーの脇腹を抉った。しかし男はそれに怯むことなく立っている。しかし、ダメージは与えた。これなら殺せる! 私の勝ちだ! 楽しいわ! 楽しいわ!



「死ね死ね死ね死ね死ね!」


 私は幾つもの剣を生み出し、更に串刺しにす。この男、ロジャーは避ける気力も残っていないのか、全て受け止める。返り血が私に跳ねる! それが心地よい!


「……痛くも痒くもねぇ」

「強がりを!」

「お前の剣には意志がねぇ……なにかをしたいという意志だ……誰かを痛めつけたいという感情だけの攻撃。そんなの痛くも痒くもねぇわ!!」


 どうして? どうして、この男はまだ生きてるの? 全身から血だらけで動くのもやっとのはず。それなのに……


「いいか……騎士団っていうのはみんな誇りや信念を持ってるんだよ。誰かを守りたいとか、世界を良くしたいとか……だからお前らみてぇな自分のことしか考えねぇ悪党に負けるはずがねぇんだよ!」


 男が走りだし、うろたえるガブリエルの意識を一撃で奪い、一気に私を殴り飛ばす! 痛い! とても痛い! 頭がクラクラする! 許せない! こんなことをするなんて! 絶対にぶち殺してやる!

 私はロジャーの内部に剣を作りだし、一気に内臓をズタボロに切り裂く。しかしロジャーは眉一つ動かさない。そして息を切らしながら連続的に私を殴る。


「ウオォオォオォオォォォォォォォォォォォォォオラッ!」


 殴られて意識が飛びそうになる。なんとか顔を上げると、なんとロジャーの傷は全て塞がっていた。どうして!? なんで!? そんなのってありえない!


「……これが能力か。どうやら俺も能力に目覚めっちまったようだな。これは『傷を治す』能力。他人に使えるかどうか知らんが、ちょうどいい能力だ」


 クソ。少年漫画みたいに気軽に覚醒してるんじゃねぇよ。クソが!

 私もなんとか立ち上がり、ロジャーの方を見る。簡単だ。あいつは回復する。それなら首でも跳ねて即死させればいい。私の憎しみのヘイトリッド・ブレードなら間違いなくロジャーの首を跳ねられる。


「改めて聞く。お前は今まで何人殺した?」


 何人殺した……か。世間での扱いは五人。お父さんとお母さんを殺したのはホームズ先生、ガブリエルは生きている。ファニーはルナさん。その彼氏はファニー自身の手で殺させた。


「0人ね」

「この下種野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「憎しみのヘイトリッド・ブレード!!」


 ロジャーが飛びかかる。私が剣を飛ばす。剣は見事にロジャーの腹を貫通して、壁に突き刺さる。それから真上に剣を作りだし、剣雨を降らせる。大量の剣をロジャーを襲うが、傷口はすぐに塞がっていく。そしてロジャーは走り込み、私の頬に右ストレートを叩き込んできた。


「……ぐへほっ!」

「0人? それが本当だとしても、お前が下種野郎ってことに変わりはない。そして紛れもない悪だ」


 うるさい。黙れ。

 一気に剣を飛ばして、ロジャーの腹を抉る。しかしすぐに傷口は塞がる。だけど起き上がる時間が稼げれば、なんでもいい。


「悪か正義かなんて、そんなのくだらないわ。自分がしたいことをする。そのなにが悪なのかしら?」


 くだらない。あまりにくだらない問題過ぎる。ウザイ。もう声も聴きたくない。

 この男は八つ裂きにしてやる。


「でも強いて言うなら、勝者のことを正義と言うと私は思うわね」

「……くだらねぇのはそっちだな。いいか? 悪って言うのは法を破るやつのこと! そして人殺しのことを言うんだよ!」

「人を殺すのと、食事をすることの違いってなにかしら?」

「……気分が悪い。お前と話すだけ無駄だ。だけど一つだけ勉強になった。お前のお陰で初めて生かしておいてはいけない人間がいるということを理解したっ!」


 バンッ! そんな音が部屋に響いた。私は自分のお腹を見る。するとジワジワと血が流れ始めていた。痛い……熱い……

 ロジャーの方を見ると彼の手には拳銃が握らている。


「今までは殺さねぇようにと頑張っていたが、ワケが変わった。お前は生きてちゃきけないやつだ。ここで殺さねぇと被害者が増える。恨むなら俺じゃなくて、人を殺した自分自身を恨むんだな。いいか? 人殺しの最後は必ず殺されて終わるんだよ」

「……やだ……死にたく……ない」

「お前はそう言った人間をお何人殺した?」


 やだ! やだ! 死にたくない! 私はまだ生きたい! なんでもする! 殺人もしないし、心も入れ替える! だから……生きさせて!


「言いたいことは分かる。だが、お前はダメだ。罪を犯しすぎた」

「……い……きたい」


 そんなときだった。ぎぃぃぃぃと扉が開いた。私は薄れていく意識の中で頑張って状況を把握しようとする。


「……コ……どう………………ここに!?」

「助け…………める声…………したからかしら」


 意識がフラフラする。音もまともに拾えない。私は死ぬのかな? やだなぁ。死にたくないなぁ。一人になりたくないなぁ……

 そんな中で私の体が誰かに腕に抱き抱えられる。どうしてだろ? とっても安心する……まるでお母さんみたい。


「ララちゃん。生きたい?」


 女の人の声が聞こえる。誰の声だろう。私は擦れていく意識の中で、答える。


「……うん」


 生きたい……まだ、生きたいよ……


「本気か!? リコ!!」

「ええ。あなたを人殺しにはしたくないもの。それに生きたいと言う人間が死ぬのは間違ってるわよ。それが最低の悪人だろうが生きたいと願ったのなら生きるべきだと私は思し、その人が生きるために私は全力を尽くすわ」


 ああ……この人はリコか……

 私は消えゆく意識の中で最後に思ったのは、それだけだった。


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