第18話 逃げられない

「……この街も久しぶりね」


 徒歩で約三日。私は遂に生まれ街に帰ってきた。ここに私から全てを奪った忌々しい奴らがいる。彼女たちの腸を抉り、顔を踏みつけて謝罪させることを考えると気分が良い。


「でも、復讐は後回し。まずは美味しいものを食べるべきね」


 私は顔をフードで隠しているので、人とすれ違って悲鳴をあげられることはない。もっともこの可愛さが分からない罪人なんで腸を路上にいぶちまけて、竈で焼かれればいいのだが。それこそホームズ先生が教えてくれたヘンゼルとグレーテルの魔女のように。


「もっともお菓子の家なんて、この世界じゃ当たり前だけど」


 私は近くの草木を引っこ抜いて食べる。味は爽やかなミント。この世界はお菓子で出来ていて殆どのものが食べれるのは良いことだとホームズ先生が言っていた。しかしそんなのホームズ先生の生まれ故郷も同じだと私は思う。

 だって、人もお菓子じゃないか。人だって食べれるじゃないか。


「子供の指ってビターチョコレートの味がして美味しそうよね。ここで準備運動も兼ねて三人くらい殺そうかな? いや、メリットよりデメリットの方が大きいか」


 想像力が足りない。私は何度もそう言われた。そこで想像力とはなにか考えた。それは未来を考える力だと思った。もしもここで子供を殺して、指をもぎ取って舐める。そうすると騎士団が来る。そして騎士団を殺す。すると、やがて国が襲いかかってくる。だから国を滅ぼす。そしたらつまらなくなる。なので殺さないのだ。それが分かる私という人間はとても賢いと思う。


「そこのお嬢さん! イキのいい『たい焼き』はどうだい?」

「たい焼き……」

「美味しいよ。それとおじさん実はオタクなんだよね。こんなにイケメンなのにオタクなんだよね~」


別にイケメンでもなんでもない。どちらかというとニキビが汚いブサイクだが、どうでもいいか。それよりたい焼きが少し美味しそうだ。しかしお金は無い。


「若いころなんてモテモテで、それに頭の回転も速いから騎士団へのスカウトが来るくらいだったんだよね。しかも握力は31キロ! いやぁこれでオタク! 俺ってすごいしょ。オタク舐めない方がいいよ」

「……イキがいいのは『たい焼き』だけで充分だわ」

「あと俺が怒ると気づいたら周りが血だらけになって倒れてるんだよね」


 たい焼きがピチピチと跳ねている。たい焼きという生き物は羽が生えていて、上空5m付近を飛び回る魚。捕獲難度が高い生物であり、それを大量に捕獲するおじさんの腕前はかなりのものだろう。

 ちなみに骨が無く、体内には血液の代わりにちなみにメスはクリーム、オスはあんこが流れている。


「一袋分くださる?」

「おいおい。冗談はよしてくれよ……一袋のたい焼きなんて大人一人が必死に働いて、買える金額になる……ってお前! なんだその顔は!!

「……もう一度言うわ。一袋くださる?」


 約三秒の沈黙。とても残念だわ。聞かれたらすぐに答えるという義務教育レベルのことすら出来てなくて非常に残念だわ。私はとても悲しい。大人にもなって、そんな簡単なことも出来ないなんて。


「……グハッ」

「ごちそうさま」


 私はたい焼き一袋と少しばかしの金銭を頂いて、その場を後にした。男は血を吐いて、倒れている。それから周りの人は異常に気が付いたのか男の元に寄ってくる。体内に割り箸程度の大きさの剣を作って内蔵を切り刻んだだけで随分と大袈裟だ。

 さすがにこの程度では人間という生き物は死なない。というより死なれたら騎士団が動き出すから困る。


「うん。やっぱり甘い物は美味しいわね」


 たい焼きを食べながら久々の観光。この街は良い街だ。食べ物も美味しくて人の笑顔が溢れている。あとは虐めなんてふざけたことをする輩がいなければ完璧なのだが、世の中というものはそう上手くはいかない。だから私がキレイにしなければならない。それが人としての義務なのだから。


「残すは三人。さて、誰から始末するべきかしら?」


 復讐の方法は色々と考えた。たしかにガブリエルのように精神的に痛めつけるのは凄く楽しい。しかし一番楽しかったのは金属バットで叩いていた時だ。つまり直接殴る方が楽しいのと私は思う。それに今回はルナさんもいない。つまり全てを自分一人でやる必要があるわけだ。


 しかし難しく考えても分からない。ならやることは一つ。とりあえず殺しちゃえ。というよりそれしかないだろう。手段は背後から剣で串刺しで充分だろう。そう思っていた時だった。


「この街は国内でも五番目に大きい街。そして人口は約一万。誰も私とすれ違ってもララだとバレることはない……なんて思ってないかしら?」


 帽子で顔を隠した女がすれ違いざまに私に話しかけてきた。

 私はその声を聞いて驚く。なぜ彼女がここにいる!

 リコがここにいるのだ!


「……あの程度のフェイクで騙せると思ったなら随分と舐められたものね。少しお話しましょうか? 人殺しちゃん」

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