第17話 ララ第二形態

 私に突き付けられた二つの選択肢。別に生きたいわけじゃない。しかし死にたいわけでもない。私は信じる人間を間違えた。

 しかし不思議と、その選択に後悔はなかった。


「ホームズ先生はどうしようもないクズです」

「ふむ……つまり死ぬと?」

「いいえ。それでも私を助けてくれたのは貴方。たとえ実験だとしても私にとって貴方は光……だから貴方が望むままに」


 私の足元が光る。そこから剣が生えてくる。

 大きな剣で、それは容易く私を八つ裂きにするだろう。


「驚いた! まさか能力に目覚めるとは! 君は器に選ばれたのか!」


 この剣がなんなのか分からない。なんで急に出てきたか。そんなの興味も無いし、知る必要もない。だだ、私は自由自在に剣を使えるということだけ覚えておけばいい。


「貴方が私に『死ね』と命じるのならば、この剣を喉に突き刺し、自害致しましょう」

 

 足元から更に五本の剣を生やす。それを喉ギリギリまで近づける。

 もしも少しでも動けば剣が喉に突き刺さるだろう。


「私が私を殺せると命じたら?」

「お望み通りに」

「では、その剣で私を八つ裂きにしたまえ」


 初めてのはずなのに、本能的に剣の使い方が分かる。

 周りにある六本の剣を浮かして、飛ばし、ホームズ先生に突き刺す。

 しかし、そこで普通ではありえないことが起こった。


 ――剣はホームズ先生をすり抜けたのだ。


 それこそ、まるで蜃気楼を殴るようなものだった。剣は当たらない。何度振るっても当たらない。


「二つ隠していたことを教えよう。私も君と同じ能力者。私の能力は無敵。如何なる攻撃も絶対に受けない」


 どうでもいい。ホームズ先生が何者だろうが、私はホームズ先生に従う。私はホームズ先生に盲目的に従う手駒になる。ただ、それだけだ。


「そして、もう一つ。ララ君の親を殺したのは――私だよ」

「そうですか」


 不思議と私はその事実を聞いて『どうでもいい』以外の感情が湧かなかった。先程まで、あんなに心揺さぶられたのに何故だろうか?

 もしかして私の中で大切なナニカが壊れてしまったのだろうか?

 そして、その結果として能力に目覚めた……


「そしてララ君。私の駒になるなら、その覚悟を見せなさい」

「なにをすればいいんですか?」

「そうだね……左目を抉ろうか?」


 私に迷いはなかった。剣を生み出して、それを勢いよく左目に突き刺す。私の拳くらいある剣先は左目どころか顔を半分抉る。辺りに血が飛び舞う。

 そして、それをホームズ先生はニヤリと笑って見ている。


「これ……でいいですか?」


 痛い。痛い。痛い。痛くない。痛くない。激痛が一周回って痛くなくなる。しかし段々と意識が朦朧としてきた……

 私はガタンと崩れ落ちる。顔の半分がないのだから無理もない。しかしホームズ先生が最後に呟いた『合格だ』の言葉だけは脳裏にこびりついていた。


 目を覚ますと、ベッドの上だった。恐らくあれから意識を失ったのだろう。それに点滴が腕に刺さっている。なんとか生き延びたという感じだ。


「ララ。目を覚ましたか」

「ガブリエル……」

「まさか、あんなに派手にやるとは思わなかったよ。まぁ鏡を見れば分かるだろう」


 私はガブリエルに渡された手鏡を見る。そこにいたのは化け物だった。右半分は普通の女の子の顔をしていて、左半分は黒いリボンでグルグル巻きにされている。 リボンは巻かれてるわけではない。残った右顔の半分の肉にリボンを絡ませて、上手く回して、体の一部として同化させている。まるで右半分の顔からリボンが生えたようだ。それこそ身体改造をしたと言っても過言ではない。


「……随分と私も可愛い顔になったね」

「まるで第二形態。顔だけじゃなくて雰囲気も違う」

「そうかもね。でも私はララよ? それと、この顔に使ったリボンを少し貰えるかしら?」

「いいけど、なにに使うんだい?」

「オシャレよ。女の子ってオシャレする生き物なのよ」


 私はガブリエルからリボンを受け取る。受け取ると同時に服を脱ぎ、能力の応用で私の指三本くらいの大きさの針を生み出す。そして鼻歌交じりに針にリボンを通し、それを腕に返し縫いしていく。


「コルセットピアスみたいだね」

「それを意識してるもの」


 黒いリボンは私の血が滲んで赤黒くなる。腕が終わったら、次は胸、続いて首元にも縫っていく。痛いけど、どうでもいい。これを見てホームズ先生は私のことを可愛いって言ってくれるかな?


「ガブリエル。私、可愛いかしら?」

「化け物だな。見てて同じ人間なのか疑わしくなる」


 そう言われて立ち上がり、今度は大きな鏡で自分の姿を確認する。

 その姿はとっても可愛らしかった。まるで一国の王女様にでもなった気分だ。今の私を見たらどんな男だってイチコロだ。


「ガブリエル。それじゃあ私は行くわ」

「行くってどこに?」

「復讐に行くのよ。私は人殺しの経験を積んで、もっとホームズ先生の役に立つ駒にならないといけないから。それに彼はリコって人に興味があるみたい。あとは言わなくても分かるよね?」

「了解。ホームズ先生には僕から伝えておくよ。良い復讐を」

「ええ」


 私はそうして、一時的にホームズ先生から離れて単独行動をすることにした。全てはホームズ先生のために。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る