第15話 夢のお弁当!


 絵理奈が笑顔のまま、俺のところに近付いてきた。

 長い髪をなびかせながら走ってくる姿を見た周囲の男達は、恵里奈に見惚れて視線が釘付けになっている。

 ……ちょっとイラッとした。本当小さな嫉妬だ。


「玲音くん、おはよう!」


「お、おはよう。どうした絵理奈、今日は会う約束してたっけ?」


「……特にしてないけど、やっぱりどうしても昨日のお礼を形にしたくて」


 モジモジしながら言う絵理奈が、すっげぇ可愛い!

 もうね、胸が苦しすぎて本当にしんどい。

 もうちょっと心拍数があがったら、俺は間違いなく死ぬね。

 しかし、昨日のお礼?

 正直メッセージアプリのIDを交換出来ただけで十分にご褒美なんだけど、さらに俺にお礼をしてくれるのか?

 でも、何をくれるんだろうか?

 気になるけど、建前として一回は断っておく事にした。


「いや、いいよ。お礼も言ってくれたし、今度一緒にゲームするんだろう? それでもう十分だって」


「それじゃ私の気が済まないの! だから、ささやかだけど、はいっ!」


 バックから出したのは、ピンク色の包みに包まれた物体。


「えっと、これは何?」


「私、あまり出来る事がなかったから、その、お弁当を作ってきたの」


「お、お、お弁当!?」


 マジで!?

 よく少年誌のラブコメ漫画でよくある、あの伝説のお礼のお弁当!?

 絵理奈が俺の為に、お礼の勉強を作ってきてくれたのか?

 どうしよう、本当に嬉しすぎて泣きそうなんだけど!!


 指をよく見ると、所々に絆創膏が貼ってある。

 おおっ、これもラブコメ漫画でよく見るよ。苦手だけど頑張って作って来たパターン。

 余計に嬉しくなっちゃうじゃないか!


「……嫌だった?」


「嫌じゃない嫌じゃない! 嬉しいよ、ありがとう、絵理奈!」


「……よかったぁ」


 不安そうな表情から柔らかい笑顔になる。

 そんな素敵な表情に俺は見惚れてしまう。

 だが、周囲の男も同様だったようだ。

 いやぁ、まさか弁当を作って貰えるなんてな!

 本当によかったよ、痩せて生まれ変わって!!

 でもなぁ、でもなぁ……。

 一つだけ問題があるんだよ。

 俺がどうしようかと思っている時、隣にいた田中が申し訳なさそうに手を挙げた。


「えっと、横からすいません、お姉さん」


「え!? えっと……」


「昨日はどうも。そう言えば名乗ってなかったっすね。俺は家入の友達で、田中 和也って言います」


「こ、これはご丁寧に……。わ、私は川原 絵理奈っていいます」


「それでですね、非常に言いにくいんですけど…………うち、昼食って給食出るんです」


「……………………えっ!?」


 ああ、やっぱり失念していたか。

 高校だと基本的給食ってないからなぁ。

 すっかり忘れちゃってたんだろう。

 完璧そうな美人なのに、ちょいちょい抜けているのも好きでたまらない。


 って、今はそうじゃなくて!

 田中がそう言った瞬間から、目に見えてはっきりと落ち込んでいる。

 どんどん力が失われていって、今にでも膝がおれそうな勢いだ。

 そりゃそうだよな!

 せっかく頑張って作ったのに、実は無駄でしたって知ったら俺だって落ち込むし!

 田中も申し訳なさそうに俺の方を向いて謝ってきた。

 ふぅ、仕方ない。

 ここは頑張るか。


「絵理奈、確かにうちの中学は給食だけどさ、いつも量が足りないなぁって思ってたんだ」


「え?」


「つまりだ。給食を食っても、絵理奈の弁当も余裕で腹に入るって事だよ」


「……ほんと?」


「本当だよ。元デブの食欲を舐めないで欲しいな」


 そう、俺は元々デブでかなりの量を食っていた男だ。

 今は体型維持の為に腹七分位で抑えているが、本来は楽勝なんだ。


「楽しみにしてるよ、絵理奈のお弁当」


「うん、ありがとう、玲音くん!」


 絵理奈の表情に満面の花が咲く。

 よかった、安心してくれたようだ。

 さて、この量はちょっとヤバイから、今日の放課後はジム行き確定だな。

 後は給食の後、何処で弁当食べようかな……。

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