第5話 生まれ変わる為に


 入学してから二週間が経った。

 俺はクラスメイトと仲良くなれていない。むしろ完全にハブられていた。

 現在俺は、いじめの標的とされている。

 見た目デブだし、金髪だしな。無駄に目立つから速攻で不良達に目を付けられた。

 クラスメイトにも、俺と話したら俺と同じ目に合わせると脅しているようで、誰も俺を庇ってはくれない。

 机には『デブ』だの『キモい』だの、ご丁寧に油性マジックペンで書かれていて、まぁそれでご満悦な表情をしていたんだ。

 はぁ、と溜め息が出る。

 まぁこの程度ならいくらでも我慢できるな。

 自慢じゃないが、前世はもっと酷かった。

 どれ位前かわからないけど、俺がまだ若かった頃、一時期とある犬が頭を張っていた群れに入っていた。

 しかし一番実力が低く、よく馬鹿にされていたもんだ。

 最終的には死ぬ一歩寸前までリンチされて、群れから追い出された。

 散々俺を好き放題引っ掻いたり噛み付いたりして重症を負わせ、それでポイだ。

 そんな経験があってか、俺は何とか生き延びて群れに属する事なく実力を付けていった。

 それで俺をリンチした群れを全員半殺しにしたっけなぁ。


 あの痛みと地獄を味わったら、この程度は精神的ダメージにもならん。

 俺は気にせず授業を受け続けた。

 終いには花が入った花瓶が机に置かれていて、「亭年、12歳」と書かれたメモすら添えてある始末。

 不良グループはそれはもういやらしい笑顔を浮かべていたよ。

 ……漢字、間違ってるのが笑えるな。享年が正しい。しかも実際使い方間違えてるんだけど。

 享年は天寿を全うした時に使うんだろうに。まぁ不良が頑張って背伸びして漢字を使ったんだから、微笑ましい限りだ。

 しかし随分と綺麗な花だなぁ。授業のちょっとした息抜きになりそうだ。

 家に持って帰って、俺の部屋で生けてみるか。

 母さんにプレゼントしようかと思ったけど、いじめ経由で得た花をあげるなんて流石に心苦しい。

 それに、俺を苛める為に不良達が早く登校して準備している様を見ると、なかなか微笑ましかった。

 うん、若いって素晴らしいね!

 いや、俺も人間としては若いんだけどね!

 花を眺めながら授業をするというのも、なかなか素敵な時間だった。

 先生が時たま「い、家入? その、さ。……大丈夫か?」と声を掛けてくれた。俺としてはこれ位何のダメージがないので「はい、問題ありません」と答えておいた。

 しかし、前世の体験でメンタルは鍛えられたのはいい事なんだけどさ、そう上手くいかないのが人間社会。

 この俺の受け答えがついに不良グループの逆鱗に触れたらしい。

 人間の生で、再び地獄を見る事になった。
















「がはっ!?」


 放課後、人通りが少ない校舎裏に呼ばれた俺は、何事か聞こうとした瞬間に腹を思いっきり蹴られた。

 何するんだコラと叫びたかったが、喋る暇もなく殴る蹴る等の暴行を受ける。


「テメェさぁ、自分の立場わかってる訳?」


 知らねぇよ、俺が聞きたいわ。

 なんて言いたいんだけど、何度も腹を蹴ってきやがって喋れない。

 

「おい、顔は狙うなよ。ボディだけをやれ」


 どっか昔のドラマで聞いた事ある台詞だな。

 といっても、有名女優の紹介のダイジェストで観ただけだけど。


「いやぁ、立浪君! こいつの腹、ぽよぽよしてるから蹴り心地いいよ!」


 立浪。確か下の名前は良平だったか?

 五人の不良グループの頭を張っている奴だ。

《良》って名前が入っている割には、こいつは随分正反対な性格してるじゃないか。

 って、ぐぎゃ!

 鳩尾を蹴りやがった。一瞬意識飛びかけたぞ……。

 くっそぅ、不意討ちなんてしてこなければ、こんな攻撃なんて避けられるのに!


「ちっ、泣きもしねぇのかよ。いいぜ、もっとやってやるよ」


 立浪は苛立ったのか、爪先で倒れてる俺の腹を蹴り飛ばした。

 奴の爪先が、俺の腹に食い込んだ


「ぐぼぉっ!!」


 あまりの苦痛に、俺はうずくまる事しか出来なかった。

 ちなみに今の俺の格好はパンツ一丁だ。

 一撃決められた後無理矢理脱がされたんだ。理由は簡単、制服が汚れていたら色々と面倒だからだ。

 顔を狙わずに身体のみにしたのも、外傷を服で隠せるようにしたからだ。

 本当、不良って頭の使い方を変な方向でしか使わないな。

 痛みに耐えながら、そんな事を思う余裕がある俺も俺なんだけど。


 さて、流石にやられっぱなしなのは癪に障る。

 反撃に出るとしますか。

 俺は起き上がろうとする。

 だが、腹の脂肪が邪魔をして、ゴロンと転がってしまう。

 うっそだろ、俺の身体ってここまで不自由だったのかよ!


「あははははははははは!! ダルマみてぇだったな、オイ!」


「やっべ、こいつ最高のサンドバックじゃね?」


「おいおい、サンドバックに失礼だろう? サンドバックは格闘家の役に立ってるんだしさぁ」


「あっ、こいつは何の役にも立ってなかったな、ぎゃはははは」


 好き放題言ってくれるじゃないか。

 俺は何とか立ち上がり、次の攻撃に備えようとした。

 すると間髪入れずに立浪が俺の腹にヤクザキックを入れてきた。


「がぁっ!」


 蹴りの勢いを足で踏ん張る事が出来ず、また無様に転がる俺。

 そして不良グループに笑われる。

 さらに何度も蹴りを入れてくる。

 畜生、俺が何をしたっていうんだ。

 本当に人間社会は、変に知恵がある分わかりにくいし、面倒だし、理不尽だなと思った。

 そして、二度目の鳩尾の蹴りを喰らい、俺は意識を失った。


















 意識を取り戻したのは、もう日が随分落ちた頃だった。

 俺は痛みに耐えながら制服を着て、いつもより倍の時間を掛けて帰宅した。

 なるべく両親には心配をさせたくなかったから、普段通りに振る舞っていた。

 多分気付かれていないはずだ。普通を装えていると思う。

 俺が折れなければ、きっとあいつらは飽きる筈。

 きっと俺のメンタルなら耐えてくれる。そんな風に思った。

 だが、二週間で俺の心は折れ始めていた。

 思った以上にこの体は痛みに耐性がなかったのに加えて、俺は随分と自分を過大評価していたようだった。

 前世では敵無しだったのは、強靭な野生の肉体だったからだ。

 今の俺はデブで思った以上に動けなくて、それなのに前世の記憶を引きずって「俺は勝てる」と余裕ぶっていた。

 死にはしないけど、毎回毎回こうも苦痛を味わうと今までの自信が根こそぎ奪い取られる。

 そんな状態で机に書かれた罵倒を見ると、結構心にダメージが来るんだ。

 日に日にエスカレートしていく暴力に、俺は負けそうになっていた。

 いっそ両親に打ち明けようか?

 でも、きっと父さんと母さんは転校させようとするだろう。

 せっかく事務所も作って仕事を頑張っている父さんに、多大な負担を与えてしまう。

 母さんだって、収録とかの仕事が忙しいのに、それを放ってまでして何かしらの行動を起こすに違いない。

 それだけは嫌だ。でも、これ以上の痛みも嫌だ。


「どうしたらいいかな、俺……」


 義務教育という鎖に縛られた俺は、逃げ道が転校しかなかった。

 俺は激痛と心のダメージについに歩く気力がなくなり、公園まで足を引きずって何とかベンチに腰掛けた。

 痛い、しんどい、痛い。

 もう今はそれくらいしか考えが浮かばない。

 いじめを軽く見すぎていた。

 いや、俺自身を本当に過大評価していたんだろうな。

 確かに俺は前世では様々な暴力を力で捩じ伏せて、群れの頂点に立った。それ故に生まれ変わって記憶をそのまま引き継いだ結果、肥大した自尊心と過剰なまでの自信も受け継いでしまった。

 さらには俺は前世でも後半は人間に飼われた事で平和に過ごしていた。人間の生でも良い両親に恵まれて平和だった。

 そう、俺は野生で磨き上げた牙は、とっくになまくらになっていたんだ。


「はは、今さら気付くなんて、情けねぇ」


 前世は前世、今は今。

 今の俺は力のないただの金髪デブ。

 自分が驕っていた事が情けなくて、悔しくて、涙が溢れてきた。

 ああ、そう言えば前世での最期の時に見た、俺を大事に飼ってくれた小さな人間の顔。きっとあれは俺が死ぬのが悲しくて泣いてくれてたんだな。

 そっか、俺はそれだけあの子の大事な存在になれていたんだな。

 でもまぁ、今の俺は誰の大事な存在になれていないんだろうけど。

 悔しい、悔しいなぁ……!


「あ、あの……大丈夫?」


 突然隣から話しかけられた!?

 しかも女性!


「うわっ!?」


「きゃっ!?」


「い、いつからいた!?」


「えっと、最初から、だよ?」


 気が付かなかった。

 じゃあ俺の独り言も聞こえてたって事か?

 うわ、恥ずかしい!

 

 とりあえず、俺は彼女の顔を見た。

 そして見た瞬間、惹かれた。


 一言で言ったら清楚。

 綺麗で艶やかな、少し色が抜けて光が当たると栗色に見える長い髪。

 ぱっちりしている目に澄んだ瞳、綺麗に上を向いた睫毛。

 見た目は俺より年上だろう。こんな美人、中学では見た事ないし。

 そんな綺麗な彼女が、俺を心配そうに見ている。

 心臓の鼓動が高鳴るのを感じる。


「とりあえず、はい」


 彼女が鞄からハンカチを取り出して、俺に差し出した。

 俺は意図が全く読めず、おどおどとしてしまう。


「涙、これで拭いていいよ?」


 ああ、そういう事だったのか。

 薄いピンク色のハンカチだったが、あまりにもおそれ多くて俺は首を横に振って否定した。


「遠慮しなくていいから」


 だが意外と彼女も強情で、自ら俺の涙を拭いてくれたのだ。

 心臓が高鳴りすぎて、一瞬鼓動が止まったような感覚に陥った。

 何だこれ、ナンダコレ!?


「はい、これで大丈夫」


「あ、え、あ」


 お礼が上手く言えない。

 こんな美人さんに涙を拭いて貰ったんだ、緊張しない訳がない。


「何か、辛い事があった?」


「…………まぁ」


「だよね。辛い事があったら、一人になりたいよね」


「…………ええ」


 そう、一人になりたいんだ。

 綺麗なお姉さん、申し訳ないけど一人にして欲しい。

 その気持ちを察してくれたのか、お姉さんは立ち上がった。

 そしてこの場を離れようとするが、突然立ち止まる。


「……一つ、お節介しちゃうね」


「?」


 お節介?

 何をするんだ?

 するとお姉さんは振り返って俺の所までまた戻ってきた。

 そして、俺の頭を撫でた。

 あまりにも突然の行動に、ビックリして口が開いてしまう。


「!!??」


「辛い時はね、沢山泣くといいよ」


「……沢山、泣く?」


「そう! 泣くとね、不思議とすっきりして、一回辛い気持ちがリセットされるんだよ。リセットされたら、頭が冷静になってどうするべきかって考えられるから」


 そういう、もんなのかな?

 俺は生まれた瞬間と、生後数ヵ月以外ではほとんど泣かなかった。

 だから辛くて泣くという経験は、今回が初めてだった。

 でも男は泣いちゃダメだってよく周囲が言っているから、人間社会ではいけない事かと思っていた。


「せっかく備わっている大事な感情なんだもの、押し殺す方が心に負担をかけちゃうんだよ」


「そういう、もんですか? 男は泣いちゃダメってよく言いますけど」


「そんなの、私から言わせれば古いよ。辛い時は泣いて発散する。押し殺す必要なんてないよ!」


 彼女が綺麗な顔をくしゃっとして、白い歯を見せて笑う。

 あれ、この笑顔、どっかで見た事あるぞ。


「少なくとも、私はそうやって辛い事を乗り越えて来たよ」


「お姉さんも?」


「うん。昔可愛がっていた犬が死んじゃった時も、泣いて泣いて泣きじゃくって何とか乗り越えたし。今も――進行形で頑張ってるよ!」


 お姉さん、今何か辛い事抱えてるのか。

 辛いのに、そんな笑顔を浮かべられるんだな。

 強いな、この人。


 ふと、風が吹く。

 その時に入学式の時に嗅いだ、あの香りがした。

 懐かしくて、とても安心できる好きなあの香り。

 そして思い出される、俺を可愛がってくれていたあの小さな人間。

 それに、あのくしゃっとした笑顔。

 まさか、まさか――


「私はかわはら えりなって言うの! 川の原っぱに、糸へんに会うって書いて《絵》、理科の《理》に奈良の《奈》って漢字で書くんだよ」


 川原、絵理奈。

 そうだ、何度も大きい人間、今思えばあの子の親が彼女をえりなと呼んでいた。

 それにこの懐かしい香り。覚えているさ、明確に!

 何故なら、その香りがする彼女に抱かれて、俺は前世を終えたんだから!

 このお姉さんが、前世の俺の飼い主!


 驚いた。

 こんな美人に育ったなんて、本当ビックリだ。

 そして、成長したのに香りが変わっていない事にビックリ。

 

「君の名前は?」


「お、俺は……家入、玲音。王偏に命令の令、音って書いてれおって読むんだ」


「素敵な名前だね、玲音くん!」


 彼女に、絵理奈に名前を呼ばれた瞬間浮かび上がってくる、前世の記憶。

 ひたすられおって呼んで俺の名前を呼んでくれていたよな。

 俺は彼女の笑顔が、本当に好きだった。

 そしてこんなに美しくなったのに、その笑顔は変わらない。

 ああ、安らぐ。

 さっきまでの陰鬱な気持ちが吹っ飛んでしまった。

 まさか、前世の飼い主に会えるとは思わなかった。


「辛くなった時に私、よくここに来るから、また会えるかもね!」


 彼女はそう言って、手を振って去っていった。

 俺は呆気に取られていて、手を振り返す事は出来なかった。

 だって、胸の高鳴りが酷いし、彼女から一切目を反らす事が出来なかったんだ。

 喋る事すら勿体無いと感じる位、ずっと見ていたかった。

 何だろうか、この感情……。

 胸が締め付けられて息苦しい、でも嫌いじゃないこの気持ち。

 前世で一度も味わった事がないから、余計に戸惑ってしまう。

 だけどこの感情のおかげで、陰鬱な気持ちが吹っ飛んだ。

 いや、むしろ打開策を見つけた。

 俺は痛む身体に鞭を打って、尊敬できる両親が待つ家へ帰った。














「長くて二ヶ月、学校を休みたい?」


「うん」


「どういう事だい、玲音君?」


 と、父さんの日本語、七年ぶりに聞いた気がする。

 俺は意を決して、今まであった事を全て両親に話した。

 そして上半身裸になり、身体中に出来た痣も見せた。

 父さんは息を飲み、母さんは口を抑えて泣いた。


「それで、玲音君は学校を休んで何をする気かな?」


「うん、母さんにお願いしたいんだけど、俺、痩せたいんだ」


「や、痩せたいの!?」


 デブ専の母さんや、そこでさらに絶望した表情をしないでくれ……。

 母さんは体型維持の為に、オフの時はハードなトレーニングをしているのを知っている。

 俺はそれに頼って、身体を絞るつもりだ。


「痩せてどうするんだ、玲音君。まさか、やり返そうって思っていないよね?」


「自分からは仕掛けないし、こんなアザが出来る程はやらないさ。やられたら自分を守る程度にはしたい。でも、今の俺の体じゃ攻撃を避ける事すら出来ないんだ。だから、お願いだ」


「……あくまで、仕返しをしたいって訳じゃないんだね?」


「ああ。守る為だ」


 俺はやり返そうなんて思っていない。

 ただ、思い出したんだ。

 この世は弱肉強食。弱い奴は強い奴の餌食になるだけだって。

 きっと立浪だって俺が弱いと思っているから苛めていたんだ。

 なら「俺が弱くない」という事を証明すればいい。

 まぁある程度痛い目に合ってもらうし、俺も痛い目を見る事になるだろうけど。


「母さん、お願いだ。母さんの気持ちはわかるけど、俺は俺自身で今の環境を変えたいんだ。その為には痩せなくちゃいけない。お願い、協力して欲しい!!」


 俺は母さんの前で土下座する。

 俺が、少しでも前世の俺に近付けるように。

 きっとなまくらになった牙は完全復活しないだろうけど、それでも磨げばある程度は増しになると信じて。

 母さんは一つため息をついて、俺に頭を上げてと言う。


「お母さんはね、太っているっていうのは平和に過ごせている証だと思っているの」


「え?」


「だってそうでしょう? 何事もなく太れているのは、その人が平和に暮らせているからだもの。まぁ勿論例外はいるけどね?」


 言わんとしている事はわからなくはないけど、例外の方が多い気がするのは気のせいかな?


「だから私は、玲音ちゃんには太ったままでいて欲しかった。愛くるしいままの玲音ちゃんでいて欲しかった。でもね私、玲音ちゃんのそんな真剣な表情初めて見ちゃった。とっても男の子の顔をしているわ」


 母さんは俺の頭を優しく撫でる。


「男の子って、本当すぐ成長しちゃうのねぇ。ちょっと寂しいわ」


「……母さん」


「もう、決めたんでしょう?」


「ああ、決めた」


「なら覚悟しなさい? 私のトレーニングは、一般人はギブアップする位なんですからね?」


「上等だ。身体を絞れるならやってやるさ!」


 そうだ、こんな弱い身体とはおさらばだ。

 自分の身は自分で守る。

 何でこんな事を忘れてしまっていたんだろうか。前世では常識だったじゃないか!


「僕は、学校に連絡しておくよ。少し、教師にもお灸を据えておくかな」


「お、おう」


 普段優しい父さんが、めちゃくちゃ怖い……。

 何あれ、本当に父さん?


「ああ、和成さんが珍しく怒ってるわぁ……。凛々しくて素敵♪」


 母さんは目がハートになっている。

 いや、純粋に怖いんだけど、何で素敵って思えるのかな。


「さぁ、早速今日からやるわよ! 食事制限もしっかりしないとね!!」


「宜しくお願いします!」


 俺は二ヶ月間、学校を休む。

 だけどそれは生まれ変わる為だ。

 俺は電話で田中に事情を説明し、明日から一緒に登校しない旨を伝えた。

 やっぱり噂は別のクラスにも届いていたけど本当だとは思わなかったそうだ。


『ごめんな、隣なのに気付いてやれなくて』


「大丈夫。もし俺を変に庇っていたら、田中が目を付けられてしまうからさ」


『それでもやっぱりさ、自分がちょっと許せねぇよ』


 ああ、田中もいい奴だな、本当に。


「じゃあ無事俺が痩せられたら、駅前のマックで何か奢ってよ」


『ああ、それでいいなら喜んで! 頑張れよ、応援してる!』


「ありがとう」


 うん、辛いだろうけど頑張って乗り切ろう。

 電話を切ると、今の俺には二つの熱い気持ちがこもっていた。

 一つは立浪達不良グループを見返してやろうという気持ち、そしてもう一つが――――


「これがよくわかんないんだよな」


 絵理奈の顔を思い浮かべると、全身が高揚する。

 前世でも味わった事がない感情に戸惑いながら、俺は生まれ変わる為に行動を移した。

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