第5話 リボルト#18 ようこそ新世界へ Part3 碧の正体とこの世界の危機

※このパートにネタバレ要素が含まれています。ご注意ください。

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「はい、そこまでっ!」

「もう、いい加減にしてください!」

 その時だった。ジェイミー姫と碧がいきなり姿を現し、凄まじい炎を放つ。白い髪の少女が発射した氷柱が、その炎によって掻き消された。

 ふう、危機一髪だぜ。もし氷柱がそのまま百華と拓磨に当たってしまったら、これからの行動に大きな支障を来すに違いないだろう。

 それにしても、よく見るとジェイミー姫の鎧はいつの間にか色と形が変化して、メラメラと赤く燃えている。まあ姫なんだし、きっと魔法の類のものだろう。


「もうソレム、なんでそんなにカッカしているの? さっきから調子が変よ?」

 ジェイミー姫は白い髪の少女に向かって、彼女の行きすぎた行動を窘める。

「私はいたって平気です、姫様。この者達はこの世界を救うのに相応しいか、彼らの実力を試しただけですよ」

「ふ~ん、本当にそれだけ?」

 ソレムの返事に、ジェイミー姫は意地悪そうに目を細め、意味深な笑みを浮かべる。

「な、何ですか姫様、そのいかにも『信じていない』と言いそうな顔は」

「いいえ、何でもないわ。ただ次からはちゃんと手加減してよね?」

 俺たちに気を使っているのか、ジェイミー姫はこれ以上深追いすることなく、ソレムへの質問を止める。

「はい、承知致しました」

 ソレムは深く頭を下げるが、その表情はどこか不服そうだ。

 どうやら彼女もさっきの背の低い少女と同じく、俺たちのことを信用していないようだ。まあ、いきなり知らない世界から来た人間を信用しろと言われても、無理な話だろうな。

 逆に考えると、俺たちのことをすんなりと受け入れるジェイミー姫の方がよっぽどメンタルが強いぜ……


「あら、スクルドじゃない。随分久しぶりね」

 ジェイミー姫は碧に向き直ると、声をかける。

「はい、お久しぶりです、ジェイミー姫様」

 そして碧もジェイミー姫を見つめ、笑顔を浮かべて挨拶する。

「もう、姫様はやめてって言ったでしょう! 水くさいわね」

「ふふっ、そうでしたね。何しろまだ慣れないもので」

 二人の笑い声から、仲の良さが窺える。

 ……ん? ? 碧じゃないのか? 一体どういうことだ?


「あっ、説明してませんでしたね。この子はスクルド。こう見えても、別の国の王女なんですよ。訳あって色々助けてもらっています。もちろん、皆さんをこちらに連れてくることも含めて」

 まるで俺の疑惑を読み取るかのように、ジェイミー姫はすぐさま碧の紹介を始める。

「えっ……マジで?」

 あまりにも衝撃的な情報に、俺は思わず目を見開く。俺の目の前にいるこの小さな女の子が、王女だったなんて!

「はい、改めて自己紹介をします、アーク・コンティネント第三王女、スクルド・セイクリッドと申します」

 碧は真剣な眼差しで俺を見つめながら、自分の本当の名前を口にする。そして彼女は俺に向かって、深く頭を下げた。

 第三王女ってことは、第一第二もいるのか? ますます謎が深まるな。


「今までずっと黙っていて、本当にすみませんでした」

 昨日のお茶会のことをまだ引きずっているのか、碧はまるで悪いことをやらかした子供のように振る舞う。

「いや、別に謝るようなことじゃないって」

 そんな碧を見て、なんだか申し訳ない気持ちが込み上げてくる。彼女を落ち着かせるために、俺はそっと彼女の頭を撫でる。

 もちろん、一番動揺するのはこの人だ。


「えっ、うそでしょう……じゃあ碧は、この世界の人間ってこと!?」

 昨日散々碧のことを疑っていた十守先輩は、碧を見つめながら驚きの色を見せる。

「あら、何を今更驚いてるの、十守。碧ちゃんだって言ったじゃない、『向こうで説明したほうが、皆が納得しやすい』って」

 一方静琉先輩は、いつものように落ち着いた態度を見せ、慌てる十守先輩をからかう。

「なるほど、あの時の言葉はそういう意味だったのね……」

「ほら、ちゃんと謝ったほうがいいわよ、十守。相手は王女さんなんだから」

「うう……分かったわよ……」

 そう言うと、十守先輩はすさまじい勢いで土下座して、碧に謝罪する。


「う、疑って申し訳ございませんでした、王女様ぁー!!! どうかこのわたくしめを、思いっきりお仕置きしてくださいませぇー!!!」

 ……すげえな、あの十守先輩が自らお仕置きを求めるなんて! 今まで十守先輩が他の人をお仕置きするところしか見たことがないから、なおさら違和感を覚えるな。

 まあ、相手は王女なら、誰でもそうなるよな。

「そ、そんな……! 顔を上げてください、十守先輩! あの時は知らなかったことですし、仕方ないですよ! それに、気にしないでって言ったじゃないですか!」

 碧は慌てて十守先輩の側に駆けつけて、土下座を止めさせた。やはり王女は王女でも、中身は碧のままか。

「ああ……なんてありがたきお言葉……! それではお言葉に甘えさせて頂きます!」

 碧の許しを得た十守先輩は、おもむろに立ち上がる。しかし、彼女の後ろには鞭を握り締めている静琉先輩の姿が。


「じゃあ、私の方からお仕置きをさせてもらうわね」

「えっ、なんでそうなるのよ?」

「だってさっき言ったじゃない、『お仕置きしてください』って」

「あれは碧……じゃなくて、スクルド王女様に言ってんの! 静琉がお仕置きしていいって一言も言ってないわよ!」

「あらあら、十守ってケチなのね。私ならもっと優しくかわいがってあげるのに、ふふっ」

「あんた、なんか『かわいがる』の意味を勘違いしてない? ってか何その気味悪そうな笑顔は!?」

「まあまあ、そんなこと言わずに」

「ちょっと静琉!? 何をするつもり……ぎゃあああー!!!」

 こうして、十守先輩は悲鳴を上げて、みんなの視線から消えていった。静琉先輩、恐るべし。


「さて、邪魔者もいなくなったし、そろそろ話を戻しましょうか」

 俺は自分がまだ話の途中だったことに気付き、ジェイミー姫と碧に向き直る。

「何故俺たちを、ここに来させようとしたんですか? 目的はなんですか?」

 色々と聞きたいことがあるが、やはり一番気になるのは動機だな。さっき「王国を救う」とか言ってたけど、やはり詳しい話を聞いておかないとな。

「そうですね……実は1年前から、このエンタジア大陸の各地が正体不明の機械に襲われているのです」

「正体不明の機械……?」

 ジェイミー姫の言葉に、俺は思わず眉を顰める。


「先輩、こちらを見てください」

 碧はポケットからスマホを取り出し、俺にある映像を見せる。

 画面に映っているのは、巨大な歩行兵器のような機械だ。あちこちからマシンガンや火炎放射器、ひいてはミサイルやレーザーまでぶっ放していやがる。

 そして街の住人はどうすることもできず、ただ悲鳴を上げて歩行兵器にやられるしかなかった。あっという間に街は火の海と化し、死の静寂に包まれてしまう。

「ひでえな……これはまさかブラック・オーダーの連中が作ったものなのか?」

「はい、ミサイルやレーザーなど、明らかにこの世界のものではないみたいですね」

「あの化け物ども、どれだけ関係のない人間を巻き込めば気が済むんだ? やれやれだぜ……」

 ブラック・オーダーの連中の狂った行動は、今の俺には到底理解できない。俺は首を横に振り、奴らの仕業を咎める。

「このままではいけないと思ったので、私はジェイミー姫様と協力することにしましたが、いかんせん敵の戦力があまりにも強すぎて、手も足も出なかったんです」

 自分の無力さを悔やんでいるのか、碧は悔しそうに歯を食い縛る。

「魔法が使えるんだろう? それでも駄目なのか?」

 このようなファンタジーの世界の人間なら、手のひらで炎を発射したりすることは容易いはずだ。

 だが、そううまくいかないのが現実だ。


「無理ですね。どうやらあの機械は特別な金属で作られているようで、魔法の力によるダメージを抑えられるらしいです」

「やっぱそう来たか……いちいちやることがえげつねえな、あいつらは」

 確かに他国を侵略するようなことをするなら、事前準備が大事だよな。こんな重要な場面で、負けるような戦いをしても意味がないし。

 そういえば、前にあのドレス女が舞台がどうとか言ってたけど、もしかしてこれのことなのか? 奴らがここに至るまで、一体どんな陰謀をもくろんでいるんだ? ダメだ、考えるだけで悪寒が走りそうだぜ。

「ええ、そして彼らはすでに東部にある『スプレンディッド・ワンダーランド』を陥落させ、現在では『エンパイア・ヴァイス』と名乗っています。そのため、そこの住人の評判が一気に落ちてしまっています」

「ってことは、奴らの戦力がすでに国を攻め落とせるぐらい強いのか……こいつはかなりヤバいですね」

 ジェイミー姫が付け加えた内容に、俺は思わず鳥肌が立つ。


「おいおい、あんなのと戦うのかよ! 勝ち目はあるのか!?」

 聡は相手の戦力に圧倒され、大げさに声を出す。確かに、生身の人間が機械と戦うのは、いささか無理があるよな。

 しかし、碧の答えが俺たちに希望を与える。

「高いとは言えませんが、一応勝ち目はあります。現に先輩たちが資質カリスマが使えますし、対抗する手段ならこれが一番有効ではないかと」

「なるほどな。資質は魔法とは違う存在だし、これならあの金属で威力が弱まることもないだろう」

 碧の言葉に、俺は納得して頷く。

「そういうことです。実は有力な助っ人を探すために、私はわざわざこの世界から日本に転移したのです」

「えっ、そうなのか?」

 碧の突然の告白を聞いた俺は、驚きを隠せない。他にいるみんなも、好奇心に駆られて碧を見つめる。

「はい、最初にブラック・オーダーの人間に侵略された時はとても悔しくかったので、何とかして彼らの足跡をたどってみると、日本に着いたのです。そこで彼らの情報を掴み取り、ヘブンインヘルに入学しました」

「でもここの世界の言葉だと、話が通じないよね? まさか日本で日本語を勉強したの?」

「確かに、ここに来た時も普通に話せているな……一体どういうことなんだい?」

 菜摘と哲也は、それぞれ自分の質問を口にする。確かに違う世界から来た人間なら、まず言葉の壁が一番大きな問題だな。


「あっ、それなんですが……皆さん、さっき私が渡した飴のこと、覚えていますか?」

「うん、覚えてるよ! すごく甘くておいしかったね!」

 飴の味の余韻よいんに浸っている冴香は、未だに幸せそうな顔をしている。

「いえ、味の話ではありませんが……実はこの飴には魔力が込められていて、あらゆる言葉が分かるようになるのです」

「えっ、そうなの!?」

 またしても驚異の真実を知り、冴香は目を丸くする。

「はい、そうです。こうして皆さんが何の困難もなく会話ができるのが、何よりの証拠です」

「あっ、言われてみれば確かに!」

「それにしても、一人で日本に来たのか! さぞかし大変な生活を送っていたな!」

 碧が一生懸命に頑張っている姿が正人の心を動かしたのか、彼は至って真面目そうな目で彼女を見つめる。


「いえ、それほどでも……」

「ちなみに、金はどうしている? さすがにこの世界の通貨が使えるわけがないだろう」

「そうですね……ジェイミー姫様から補助資金として色んな宝石をもらったので、それを売って難なく生活できるようにしています」

 広多の質問に、碧はそう答えた。それを聞いた俺は、思わず目を見開く。

「ほ、宝石? それってすごい金になるんじゃ……」

「はい、質屋の人が私が持ってきた宝石を見た時、それはもうすごい表情でしたよ」

 そりゃそうだろう。一人の少女が大量の宝石を持って質屋に来たら、驚かないほうがおかしいぜ。


「ちなみに、これは私が住んでいたアパートです」

 そう言うと、碧はまたしてもスマホの画面を俺に見せた。あまりにも豪華な内装に、俺はびっくりする。

「すげえな……さすがは金持ち、やることは違うぜ」

「まあ、そのことは置いておきましょう。とにかく今このエンタジア大陸は、とても危険な状態にあることだけを伝えましょう」

 話がやや逸れていることに気付いた碧は、改まって俺たちに事の重大さを告げる。

「そうか……まあ、あの化け物たちのことだ、こうなることは分かっていたぜ」

 ここ数日ブラック・オーダーの連中との出来事を思い出し、俺はやれやれと首を横に振る。


「それじゃ、お願いしてもいいでしょうか、異世界の旅人トラベラーたち?」

「ああ、乗りかかった船だ。やってやろうじゃねえか!」

 化け物たちへの怒りが込み上げて、俺は一時自分が姫と話していることを忘れ、口調が荒くなる。

「おお、すごい勢いですね! ありがとうございます!」

「私からもお礼を言わせてください。心より感謝致します、先輩」

 ジェイミー姫と碧がほぼ同時に頭をこっちに下げて、俺たちに感謝の言葉を述べる。

「おいおい、まだ早いだろう。礼を言うのは、全てを片付けてからしようぜ」

「ふふっ、それもそうですね」

 ジェイミー姫は俺に向かって、美しい笑顔を浮かべる。だが、その笑顔も束の間に消えてしまう。

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【雑談タイム】


菜摘「それにしても驚いちゃったなぁ~まさか碧ちゃんが王女だったなんて!」

美穂「ねえねえ、毎日告られたりする? 白馬の王子様とかに!」

碧「もう……からかわないでください。まだそんなことを考えられる余裕はないんですよ」

千恵子「そうですよ、美穂さん。今は国の存亡の危機が最優先ですから」

美穂「そっか、国が滅んじゃったら恋愛どころじゃないわよね」


直己「くっくっく……よし、決めたぞ」

秀和「何だよ、その気持ち悪い顔は。絶対ロクでもないこと考えてるんだろう」

直己「その通りだ! 碧ちゃんと結婚すれば、金と地位もおれのものだ! おまけにあの子もかわいいし、まさに一石二鳥……ぐわっは!」

名雪「あんたね、まだそんなこと考えてるの!? しかも年下の子にまで手を出すなんて、最っ低!」

直己「やめろっ! 恋に年齢なんて関係な……えうあっ!」


ジェイミー「あの、あの二人はいつもあんな感じですか? すごく仲悪そうに見えますけど」

秀和「いつものことですよ。ほっといても大丈夫ですから」

ジェイミー「は、はぁ……」

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