13 嵐の夜 楽園。そんな場所に僕たちはいる。

 嵐の夜


 楽園。そんな場所に僕たちはいる。


 大きな台風の夜だった。


 その日、美月は兎が心配で仕方がなかった。そしてそれは真琴くんも同じだと美月は思った。


 美月はお父さんの車の横に乗って、桜南小学校まで移動をした。美月のお母さんは最後まで心配そうな顔をしてなにかを考えていたのだけど、じっと自分のことを見つめる美月の真剣な表情を見て、「行ってきなさい」と笑顔で美月のことを桜南小学校に送り出してくれた。


「美月。真琴くんのこと、好きなのかい?」

 嵐の中を、慎重に車を運転しながら、お父さんがそんなことを美月に言った。

「え!?」

 突然、そんなことを聞かれて美月はすごくびっくりした。

 でも、それからすぐに美月は気持ちを落ち着かせて「うん。大好き」とお父さんにそう言った。

「そっか。よかったね」

 美月の答えを聞いてお父さんは嬉しそうな(でもちょっとだけ寂しそうでもあった)声で美月にそう言った。


 桜南小学校には、学校の管理をしている事務員さんが二人と梅子先生。そして美月が初めて見る真琴くんのお父さん(「美月ちゃんだね。真琴からよく話を聞いてくるよ」と真琴くんのお父さんは美月に自己紹介をしてくれた)がすでにやってきていた。


 美月たちは桜南小学校の駐車場から校庭の隅っこにある兎小屋の前まで移動をした。

 すると、そこにはやっぱり、美月と梅子先生の予想通りに、黄色いかっぱを着込んで、たった一人で、兎小屋の前でなにかの作業をしている、『尾瀬真琴』くんがいた。

 真琴くんは強いと雨の中で、その作業に必死になっており、近づいてくる美月たちに気がつく様子は全然なかった。


「真琴!! お前、なにやってるだ!!」

 とても大きな声で真琴くんのお父さんが嵐の中でそう叫んだ。


 その声を聞いて、ようやく真琴くんはみんなの存在に気がついて、美月たちのいるほうにその顔を向けた。


 そのときの真琴くんは美月の知らない、『すごく大人っぽい、(男の子ではなくて)男の人の顔つき』をしていた。(そんな真琴くんの顔を見たことがなかったので、美月はすごく驚いてしまった)


「……父さん」

 真琴くんは真琴くんのお父さんを見て、はぁはぁと荒い息を吐きながら、そう言った。

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