11 台風の日 さようなら。お父さん。お母さん。

 台風の日


 さようなら。お父さん。お母さん。


 夏休みの途中にとても大きな台風が美月と真琴くんの住んでいる小さな町にやってきた。

「美月、自分の部屋の窓閉めて」

「はーい」

 お母さんにそう言われて、美月は自分の部屋の窓をきちんと閉めた。


 部屋の外では、ずっと、ごーと言うとても強い風の音や、ざーと降る強い雨の音が聞こえていた。

 時折、とても強い光と音を伴って、今まで経験したこともないような、巨大な雷が鳴ったりもしていた。

(美月は両親と妹と一緒にリビングのテレビで台風中継を見ていたのだけど、その雷はまるで巨大な怒りくるう手負いの龍のようだった)


「……兎大丈夫かな?」時計を見て美月は言った。

 時刻は四時。

 美月はあの小さな兎小屋の中で、巨大な嵐に震えている白黒兎のくろと白兎のしろのことを思った。

 とくに、ずっと元気のないくろのことが心配だった。

 くろにはしろという、つがいの、パートナーの兎がいるけれど、元気なしろだってこんなに強い今まで経験したことのないような嵐の中で、きっと怯えているに違いないと思った。


「お母さん。お父さん。兎の様子を見に行きたい」美月は言った。

「だめよ」

 お母さんが即答する。

 そんなお母さんの声を聞いて、くすっとお父さんが新聞を読みながら笑った。


「私も兎見に行きたい」

 美月の妹が言った。

「だめ。危ないから家の中にいなさい」とお母さんがにっこりと笑ってそう言った。


 ぷるるるー。


 と、そんな幸せな西谷家に一本の電話がかかってきたのは、ちょうどそんなときだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る