二人は梅子先生から兎の飼育の仕方を詳しく教わった。

 梅子先生は兎の世話の仕方をとても詳しく知っていた。美月が感心して「先生はどうしてそんなに兎のことに詳しいんですか?」と質問してみると、梅子先生は「兎が好きだからよ」とふふっといつものように上品な顔で笑って美月に言った。

 梅子先生は今年で六十歳になる先生だった。

 今年で梅子先生は定年になり、つまり美月と真琴のいる今の教室が、梅子先生の長い教師生活の最後の教室(クラス)になるということだった。

 みんなもそのことは知っていて、なるべく梅子先生に『良い気持ち』で学校を卒業できるように頑張ろう、と学級委員を中心にして話していた。


 みんなで笑顔で卒業すること。


 それが美月と真琴のいる『六年二組』の教室のみんなで決めた、今年の目標だった。笑顔で、梅子先生と一緒にみんなでこの桜南小学校を卒業するのが目標だった。


「梅子先生。くろのことなんだけど」と真琴くんが言った。

 白黒兎のくろは、じっとうずくまったまま瞳を閉じて身動きをしない。その姿は、まるで居眠りをしているかのようだった。(実際にくろは眠っているのかもしれない)

「くろがどうかしたの?」梅子先生が言う。

「なんか、元気がないような気がするんです」真剣な顔で真琴くんは言った。

「あら、確かに言われてみると、元気がないように見えるわね」兎小屋の前にしゃがみこんで、眼鏡を動かしながら、梅子先生が言う。

 美月はそんな梅子先生の隣に(梅子先生と同じように)しゃがみこんで、くろの様子を観察してみた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る