第10話 合宿

 その後はこれといって何もなく日々が続いた。イアからの干渉も影を潜め、あれから言葉も聞いていない。

 エリクサー社潜入計画の参加者は、部活の際に情報集めに躍起になったが、有力な情報は掴めないままにいた。

 遥の『IA』というアプリについても、情報処理部の協力で解析を試みたものの、成果には繋がらず、『こんなシステム見たことがない』と、情報処理部員も頭を抱えていた。


 とはいえ、俺もボーっとしていた訳ではない。ある一つの仮説が頭に浮かび、とある結論に至った訳で……。

 その決定打は、父さんに調べてもらった、『ソウル』の製造元が、『エリクサー社』だった事…睨んだ通りだった。

 一応、それに対する備えも行ったが、この事は皆には内緒だ。


 今は夏合宿を明日に控え、部室では全員で打ち合わせの最終段階である。


 ん?試験の出来栄え?

それを聞くのは野暮ってもんだろ…


「ほんとに、奏太の点数聞いた時、心臓が止まりかけたわよ! あと1点で欠点だなんて。補習だったら、合宿行けなかったじゃない!」

 遙…何もみんなの前で公開処刑しなくてもいいじゃないですか……。


 部員の中で『クスクス』という押し殺した笑いが起こる。


「まあ、結果オーライって事ね。それにしても…ふふっ」

 部長までっ!ああ、穴があったら入りたいッ!

 何とか弁解をしなければという思いで、

「他の教科は、5点位余裕ありましたよ!」

そう言った途端、部室に充満していた笑いは沈黙へと姿を変える。

 どうやら、俺が入った穴は『墓穴』だったようだ……。

 

「さて!各自準備は抜かりなく!」

豊田副部長のハリのある声が部室内に反響する。

 合宿の内容も、各自のテーマ発表といった堅苦しいものばかりでなく、海水浴やバーベキューなど、心躍るイベントも目白押しの3日間なのである。

 何しろ、部員の男女構成は3:7となっており、彼女達の水着姿に囲まれる光景を想像しただけで、心だけでなく身体まで躍ってしまいそうだ。


「奏太さん大丈夫ですか? 鼻の下が1.5倍に拡張されていますが……」

 緑さんの言葉で我に返った俺は、じっとりと睨みつける遥と視線が合った。


 肝心のエリクサー社への潜入は最終日に実行される事となっている。

 良く考えなくても、俺達のやろうとしている事は、『犯罪』になりかねない。

気を引き締めないといけないな…


 かくして、俺達は明日合宿へと向かう事となる。

 無事に帰って来れるよう、出来れば俺の仮説が間違っていて欲しいものだ。


 ──仲間を疑うなんてしたくないからな。

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