第35話 ジャクソン魔法学院

まだ日は真上にあるにも関わらず、その部屋は薄暗かった。高い天井に釣り合わない小さな窓は北向きで、明るい外の光が部屋の中に届かないのだ。


二人の老齢の男がテーブルを挟んでソファに座っていた。

紅茶を口に運んでいる男が口を開く。

「ようやく謎の国の内情がわかるかもしれぬな」

「ようやくだ。【バラド・アジャナ】のご息女を預かるのだ。側につける人選にも抜かりはないわ」

そう言うもう一人の男はビスケットを口に入れる。


紅茶を飲んでいたのは、この国の上級議員でゴッソという名の猫背で白ひげの男だった。貿易関連の利権を握ることでのし上がり、常に新しい儲け話を探している男だった。

そしてビスケットをひたすら食べていたのは、この国で一番格式がある魔法学院の学長であるハリス博士である。彼はバターの風味が強いビスケットをこよなく愛しており、目の前にあったビスケットはお好みに合っていたようである。


ノックが鳴り入ってきた男が抑えた声で言う。

「バラド・アジャナのマリー様御一行が到着されました」

「わかった、応接室にお通ししてくれ」とハリス博士は言うと、ゴッソに向けてため息を吐く。


「あの国はいったい何なんだろうな。あのアーサーという若者が国王なのかと聞くと象徴だが国王ではない、と言う。だが聞くところによると実権はあの若者が握っているのは間違いないのだ。いったい何が何やら。俺にはわからんよ」

眉に深い皺を寄せて面倒くさそうに喋るハリスを見て、ゴッソも口を開く。


「しかもアーサーは30年以上年を取っていないというぞ。だが、そもそもピルトダウンからして胡散臭いのだ。今は息子に代替わりしたが、もともと出世欲の強い官僚タイプの男がここまで化けるとはな」


二人してため息をつくと、小さな窓から外を眺める。穏やかな日光が窓の外を照らしている。暗い部屋の老人二人は濁った目で外の光を眺めていた。


******


マリーはもの凄く緊張していた。パパとママから許可が出た初めての国外旅行なのだ。

「ねえハル、このお茶飲んでいいかしら」

そう尋ねながらすでに手はカップを握りお茶を口に流し込んでいる。

「ああっっつつううぅぅぅう!!」

お茶を吹き出し一人で悶えるマリー。それをハルとマラコイは冷たい目で見つめていた。


「マリー、そんなに焦らなくていいのよ。今日は顔合わせだけだから」とハルは言いながら視線は休むことなく動き続ける。周りを動き回る男たちの品定めをしていた。


そもそもマリーが何をしでかしてもハルもマラコイも彼女のことは心配しない。なんせ常識がないアホ親二人が信じられないほどの魔力を注ぎ込んで創り出した子供である。普通なら爆散して死んでいるところを、常識外の手法で人の形に整えられたのだ。とはいえ、その調整に20年も掛かっていた訳だが、逆に言うと異常な魔力量を持つミクリが20年も調整にかかるほどマリーの魔力は底なしなのである。おそらく並大抵の人間では彼女を傷つけることなど出来ないし、出来たとしてもすぐに治癒するだけの力が彼女にはあるのだった。


応接室のドアがノックされ、一人の爺が入っていくる。全身黒づくめで襟元にだけ金の刺繍が入る服を着る爺はDr.ハリスと名乗った。ハリスは白髪でくるくるとしたパーマがかかった髪を後ろに撫で付けている。頭頂部が薄くなっているが、ふんわりしたパーマでハゲは誤魔化され知的な雰囲気が漂っている。

「ハリス博士と呼んでくれ。当ジャクソン魔法学院の学長である。マリー・バラド・アジャナ殿は…」

そう言いながら、マリーとハルを見比べている。


マリーは黒髪をポニーテールに結び、ブラウンの瞳を輝かせ、しなやかな身体を持つ見た目通りの16歳の少女だった。一方、ハルは中身こそパウロだがその外見は、金髪の髪は胸の下まであり、ところどころ三つ編みにしていて、尖った耳が髪からぴょんと飛び出している。男好きする青い瞳はやや垂れ目でぽってりとしたピンクの唇がぷにぷにと輝く。見た目は12歳あたりだった。見ただけではどちらかというとハルのほうが気品を感じさせる雰囲気であった。


「はい、私がマリーです。ハリス博士宜しくお願いします」

黒髪のマリーはそう大きく手を上げる。横ではハルが微笑みながら頭を下げている。ハルの服装は首周りにゆとりがあり、前かがみになると正面からは小ぶりな胸が丸見えになる。これは今夜のターゲットをハリス博士に絞ったハルの計算尽くの行動であった。


マラコイは我関せずと窓に写る自分のカッコよさに見惚れていたが、ハルの胸を見ていないフリをしながら横目でちらちらと見ているハリス博士を見て可哀想な気持ちになっていた。かつては恋人同士だったハルとマラコイだが、20年間のダンジョンコアでの肉体無しの共同生活の結果、もはや恋人を超越した家族という感覚になりパートナーは解消していた。


ハリス博士はハルの胸をできるだけ見ないよう耐えているがどうしても見てしまうようで、マリーと世間話をしながら何度もハルの胸を視姦するのだった。

「そうだ、明日には入学試験をお三方ともお受け頂くが、案内の人間をご紹介しておこう」

ハリス博士がそう言い手を叩くと、後ろに控えていた女の子が前に出る。


「君たちの先輩にあたる3年生のシズカだ。彼女も珍しい黒髪でな」

そう紹介された女は頭を下げてから、マリーたちに目を向けた。

ストレートの黒髪が肩まであり、細いアーモンド形の目に、胸がロケットのように飛び出している爆乳ガールだった。

「シズカです。会談が終わられましたら宿舎のご案内を担当いたします。」


マリーは揺れる胸が珍しいようで、ずっと胸を目で追っている。ハルは身体を起こしていたが、くねくね動き角度を調整しハリス博士の目にぎりぎり自分の乳首が見えるように調整していた。パウロは変わらず窓に写る自分に見惚れているだけである。


誰もまとめ役がいない悲惨な三人組であった。

我に返ったのはシズカだった。わざとらしく咳をひとつして喋りだす。

「で、では、そろそろ時間も押して来ておりますので、宿舎をご案内いたしますね、よろしいですか学園長?」

「あ、ああ。もちろんだとも。マリー殿、明日の試験は手心は無しなので頑張ってくださいね」

「は、はい、頂いたチャンスを活かせるよう全力でがんばります!」


マリーはそう言ってシズカに先導されながら後ろの二人と共に部屋を出ていった。

後に残されたハリス博士は一人で呆然としている。孫より年下の娘に欲情させられ戸惑っているのだった。だが、ふっと我に返った彼は自分が彼女たちから何も情報を聞き出せなかったことに気付く。あの娘の性的アピールも諜報戦の一部だったのだろうか。底の見えない三人だった、俺の完敗だな、そう呟きながら久しぶりに硬くなった股間を撫でるのだった。


シズカは三人を先導しながら、学院の事を紹介する。

このジャクソン魔法学院は800年の歴史を持つ名門中の名門で、教員300名、生徒数5,000名を超える大所帯だ。三人はシズカに連れられて学園中を歩き回り、大量の蔵書を誇る図書館に、最先端の機器が揃い魔法の実験用の魔法科学室、授業が行われる講堂などを見学した。


どの建物もレンガ造りの重厚な造りで、かなり古い時代の建物だが劣化しないよう魔法陣が各所に埋め込まれている。シズカが最後に連れてきたのは、蔦が壁を生い茂る4階建ての建物だった。

「こちらが皆様の宿舎になりますね」


「なんだか、こじんまりしてるね」

マリーはそう言いながら振り向くと二人に頭を叩かれる。

見た目はマリーが一番年上なのだが、関係性はどうやら後ろの二人のほうが上のようだ、とシズカは思う。

「お二人はマリー様とはどういったご関係になるんですか?」

と聞くと、ハルが「マリーは私達の妹ですよ、私達兄姉は成長が人より遅くって」と答えた。


「三人とも魔法はお得意なんですか?」

シズカがそう尋ねるとマラコイが自信ありげに答える。

「俺はバラド・アジャナの中でもトップクラスだな、マリーは規格外、ハルは俺よりは劣るだろうな」


(この田舎者どもめが、田舎の新興国でトップだろうがここで通用するわけがないわ)

シズカは腹の中ではマラコイを小馬鹿にしているが、流石に面には出さなかった。


建物のドアを開けて三人を中に入れてやる。中は以外にも光に溢れていて、蔦が絡む外観とは対照的に居心地の良さそうなリビングが広がっている。

「いい部屋じゃん!ねえハル?」

マリーは部屋の中央にあるソファにぴょんっと座って喜んでいる。

「ねえ、寝室はどこ?別の部屋かしら?」

そう言ってマリーは廊下へ行き、適当な部屋を開ける。


ちょっ、とシズカが止める間もなくマリーがドアを開けると、中では二人の男が裸で絡み合っていた。

勢いよくドアを締めるとマリーは、ふぇ~ん中にゲイがいるよう、と嘘泣きをしている。

性的に奔放な国であるバラド・アジャナでは他人のセックスに出くわすことが多く、マリーはこういったことの耐性を持っている。というか主にハルがあちこちで痴態を繰り広げるのでよく見かけているのだが。

「ねえシズカさん、私達の家でいけないことをしているやつがいます!」


ドヤ顔でシズカを見つめるマリーだったが、シズカは口をあんぐり開けて驚いていた。

中で絡み合っていた男の片方が自分の彼氏だったのだ。ショックのあまり口が聞けない彼女に変わり、ハルがマリーをなだめる。

「マリー、あんたこの建物が自分の家だと思ってない?」

「え?違うの?」

「当たり前でしょ、この建物の一部屋があなたの部屋になるのよ」

「ええ~?」


甘やかされて育ったマリーは我慢することが出来ない子だった。

ハルにおとなしく従ってなさいとデコピンをされ、ぷうっと頬をふくらませる。

その横をシズカが通り過ぎ、さっきマリーが閉めたドアを開け放った。


「くぉおおおおおらあああああ、サイモン!!!!なぁぁあああにぃぃいをしゃぶっとんじゃゃああああ!!!!」

そう叫ぶシズカの黒髪は重力に逆らい、下からの突風で吹き乱れている。手の中に作ったの光の珠を部屋の中に投げ込むと部屋からはバンバン何かが壊れる音と男たちの悲鳴が聞こえてくる。


マリーがドアを覗き込むと、正座をした全裸の男二人に、シズカが全力でビンタをし続けている。

男の股間は二人とも屹立しており、全身に擦り傷を負いながらも恍惚の表情をしていた。


マリーは、この学園大丈夫なのかな、と少し心配な気分になった。

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