第27話 エルフ爆誕
生き残った村人は男が11人だった。
とぼとぼと歩いていた男たちは銀の巨大なドームが近づくと目に力が宿っていくように見えた。
「何ですかこのでっかいやつは?」
「アーサー様が作ったんですか?」
「中はどうなってるんですか?」
質問を全て無視して教えてやる。
「50人ぐらいのハーフたちが中で待ってるぞ」、と。
お前たちの子供もその中にいるかもしれないのだぞ、と。
男たちは走り出し、銀の膜に突撃し、跳ね返された。
ばいーーん、と。
何度も膜に突撃する男たちに大人しくしていろと言って、俺は膜をくぐってミクリを探す。
建物に入りエレベーターで自分の部屋に向かう。
広く作りすぎたせいでなかなかたどり着かないのだ。
俺の部屋に入ると子どもたちは部屋のあちこちで眠っていた。
ミクリが布団を出してやったようで、床に雑然と布団が並んでいる。
ソファでぼんやりと口を開けて、放心したように子供たちを見つめるミクリがいた。
きっと生き残った子供たちを思いやっているのだろう。
近づくとミクリが一人の眠る子供を指差しながら口を開く。
「なあ、アーサー。この中で一番ちんこでかいのあの子だよハアハア」
何を見てたんだろう、この女は。
だらしなく口を開いて何を妄想しているのか。
ミクリに銀のドームの話を聞く。
外の村人を入れたい、と言うとすぐに対応してくれた。
なにやらあの銀膜は異空間の裂け目を平面化しているとか言っている。
よくわからない。
5次元が3次元化でなんとか云々言っているが細かいことは任せる。
ダンジョンマスターが何を通すか設定しているらしく、俺のダンジョンはミクリがすべてシャットダウンしているらしい。
ドームをもっと目立たくできないか聞くと、透明にして周りの景色に溶け込むようにはできるらしい。
ただ、存在は消せないらしく、触られるとここにあることはバレるらしい。
とりあえず透明にしといてくれ、とお願いをする。
あと、このドームが魔法で攻撃されたらどうなるのか聞いたら、次元を超える攻撃なら通るかもしれませんねえ、と言う。そんな攻撃があるのか?と尋ねたら、わたしは知りませーーん。と言いながら、ソファの上でわざとらしく足を崩す。
セーラー服のスカートがめくれ、太ももの付け根あたりまで白い肌が露出する。ミクリが上目遣いの濡れた目で俺を見つめてくる。
いつもなら乗っていくところだが、今は人を殺してきたところで昂ぶっている。
精神が昂ぶっている時は鎮めないと。
そう、鎮める必要があるな、そういえば。
俺はミクリの手を引くと部屋から出るのだった。
俺がミクリと昂ぶった気持ちを鎮める儀式をしている間に、村人の男たちは俺のダンジョンに入ることができ、そして迷子になった。ここでも広すぎる弊害が出ている。建物に入ったらどこも似たような景色だから迷うのも当然である。
ゴーレムたちに男たちを俺の部屋に連れてくるようお願いする。
さて、例の軍隊の目標はあくまでも甲虫人である。
俺ではない。
ここが大事だった。
軍隊が甲虫人と滅亡させたとして俺に何か問題はあるだろうか。
考えてみるが、特にないのだ、問題が。
甲虫人と戦っていたのはあの森に住みたかったからであって、甲虫人が憎いわけではない。いまは俺のダンジョンという快適な我が家を手に入れ、わざわざ森に住む必要もなくなった。
また、おいちゃんとバラバを村ごと殺したのは軍隊ではなく勇者リュウスケ達である。俺は復讐できたと思っている。生き残りの村人たちは知らんが。
入れ知恵したピルトダウンは殺してもいいかな、と少し思うが軍隊五千人と戦うのは絶対にものすごい大変である。
避けれるものなら避けよう。
わざわざ肥溜めに自分から足を突っ込むことはないのだ。
と言う訳で軍隊の対策ができた。
無視、である。
そうと決まると俺の部屋に戻り、村の男たちと生き残りのハーフたちを集める。
俺のダンジョンビルの一階に部屋を作ってやるのだ。
11人のうち6人は子供と再会できたようだ。
残りは残念だったが、親を失ったハーフたちの面倒を見てやることにしたらしい。
一緒に暮らす家族単位でワンルーム型の部屋を繋げて改造してやる。まあ実行するのはミクリだが。
おいちゃんとバラバは子供たちをここまで逃した後、もう一度村に助けに戻ったところを殺された、とハーフの子供たちが教えてくれる。なんか二人のモニュメントでも作ろうかという気持ちになる。なるほど、前世であちこちにあった謎のモニュメントはこういう気持ちの時に作られたのかと納得した。
一週間ほどすると向こうの森に軍隊が到着したようで、炊事の煙が上がっているのが見えた。五千人のキャンプとか大変そうである。
夜になると何人かの男が俺のダンジョンの周りをコソコソと動き回っていた。透明なダンジョンの膜にぶつかり、手で叩き、砂を投げてきた。
ミクリがどうする?と聞いてきたが、放置である。
まあ銀のドームがデカイし、隠す前に発見されていたんだろう。
中には入れないだろうから、放っておいて問題はない。
勝手に甲虫人と戦ってくれたらいい。
そんなことよりも、ダンジョンに入れた村人たちの方が大事だった。数えると人間の男が11人。ハーフの子供のうち、男児が34人、女児が17人だった。
子供たちは産まれて一年も経たないはずだが、十歳ほどに見える。魔の血が入っているせいで成長が早いのだろう。
俺はおいちゃんが遺した子供たちをこのダンジョンで育てることにした。村を作り繁栄させてやる。
俺は村人たちに二つ、ルールを作った。
ひとつは、ハーフの子供たちを新種族「エルフ」と呼ぶこと。
人間とは違う一族なので呼び名を変えてやる。お前たちは人でも魔でもないのだと。
耳が尖ってるし全員美系だから俺の中では少し前から、こいつらエルフじゃん、と思っていたのである。
もう一つのルールは、家督に関して女系継承にすることであった。
そう伝えると子どもたちは当然なにも分かっておらず、村の男たちも、それは女の方が偉い村ですか?と戸惑っていた。
なにせ、女が極端に少ないせいで、一夫一妻制なんか取れば男どもがあぶれてしまう。幸いにも淫魔の血が入ったエルフたちは恐らく性に開放的でも問題ないだろう。村の男たちは知らんが。
そもそも、父親が同じかどうかは判断できないが、母親が同じかどうかははっきりわかる。エルフたちは女系一族にする。そう決めた。
といってもこのルールが活用されだすのは十年単位の月日が必要になるだろう。まあ何事も最初が肝心ということですよミクリさん、と横を見る。ニッコリと微笑むミクリを見て、この女を他の男にやるのは嫌だと独占欲が湧く。
「ミクリはエルフじゃないから女系は駄目だぞ」
そう伝えると、そんにゃ〜と叫びながら俺の股間を揉んできた。
俺も頑張るから、そう言ってミクリの髪にキスをする。
でもそもそもミクリは俺以外の人間には、塩対応で性欲をぶちまけるところも見せないのだ。俺だけが知っている、という満足感を刺激してくるあたり、さすが俺が作っただけはある。
さて、村はダンジョン内で再起動した。
ドーナツ型の中央の一部にあった、畑と牧場は拡大される。
ダンジョン内のミクリは最強で、魔力があれば水だろうが食料だろうが自在に作り出せた。だが、村人に自活してもらう為にわざわざ自分たちで食料を作らせることにした。
外の軍隊からは、たまに百人単位の偵察部隊が俺の透明ダンジョンの大きさを測っていたが、中には入れずそれ以上手出しが出来ないようだった。
何事もなく、平穏に過ぎ一年が経つ。
驚いたことにミクリが懐妊したのである。もちろん俺の子だった。たぶん。たぶんな。しかしダンジョンコアから創ったミクリが妊娠するとは思ってなかった。まあやることはやっていたんだが。
外にはまだ軍隊が駐留していたが、エルフたちには外に出ないよう厳命していたので、外の奴らには中の様子はまったく伝わっていない。
そして外の様子もよくわからないのだった。
俺は快適なダンジョンを出て、久しぶりにあたりを散策してみることにした。
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