第24話 初体験

我に返った俺は胸を揉む手を止めた。

俺にひっついている少女を引き離そうとするが、がっしりホールドしてくるので何発かビンタをしたらようやく離れてくれた。


「ハアハアハアいいビンタだったわアーサー。アーサーはそっち系が好きなの?わたしも嫌いじゃないよウフフ」

もじもじと両手を頬に手を当てながら身体をうねらせる。


腕に挟まれた小さな胸から続く下半身がうねうねと動く。

正直、ムラっとする自分が悲しい。

真面目に話したいのに、そっちに全振りされると引いてしまうのはなんだろうなこれ。


とりあえず名前はあるのかと聞くと、名前はまだないからアーサーが付けてくれ、とクネクネしながら答えてくる。

思いっきり日本人美少女をイメージしたので、見た目は純和風である。


無駄にクネクネ動いてムラムラするので目の前の空中に正座をさせる。

正座させると少女は上目遣いになり、小さな胸の突起が強調されて逆にヤバい。つい正座する太ももの根元を見てしまう。彼女は首から下は毛が一切生えてない。そうイメージして作ったからだ。ああそうだ、俺はパイパン派だ。


まあ、それはいい。

名前だった。なんにしよかな。

名前…。

ミクリちゃんかな。うん。

特に理由なんてないけど、ミクリちゃんでいいんじゃないかな。


「よし、ミクリにしよう名前」

そういうと少女は上目遣いで、ありがとうございますご主人様と言う。

自分好みに創っただけあって破壊力がすごい。

生まれたばかりのこの子にドキドキしてしまう。


俺たちはまだ急上昇する異空間の中である。

光が高速で下に落ちていくように見える。


「じゃあミクリ、そろそろここから出たいんだけど、どうしたらいい?」

そう、この子を創ったのはダンジョンコアと意志の疎通がしたかったからだ。

なにもエロいことが目的ではないのである。


「じゃあアーサーがダンジョンをちゃんと作ればいいよ、んーとね、ダンジョンのエネルギーを物質化すればこの空間は閉じるから。私と手を繋いでイメージしたらできるから」


そういうミクリの手を取る。

まずは服だな、お前の服だ。裸のままはまずい。

イメージをするとなぜかセーラー服になってしまった。

黒髪ボブにセーラー服。

趣味が出すぎたが、まあいいだろう。


「なあミクリ、ダンジョンって創った後に改造できる?」

「いくらでも出来るよ、魔力は減るけどね」

「じゃあさ、こんなの創ってよ」


地上にダンジョンを創りたいと言ったら、そんなのやったことないらしい。

開放型ダンジョンって言うんだよと教えてあげる。


頭の中イメージすると共有できるようで、ふんふんと頷いている。

巨大な東京ドームみたいな建物で外壁は総ガラス張りを希望である。

あとの細かいところはミクリに任せる。


なんか適当に頼むわ、とだけ伝えた。

だってそのためにミクリを創ったわけだし。

ダンジョンマスターもミクリだし。


「じゃあアーサーくん、ダンジョンクリエイトをスタートしますよーーー!!」

ミクリは叫ぶと繋いだ両手を上にあげている。

俺は半袖のセーラー服の袖から見える脇がキレイだなあと見ていた。


すると上から地上が降ってきた。

変な表現だが、上から景色が降ってきて気がついたときには地面に立っていたのだ。


周りはいま土砂が巨大な渦を巻きながら地ならしをしている。

森のなかで、巨大な円状に木が抜け、緑がすり潰され、茶色の土石流となってサークルの中をごうごうと回っている。

俺はその中心にミクリと二人で立っていた。俺たちが立つ場所だけは黒い岩のようなもので守られていた。


渦巻いた土砂はその勢いのまま大型の建造物を創り上げていく。

見る間に辺り一面に土色の建物が完成してゆく。


パキンっという音とともに周りの動きが止まる。

「完成です!」

ミクリが手をぱんっと叩くと、土色がバラバラと剥がれ落ちていく。

その下からはキラキラと光りに反射するガラスと鉄骨の建物ができあがった。

もはやダンジョンでないなこれ。俺は自分でイメージしたことは棚に上げて思う。


直径一キロはありそうなガラス張りの東京ドームのような建物で、中心部分はドーナッツのようにぽっかりと開いている。

その開いた中心部には緑が茂り、キレイな庭となっている。

なんかお弁当とかを食べると良さげである。


「すっげえ」

「ねえアーサー、なんですかこれは・・・」

二人して絶句する。

すごく圧倒的に現代的で美しい建物だった。


「ねえ、ミクリ。これってダンジョンだよね?」

「そうです。ダンジョンの規定は満たしていますから。ほらちゃんとこの世界とは区切られてるからねあれで」

指差す空には透明の膜があった。

外からは銀のドームとして見えるのだろう。


「モンスターも創らなきゃいけないんじゃないの?」

「そうですね。まあ追々でもいいですけどね。何か掃除するモンスターとかどうです?ピカピカにしときたくないですかこれ。」


ミクリが凄く良いことを言った。

掃除するモンスターって一石二鳥じゃん。

すぐに創ることにし、ミクリと手を繋ぐ。


「じゃあミクリ頼むわ、何か掃除好きの可愛いモンスター!いでよ!」

「えーー?丸投げとか雑すぎだわ。じゃあ、わたしも適当に行くわよ!えい!」


現れたのは丸っこいツルツルした石のゴーレム軍団だった。

100匹くらいはいるだろう。

人と同じほどのサイズである。


俺はミクリを睨む。

モンスターじゃない上に、可愛いの意味が俺の思っていたのとまったく違う。


「きゃああああ、かわいいーーー!」

ミクリはゴーレムに抱きついて喜んでいる。

こいつ、俺のイメージをわざと無視しやがった。

自分好みのモンスターにしやがった。


はぁ。何事も思い通りにならんなあ。である。

しかし、俺はどれほどの時間をダンジョンから落ちた異空間で過ごしたのだろう。ミクリに聞くが、そんなこと知らん、と適当に答えてゴーレムを撫でている。


その時、銀の膜に衝撃があった。

「なに今の?」

「今このダンジョンはわたしとアーサー以外の生き物は入れないようにしてるから。誰か入ろうとしてるんでしょ」

ミクリは見に行きましょう、と言って歩き出す。

俺も後ろからついていく。


ガラスの建物の一階を通り抜け、外との境界線の膜まで行く。

そこには一人の角の生えた紫髪の女と金髪ポニーテールのイケメンマッチョがいたのである。

おいちゃんとバルバである。


おいちゃんは手に持つハルバードを膜に何度も叩きつけている。

バインバイン跳ね返されかなり苛立っているよぅだ。


俺はダンジョンの底に落ちた少し前を思い出す。

おいちゃんの彼氏ぶってセクハラしまくってキレられた時のことを。

顔、合わせたくねえなあ。


アーサーの知り合い?とミクリが聞いてくる。

そうだねえ。元カノ的な存在かな。と匂わせる。


バラバがおいちゃんの腰を抱く。

セクハラ!それセクハラよ!俺はそれでキレられたんだからな。

おいちゃんは振り向くとバラバにキスをした。

舌の絡む濃いいやつだった。


「おい、ミクリ!あいつらぶん殴ってこい!」

ミクリは冷めた顔で俺を見下すのだった。

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