第22話 勘違い

俺はアーサー。

奴隷に生まれ、奴隷として育った男だ。

歳は16か17歳ぐらい。今まで一人で立派に生きてきた。

そして俺には忍耐力がある。それもとびっきりの忍耐力だ。


「ぎゃあああああ、もう嫌だああああああ」

俺は絶叫していた。ストレスが限界である。


この森のダンジョンはすぐに見つかった。

一つは森の中心にある巨木のウロで。

そして、さらに24個のダンジョンが森のあちこちで発見されたのだ。


村人たちは一旦この森を出て、少し離れた場所に仮の拠点を構えている。

そして俺は、毎日毎日、虫のダンジョンに潜り続けているのだ。


「ねえ、おいちゃん。ねえってば」

「なんね?!」


おいちゃんもキレ気味である。

俺とおいちゃんは二人でダンジョンに潜っている。


俺が火魔法で倒した虫の頭をおいちゃんが引っこ抜くのだ。

力持ちのおいちゃんはぶちっぶちっとカミキリムシっぽい甲虫人の頭を引きちぎりながらイラついている。


数が多いのだ。

異常な数の甲虫人が出る。

身長が二メートルはあるくせに、虫サイズだった時と同じレベルで繁殖してやがる。


大量のダンジョンを発見してしまったが、まともに戦力となるのは俺とおいちゃんしかいなかった。

おいちゃんは刺繍だらけのローブをかぶり、俺が貸した日本刀もどきを腰に挿している。

とにかく一つ一つ攻略していくしかない。


ダンジョンは面倒だがおいちゃんと二人きりになれるのは嬉しかった。

適当な近くのダンジョンから攻略していく。

膨大な数の甲虫人を殺して山と積んでゆく。

ひたすら殺したあと最後はボスであった。

火魔法が効かないので、海老拳で音速パンチである。

とどめはおいちゃんに任せる。


そんダンジョンに入ると、広々とした森が広がっていた。

天井ははるか頭上にあり、その天井近くには雲らしきものまで溜まっている。


甲虫人もやはりモンスターの特性なのか俺たちの姿を見ると襲いかかってくるので探す手間は省けたが、時間が経つほどに数が増えてくる。虫が虫を呼ぶのだ。


目に入った瞬間に頭部の中に炎をぼんっと出しまくる。

バタバタと倒れる甲虫人の背後から、また虫が出てくるのだ。

終わりがない。


そして俺とおいちゃんの仲は明らかに深まっていった。

「おいちゃん、危ない!」

優しくおいちゃんの体を甲虫人が振り降ろす手の軌道からそらす。たまたまお尻を触ってしまったがたまたまである。


「あ、おいちゃん服に汚れが」

パンパンっと服の汚れを払ってあげる。ついでに太ももに手が当たっちゃうけど不可抗力である。


このバカでかいダンジョンは浅くて二層式のところがほとんどだ。

大量に湧く甲虫人をひたすら殲滅しながら歩き回ると下に降りる階段が見つかる。


ボスとして出てくるのは変な色の甲虫たちだった。

玉虫色や白、ピンクなどカラフルである。


俺とおいちゃんは4つ目のダンジョンボスを殺したところだった。

おいちゃんが、紫の髪をなびかせて灰色に赤い水玉が入ったカミキリムシの甲虫人を殺している。頭を引っこ抜くのだ。ぶちぶちぶち。


「おいちゃん、お疲れー」

俺はそう言いながら、自然とおいちゃんの腰に手を回す。

細く引き締まった身体が可愛いよ、おいちゃん、大好き。


バシッ。

手を叩かれる。

「えっ??」

おいちゃんが俺の方に向き直り言う。

「わいもう我慢できん!なんね!?毎日毎日ひとの身体触ってきて!気持ち悪いんよお前!いい加減にしろ!」

そう言って俺の身体を突き飛ばすと、おいちゃんは一人でダンジョンを去っていく。


軽くパニックになる。

勘違いだった?

おいちゃんともはや恋人のような関係だと思っていたのは間違いだった。

どす黒い感情が腹の中で渦巻く。

なんだ、モンスターとのあいのこのくせに。

お前なんていつでも殺せるんだぞ。

なぜ俺のものにならないんだ!?


あぁ、俺はだめだ。こんな思考だから駄目なんだ。


俺はおいちゃんに嫌われてたか。

そうか。

そうだったのか。


俺はぼんやりとダンジョンの底に座り続ける。

ボスが死んだダンジョンの壁や床にヒビが入り始める。


俺は突き飛ばされて尻もちをついた状態から起き上がる事ができなかった。

なんかもういいやって気分だったのだ。


ビキビキビキッと天井のヒビも広がっていく。

そういえば崩壊したダンジョンの中身はどこにいくんだろう。


なるようになれ、とやけくそで思う。

死んでも構わない。

おいちゃんに好かれてると思っていたわ俺。

勘違い野郎だったけど。


ダンジョンは崩壊している。

石の床のヒビが大きくなり、石の床が下に落ち始める。

俺はちょっと怖くなって三角座りになる。


そして俺が座っている石の床も、どこかに向けて崩れ始めたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る