第十八話

「恥ずかしいところをお見せしましたね」


いつの間に着替えたのか?最初に着ていた緑色の着物姿で現れたエンゲリスさんは、俺らの前に笑顔で現れたんですが、目を見ていると笑ってないのよ。


こりゃ、今まで五寸釘や巨大な魔法で神様に八つ当たりしていた事には触れない方がいいよなぁって思いながら会長の方を見ると『今までの事はスルーで』というような表情。俺らが帰った後の会長さんの安全のためにも止めておこう。うん。


そんな事を思ってたらさ、エンゲリスさんが俺らの目の前で頭を下げるのよ。


「この度は同郷の者を救って下さり、本当にありがとうございます」

「うぇぇ…いやぁなんというか…救ったのかなぁ?な、カミサン!」

「いきなり振らないでよ!目の前でいろいろ起こってなし崩し的にいろいろやって今に至ってしまったので…そんな頭を下げられる事していないと思いますよ」

「いえいえ、あなた方には『見捨てる』という選択肢もあったはずです。あなた方は間違いなく目の前のお嬢さんを助けたんですよ。本当にありがとう」


改めてエンゲリスさんに言われて見て気が付いたんだけど、見捨てるって考えもあるんだよなぁ。まぁ、あの状況だったらほっとけない。むしろ貴重な体験がいっぱいできたから家族にとってはとっても良いことだったかもしれないって言ったらさ「本当に不思議ね、貴方達は」なんて言われちゃった。


そんな勇気と遊んでいたイデアがこっちの視線に気が付いたのかキョトンとしている。相変わらずエルフという高貴な存在に圧倒されてしまって、ここにいる事自体戸惑ってる様子だけど、そこは空気を読まない勇気の行動が引き留めている状態。


口を開けば「私のようなものが、エルフ様のような高貴なお方に口を話しかけてもよろしいのでしょうか?」なんて緊張を隠しながら言うのよ。まぁ、会った頃のように自分を奴隷と卑下にしないで、自分の思ったことを言おうとしている姿勢ができてきたのはとっても良い事だと思うけど、ここは日本。もう少し楽にしてくれてもいいんじゃないかな?って思うんよ。


できることなら、このまま少しずつ環境に慣れてもらって、ゆくゆくは自分の好きなことを思いっきりできるようになって欲しいなって思うんだけど、まだ出会って数日しか経ってない俺がこんなことを考えるのもおかしな考えかな?とも思っている。


そんな事をぼんやり考えていたら、エンゲリスさんがイデアといろいろ話したいからと言いながら、勇気に断りをいれて対面で話をしはじめた。


エンゲリスさんは、今までの生い立ちなどから聞こうとしているらしいけど、イデアは緊張してあまりうまく話しをすることが出来ずにいるので、見ていられなくなったカミサンが間に入って話を進めていく。


話の中で見えてきた事は、イデアには身体的な異常はなく、この世界で生活するうえで必要な事はこちらでの常識を学ぶことと、自分の本当の姿を隠すすべを知ることだけだという事だった。


まぁ思った通りだったんだけど、イデアが環境の変化に心がついていけてないので、出来れば俺らの家で普段の生活を送りながらゆっくり心を癒してもらえないか?なんてエンゲリスさんに頭を下げられ驚いてしまったんだ。


俺は同郷の人がいれば、残念だけどその人と一緒にいたほうが良いと思ったから、手元にあるお金を渡してイデアの事をお願いすることも考えてたんだけど、どうやらエンゲリスさんにはその考えはなさそう。


「私のような年寄りの生活より、若いあなた方と一緒に生活をしたほうが若い子の子にはいいの。食べ物も違えばオシャレや趣味も違うでしょ?イデアちゃんもあなた方には慣れているようだし、一つお願いできないかしら?」

「いやぁ…それは構わないですが…いいんですか?」

「ええ、あなた方から悪い気は感じられないし、故郷の人間には幸せになってほしいのよ私。あと十数年しか生きられない私の側にいてもこの子は辛くなるだけでしょうからね」

「へっ?」


あれっ?エルフってとっても寿命が長いって、あれファンタジー小説だけの事なの?って思ってたらさ、それに気が付いたエンゲリスさんが、自分はここに来るにあたって自分が持っている生命力や魔力など大半の力を捨てざるを得なかったため、この世界で生きれるのはあと十数年だとで話してくれた。


理由は話しにくそうだったんで聞かなかったんだけど、きっとよほどの理由があったんだろうな。自分の力を奪われて見知らぬ土地に来て、エンゲリスさんは何を持って生きてきたのか?できることなら聞いてみたいけど、初対面の人にあまり根掘り葉掘り聞くのは気が引けるし失礼かと思い俺は黙ってることにした。


ただエンゲリスさんが言った一言に俺はとってもほっとしたんだ。


「今まで果てしない時間を過ごし何百人も親しい人を看取ってきた私が、自分の最後の時間がわかるという事にほっとしてるの。おまけに、自分が好きだと思う人と共に死ねる。同じ世界で共に生きていき、そして寿命を迎えることができる。無駄に長い時を過ごしてきた私にはそれがとっても幸せなの」


そんなことを穏やかな微笑みで言う彼女に、俺はとってもほっとしたんだ。


「あっ、私もイデアちゃんにはちょこちょこ会いたいのよ。いろいろ教えたいこともあるし、旦那の仕事も手伝って欲しいしね☆だからこれからもよろしくね☆」


・・・


一時ほっこりした俺の気持ちをカエセ!

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