第4話 戸棚の上にあるもの

 バイトから帰っても、貴紀には学業を疎かにする時間などない。特に期限付きのレポートは早めに書いて提出するに限る。


「えーと……」

「うぅ……ご主人ぅぅ……遊んでよー」

「今は忙しいからダメ」

「いつ終わるの?」

「今日はレポート書いたら風呂入って寝る」

「にゃーだー」


 貴紀がテーブルの上にあるパソコンとにらめっこして、提出するレポートの内容に頭を悩ませていても、ネコであるティアの不満は溜まる一方だ。

 一人遊びはもう飽きた。


「ご主人は全然遊んでくれない!」

「仕方ないだろ? 大体、俺は遊ぶために進学した訳じゃないんだぞ?」

「『しんがく』なんて知らないにゃー。ティアともっと遊んでー」

「あーもう、ほら向こうで遊んでなさい。前に欲しがってたボール買ったろ?」

「飽きたー!」


 数日前。急成長したティアに合わせ新しい服を買いに出かけ、その時ティアが駄々を捏ねて欲しがったボールまで購入した。


(なのにもう飽きたのかよ……)


 いつも一人でお留守番させるのは可哀想だと思った貴紀は、せめて遊び道具くらいは与えようと思い買ったのだが、まさか一週間も経つ前に飽きられてしまうとは……。


「とにかく今日はダメだ。明日は学校もバイトも休みだから、そん時に遊ぼう。な?」

「ぐるるるるるる……」

「よし分かった。戸棚の上にある缶詰食って良いぞ」

「にゃ!? お、お魚にゃんかに……」


 と言いつつ、既にその足は台所へと向かい、尻尾はピーンと真っ直ぐに立っている。もうひと押しで缶詰に直行する。


「そうか。ティアが要らないんだったら、俺がお夜食として……」

「にゃだァァァァッ!」


 ティアは誘惑に負けて台所へ。

 頭脳戦とも言えない勝負に勝った貴紀は、ニヤッと嗤いレポート作成に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る