第5話
明らかに異常だ。本来この森にいるモンスタ
ーはEー級が主である。通常であればD級以上が姿を現すことも数年に一度あるかないかの比較的穏やか森なのだ。
フォレストワームだけでD+級、氷大鬼アイスオーガに至ってはC級にもなる。
「レノア!
「妾、虫は嫌いなのじゃがのぅ」
「文句言ってる場合じゃない!」
「ゴァァッー!!」
奴は手に持つ大剣で近くの木を叩き折った。
おそらく冒険者から奪った装備なのだろう。
俺は初手を取り一気に間合いへ入って身体強化した脚で回し蹴りを打ち込む
間髪入れずに奴の左側に回り込み手に持つ短剣で斬りかかった。
ガキィィンと甲高い音が鳴り、短剣は奴の肌に傷を付けることも出来ず分厚い皮膚に阻まれた。
短剣は奴から溢れる冷気によって、みるみるうちに凍りつく。
だが・・・
「炎よ、ここに集え」
小さくそう呟けば、短剣に魔術式が走り魔力が溢れ出る。
「ガァァーッ!!」
炎を纏った短剣に
素早く剣を引き戻し二撃目、三撃目と攻撃の手は緩めない。
四撃目を入れようとして、だがすぐに身を翻しバックステップで距離を取る。
半瞬前に立っていた場所に奴の大剣が唸りを上げながら鉄槌さながらにが振り下ろされた。
大きく砂埃が舞い地面に小さなクレーターがあく。
あそこにいたら真っ二つにされていただろう。
体勢を整えている間に、
「魔法比べか。面白い」
「グガァ」
勝ち誇ったように嗤い、氷柱のように尖った氷の弾丸を打ち出す
「貫け」
一言。
ただそれだけで
光弾は氷を全て叩き落とし、的確に標的に吸い込まれた。
苦痛に呻く
大振りで大雑把に振り回された剣は、木々は砕けどこちらには当たらない。
その間に俺は奴の背後に回り込み、炎を纏った短剣を頭上から振り落とした。
ギリギリのところで察知し、左腕で受け止められる。切断まではいかないが勢いが乗った分、先程よりも深く入った。骨の辺りまで到達しているのでしばらく使い物にはならないだろう。
魔法勝負では敵わないと既に理解したらしく手に持つ大剣だけに魔力を集め始めた。
今度は奴が攻撃に転じた。
掠れば骨が砕ける一撃一撃を右へ左へ捌きながら躱していく。
左肩の近くの空気を切り裂く剣撃。
その時一瞬体勢を崩した俺に、稲妻の如く白刃が振り下ろされた。
ごお、と風切り音を立てて俺の頭上へと大剣が吸い込まれる
寸でのところで短剣を強化し、愚直な、しかし
二重三重に身体強化の魔術をかけていた腕がミシリと鳴った。
大剣の重量と奴の魔力で限界まで強化された刃はそれだけでは止まらず、俺の脚は地面にめり込んだ。
身動きが完全に取れなくなった。
剣から伝わる奴の冷気で、少しずつ手が氷に覆われていく。
腕が凍りついてしまう前に最大限に短剣に魔力を込め、刃を滑らせるように受け流した。
余波で左脇腹が斬り裂かれたが直撃は免れた。
素早く体勢を整えて剣を再度構え直す。
「影縫い」
そう唱えれば、奴の体は影に縫い付けられ身動きができなくなる。
「水よ、刃となりて敵を切り裂け」
更に畳み掛けるように魔術を展開する。
空中に無数の水の刃が出現し、
全弾違わず標的に命中したがまだ浅い。
腰を屈め再度脚へと魔力を集めた。
影に縫い付けられ身動きが取れない内に彼我の距離を縮め、大きく速度の乗った一撃を入れた。
水平に切り込まれた刃は深く脇腹へと刺さったが致命傷にはならない。
「なっ」
分厚い筋肉に阻まれ短剣が引き抜けなくなった。
更に奴の冷気で脚が凍りついていく
ニタァ、という不気味な笑みを浮かべて、奴は強引に影縫いを引きちぎると、その太い脚に遠心力を加えて旋回させた。
「アトラスっ!!」
レノアの声が聞こえる。
握った短剣ごと思い切り弾き飛ばされ、木々を2、3本薙ぎ倒してなんとか止まった。
「時間切れだな。なかなか強かったよ、お前」
そう言って手をかざす。
「交代の時間だ。
魔方陣を10個描き、光の大砲を撃ち込む。
だがこれはほとんど目潰しでしかない。
「レノア」
「もう来ておる」
隣にレノアが立ち、今度は彼女が
「もうちょっとやりたかったんだがな」
「お主が遅いのが悪い。妾は夕飯に遅れて怒られたくはないのでな」
はぁと溜息をつき俺は背後に向き直す。
視線を向ける先にいるのは、さっきまでレノアが戦っていたフォレストワームだ
フォレストワームは全身を鋭いもので突き刺されたようで、青い体液が流れ出ている。
顔面の三分の一は削り取られていて、かなりこっ酷くやられていたようだ。
彼我の距離は15メートルといったところ。
「アクセル」
加速度上昇の術を詠唱省略で短く唱える。
軽く地面を蹴った。
一瞬で縮んだ距離にフォレストワームは戸惑うものの、素早い動きで対応してきた。
このスピードがあったからレノアの攻撃から生き延びたのだろう。
「
しかし奴が見ていたのは幻。
俺が右横から迫ってきている、そう奴には見えているのだろうが、
「上だ」
俺の剣は真上。
体重を乗せた剣は重力に従い脳天に一直線に突き刺さっていった。
断末魔すら上げる事なく、力なくフォレストワームは崩れ落ちていった。
「さてこっちは終了だ」
レノアは、と
俺と同じように身体強化の魔術を使って氷大鬼アイスオーガの攻撃をひらひらと避けながら呪文を紡いでいる。
「悪夢の具現、怒りの咆哮、怨念の鎖。我は招く、黒き王の雷鎗よ。慈悲なき虚ろに引き裂かれ、己が無力を知れ」
「
瞬間、森を黒い雷光が覆い尽くした。
空中に一瞬にして構築された雷を纏う黒い槍が奴を貫いていた。
「グ、ギィィアァアアアア」
武器を振り上げていた姿勢のまま貫かれ焼かれ奴の体は、その魔力の触れた場所から炭化していった。
数秒にも感じた、一瞬の、最期の雄叫びの後に残ったのは元の形すら分からなくなった炭の塊だった。
「他愛もない」
「無事に倒せてなによりだけど、あれは流石にオーバーキルじゃないのか?」
あれは闇属性のB級上位魔術だったはずだ。
一流の魔術師が数人がかりで構築する攻勢魔法を一人で放つのは天晴れだが、今の身体では些か燃費が良くないと思う。
レノアなら他の魔術で充分に倒しきれたと思うんだが・・・
とゆうかその魔力を練る時間俺が相手をしていたわけなのだが・・
「妾のアトラスに傷をつける輩など灰になって当然だ」
「なんかされたっけ?」
よく身体を確認してみたら、蹴りを喰らって吹き飛ばされた時についたらしい打撲痕と切り傷があった。
「気づかなかったな。やっぱり脆くなってんな」
前世の感覚でいくと痛い目を見てしまう。
慣れないもんだ。
「鈍いのぅ、相変わらず。」
なんだよ相変わらずって、ぶつくさ言いながらも傷を回復させていった。
「まぁ、俺のために怒ってくれたならそれは嬉しい。ありがとな」
「当たり前のことをしたまでじゃ」
ふいっ、とそっぽを向いてレノアが答えたその時・・・
森の更に奥でつんざくような不気味な声が鳴り響いた。
「やっぱり、コイツらだけじゃ終わらないか」
夕闇に染まった森に、不穏な魔力が立ち込めていった。
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