第3話

そこは荘厳で静謐な空間。


世界のどこかの誰も届かない高みにその神界は存在する。


そこに音もなく姿を現したのは二柱の神。


「おいで、創聖剣ヴェルエトナ」


「戻りなさい、戒魔剣ゼフォード」


言葉を発した二人の手に剣が現れた。


勇者と魔王が手にしていた聖剣と魔剣である。


「自らの幸せよりも平和を選んだ二人は果たして永遠ハッピーエンドを望んだのだろうか?」


創造神はまるで自問するようにそう口にした。


「彼らが何を望んだのか、貴方はどうせわかっているのでしょう?」


破壊神の言葉に、聖剣を慈しむように撫でながら創造神は答える。


「まぁね。だからこそ彼らの願いを叶えてあげたいんだ。ちょっと甘やかし過ぎな気もするけれどね」


「可愛い子ども達のお願いを聞いてあげるのも親の務めだと思うわよ。」


そういいながら二人は剣を地に突き立てた。


「「創造により命は生まれ、破壊によって輪廻に戻る。優しい二人は輪廻に戻り、遠き未来に平和を見る。」」


剣は光を灯してどんどんと輪郭が薄れ、まるで空間に溶け込むように消えた。


主の元に戻ったのだろう。時と空間を超え、遠い未来に生を受けるであろう主の元に・・・


「さて、二人が歩む道は平坦か、茨の道か、それとも・・・・」


創造神と破壊神ふたりはそっと微笑み、遠き未来の勇者と魔王ふたりをその目に映す・・・・・




*****



時は七千年後…



ごく普通の村で少年と少女が会話をしていた。


「今日は何処へ遊びに行こうか?」


七歳くらいの少年が少女に聞く。


「東の森なんかいいんじゃないかの?」


「そうだな・・。今の時期なら丁度イウリが実をつける頃だしな」


そう言って二人が目的地に歩き出そうとした時、


「待てーい!うちの娘を何処へ連れて行く気だ!娘は、娘はまだやらんぞ!!」


飛び込むような勢いで、一人の男性が行く手を遮った。


二人は顔を見合わせて、呆れたような表情を浮かべた。


「ペルおじさん・・。大袈裟だよ、いつものように遊びに行くだけだってば」


少年は諭すようにそう言うが、

「だからいつもこうやって止めているんじゃないか」


少女は軽くため息をつき、

「父上、あまりしつこいのは妾は嫌じゃぞ。」


「…レノア。お前にはまだ早いんだ・・・」


少女…レノアは意味がわからないという表情を浮かべ、さらに言葉を重ねようとする。


だがタイミングの悪い所でもう一人男性が飛び込んで来た。


「ペルマディ、お前の娘こそうちのアトラスを誑かしてもらっては困る!」


そして開口一番にそう叫んだ。


「・・・父さん。」


今度は少年…アトラスがため息をつく番だった。


「リューデル、それはこっちのセリフだ。お前のところのアトラスが、うちのレノアを誑かしているんだ。」


「なんだと〜!」


そしてアトラスとレノアを置いて二人で言い争い始めた。


「父さん、少し落ち着いてくれ」


「父上もじゃ」


二人は困った顔を浮かべながらも仲裁に入る。


だが・・・

「「二人は黙っていなさい。これは大人の大事な話なんだ。」」


一蹴されてしまった。


「また、始まったよ・・・」


「どうしたものかのぅ・・」


どうにかならないものかと解決策を考えていると・・・


「あらあなた、頼んでおいたトロンの世話はどうしたのかしら?」


気づいたら横に女性が立っていた。レノアの母親のエルサおばさんである。

ちなみにトロンとは馬のことだ。


「あなたも仕事をほったらかして、一体何をしているの?」


続いてもう一人女性が現れる。うちの母さんだ。


母さん達を見た男二人はどんどんと顔が青ざめていく。


「エルサ、これには訳があってな……」


「ミシェル、俺も決して仕事をサボっていた訳では無くて・・・」


父さんとペルおじさんは、必死に弁解をしているが逆効果でしかない。


「どんな訳があったのかしら?ぜひ聞かせてもらいたいけれど、まさか子ども達が折角外に遊びに行こうとしているのを邪魔しに来た、なんて言いませんよね?」


母さんが畳み掛けた。笑顔を浮かべてはいるが目は恐ろしく冷たい。


「あなたも何度子ども達の邪魔をするなと言っていると思っているんですか?心配なのは分かりますけれど、まだ五歳の子どもにいちいち大人気ないですよ」


今度はエルサおばさんが冷たく言い放つ。


「・・いや・・・・その・・・」


「ん?何ですか。言いたいことがあったら言ってもいいんですよ?」


母さんが凄い怖い。怒られているのは自分ではないのに迫力が半端ない。


こうなって仕舞えば、父さん達は逆らえない。

ズルズルと引きずられるようにして母さん達に引っ張られていった。


「連れてかれちゃったな・・」


「毎度毎度、父上達も懲りないな」


決して悪い人ではないのだが多少、いやかなり親バカなのだ。


その点、母さん達は非常に常識人である。


「平和でいいじゃないか」


「それが何よりじゃからの」


そう言って元勇者と元魔王おれたちは、村を出て東の森に向かっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る