「24頁目 とある真実に気づく時」

 ×月▲日 ハバリアの宿にて


 少し、混乱している。この旅について、わたしの身に降りかかっている現状について、少しまとめておきたいことがあるのだ。


 今日、キングレオのお城に行った。目的はもちろんライアンさんを救うためだ。だが、この大陸に出る魔物は強く今のメンバーの実力でキングレオの魔物に敵うか不安だった。

 本音を言えば、もう少し戦いの経験を積んでからキングレオの魔物に挑みたいという気持ちが強かった。だが、悠長にしていてライアンさんの身に危険が降りかかっては本末転倒だ。敵わずとも、ライアンさんを助け出して逃げ出せばいい、とやけっぱちな気持ちで、覚悟を決めてキングレオ城に向かったのだ。


 だけど、そこでとても不思議な体験をした。


 三日前と全く同じことが起こったのだ。


「ここは偉大なるお城キングレオだ! 怪しまれたくなかったら早々に立ち去るが良い!」


 門兵の一人がわたし達に投げかけたセリフ。三日前に訪れた時と、一言一句違わない。

 

「今しがた城に忍び込もうとした怪しげな旅の戦士を捕まえた所だ。大臣の尋問が終わりしだい王様の前に連れて行かれるはず。おそらく奴もそれまでの命。気の毒にな……。」


 もう片方のセリフも全く同じ。なわけがないでしょ。それでわたし達は不思議な気持ちになりながらも、正面から回り込んで魔法の鍵で入り込める扉を探したんだ。


 すると、木々の影から吟遊詩人のような出で立ちの男の人が現れた。

 中性的な美男子でね。すらりとした体躯に金色のサラサラヘア。吸い込まれそうな澄んだ瞳をしていて……って三日前に書いたのとおんなじ。ライアンさんと一緒に旅をしたというホイミンさんだ。


「僕はホイミンと言う旅の者です。どうかお城の中のライアン様をお助けください! 魔法の鍵があれば忍び込めるはずです。少し北の港街ハバリアで何か分かるかも……」


 おかしくない?

 三日前と同じことが目の前で繰り返されている。


「もしかして、時間が止まってる?」


 考えてみれば、今までも似たようなことがあった。

 ミントスの町で病に伏していたクリフト。彼は何日も熱にうなされて「うーん、うーん……」と唸っていた。症状が悪化も改善もされず、同じように唸っているのが不思議に感じたものだ。



 もしかして、とクリフトに聞いてみた。


「ねえクリフト。あなた、病に倒れて寝ていたのって何日くらいか覚えてる?」


「え? ……そうですね。正確には覚えていませんが、アリーナ姫が旅立って、ブライさんが看病してくれていた日々は少し長かった気がします。でも、ハナさん達が現れてからは、すぐでしたよね。ブライさんと一緒に部屋を出て行って、次の日にはパテギアの根っこを持ってきてくれましたよね。随分早く手に入るのだなぁと思ったのを覚えてます」


 ……やっぱり。おかしいと思った。

 死んでも復活できるってことも、おかしいと思ったけど、行く先々で巻き起こる事件に間に合うようになってるのも、もしかしたら神の仕業なのかもしれない。


 綺麗な顔をしたホイミンさんがあんな城の近くに三日も野宿しているわけがないし、まるで初対面のように話しかけてきたのもおかしい。


 わたしが考え込んでいると、神妙な顔をしたミネアが近づいてきた。


「ハナさんも、気づきましたか……?」

「まさか、ミネアも気が付いていたの」

「今までも不思議に思うことがありましたが、今は確信しています。我々、『導かれし者たち』の出会いは神様によって定められているのかもしれません。きっと、この広い世界で巡り会う運命なのです」


 占い師のミネアの言うことだ。得も言われぬ信憑性があった。彼女の神秘的な瞳を見つめていると、彼女と初めて会った時の御告げを思い出した。


(あなたのまわりには7つの光が見えます。まだ小さな光ですが、やがては導かれ大きな光となる……)


 彼女の占いの通りに事は進んでいるのだ。ならば、ライアンさんと出会うのは運命なのだ。


 そこで、危険な賭けではあったけど、わたしは試してみたくなった。


「魔法の鍵なんて無くても、扉なんか叩き潰して侵入しちゃえばいいのにねー」


と乗り込む気満々のアリーナを止めつつ、ミネアと話したことを皆に伝える。

初めは疑っていたメンバーも、それぞれ、過去に今と同じような不思議な体験をしていたようで、確証はないまでも試してみようと言うわたしの意見を否定するものはいなかった。


 キングレオ城を後にしたわたし達はハバリアの港町に戻り一泊することにした。

 もしも、わたし達の仮説が正しければ、明日、もう一度キングレオ城に行っても今日と同じことが起こるはずだ。


 こんな博打みたいな提案をしたら、普段のミネアになら止められるのだけど、今回に限っては、彼女もわたしの提案に頷いてくれた。




×月■日 コーミズ村の宿屋にて

 やっぱり。わたしの仮説は正しかった。

 三度、キングレオ城に訪れたわたし達。門兵は昨日と同じ言葉を繰り返し、現れたホイミンさんは初対面のようにわたし達に助けを求めてきた。


 この城に限って、時間が止まっている。


「これなら、戦いの経験を積みまくって充分に強くなってから乗り込めるんじゃない? 弱いままで慌てて戦いを挑まなくてもよくない?」


 ミネアに意見を求めたみた。ミネアは少し考えて首を横に振った。


「確かに充分に対策を練ってから戦いを挑めば有利に戦いを進めるとは思います。でも、このお城の周囲に漂う独特な魔力は三日前に比べて少し弱くなっています。いつまで持つか、わかりません。早急に突入した方がいいことには変わりはないと思います」


 ならば、あまり悠長なことはやってられないってことか。


「でも、一日二日で切れるような弱い魔力ではありません。せっかくなら、充分に準備をしてから乗り込みましょう」


 そういうわけで、数日の猶予はあるようなので、周囲で魔物と戦って経験を積むことにした。




《最近の仲間達についてのメモ》


 戦闘はトルネコさん、アリーナ、クリフト、マーニャ。馬車の中はわたし、ミネア、ブライさん。二人はそれぞれおてんば姫とお気楽お姉さんに頭を悩ませているので、互いに苦労話に花が咲いていた。


 クリフトがザキを覚えた。死霊の使いがバンバン撃ってくるあの恐怖の死の呪文だ。早速、クリフトはバカみたいにザキを唱えるんだけど……これが結構効くの。

 めっちゃいい。けど、あの紫色の光は敵に向けられていても心地の良いものではないね。



×月◉日 コーミズ村の宿

 二連泊のコーミズ村。マーニャとミネアのおかげで無料で泊めてもらえたおかげで。ご厚意には甘えちゃうね。

 充分に経験を積んだとは言い難いけど、買えるだけの薬草や強力な武器も買い揃えた。

 明日はキングレオに乗り込むよ。ミネアの言っていた八つの光が、ついに揃う時だ。

 お城を支配する魔物を倒して、ライアンさんを救出しよう!




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