第五章「王国篇」

第12話『国王アーノルト奮戦・王太子帰還せよ』

 迫り来る魔界軍。

 次々に送り込まれる艦隊に、パルパティア王国陸海軍、そして近衛師団は統合任務部隊を編成し、全力での迎撃態勢を整えつつあった。


 パルパティア王国の男性王族には国軍将校となる義務、将兵の先頭に立って臣民を守る崇高なる義務──ノブレスオブリージュがある。

 国王アーノルトも例外ではなく、今アーノルトは海岸線に展開された部隊を総指揮していた。

 一方、文官の頂点に立つ宰相の王弟エアハルト、そして軍務大臣をも含む内閣を構成する国務大臣らは王都に待機していた。

 軍務大臣と宮内大臣は国王の陣頭指揮を補佐すべく掛け合ったが、アーノルトはかたくなに後方待機を命じた。王弟エアハルトは王太子アルベルトと並ぶ王位継承者であるし、何よりこの戦はパルパティア王国国王としてアーノルト自身が背負うものだ。愛する女を二度までも奪われた確執を持つ魔界皇帝にとっても望むところである。


 海岸に打ちつける白波は高く、厳しい。

 天候は戦を象徴を象徴するように悪く、よどんだ曇天の空だ。

 王国では有事の際、統合任務部隊が編成され、ひとりの指揮官に全権が委ねられる。この迎撃任務の指揮官は陸軍の実働部隊を総括する陸上総隊司令官だ。彼のもとに近衛師団、海軍艦隊から部隊が差し出され、指揮下に納められる。

 近衛師団に囲まれながら本陣に国王アーノルトが構えていた。侍従武官、陸上総隊司令官はじめ司令部幕僚、そして近衛師団、海軍の連絡将校を従えている。


 海原に青色の魔方陣が回る──


 閃光とともに、戦艦アイスウァルト、竜母、イージス護衛艦が現れた。悪天候、ふきつける海風が帆をふくらませ、船体を揺らす。

 イージス艦が艦隊から分かれ、沖合の守りにつく。


 統合任務部隊司令部からの報告を侍従武官が取り次ぎ、アーノルトに伝える。

「出現したのは王太子殿下の艦隊と思われます」

「よくぞ戻ってきた……!」

 アーノルトは立ち上がり、感慨深そうに見つめた。


     *    *


 連合艦隊司令長官ローラント大将はイージス護衛艦を王国沖合の守りに回すと、戦艦アイスウァルトと竜母で国王アーノルトの構える本陣を防衛するよう命令した。

 アルベルトはローラントを信用しているようで、戦艦アイスウァルトにいても特に司令部のやり取りに口を挟まなかった。

 このはがアルベルトに問いかける。聖地ガイアに共に足を踏み入れた仲であり、今や口調に上下関係は感じられない。

「飛竜で出撃はしないの?」

「敵の出方を探っている段階だ。……だが、グォーザスは本気だ。好戦的な魔界軍のメンタルだから自ら攻めてくるだろう」

 クラウスが静かに頷いた……その時。


「敵殲滅型重戦艦に動きあり──!!」


 海原に巨大な魔方陣が出現する! 島を覆い隠すほどだ。烈火鮮血のように赤い色で、おぞましさを感じさせる。

 アルベルトたちは戦慄した。

 ローラント大将が我に返り、指示を出す。

「火焔転移砲!? いかん、イージス艦の陣形を組み直せ! 本陣を守るんだ!!」

「「了解!」」

 旗や発煙弾で号令を交わし、イージス護衛艦が国王アーノルトのいる本陣を防衛する。

 防御魔法の結界を張り、対抗して青色の魔方陣を造成する。

 その間にも敵魔方陣は膨張する……今、中心部にエネルギーが集まり、発光を始めた──


 旗艦の舳先に魔界皇帝グォーザスが現れ、パルパティア王国本島を見据える。目を瞑り、何かに思い巡らせたようだが、威儀を正した。


「火焔転移砲、発射──!!!」


 グォーザスが怒りをこめて叫んだ!


     *    *


 ……衝撃に気を失っていたアルベルトとこのはだったが、クラウスに揺さぶられ身を起こす。

「状況は!? 火焔転移砲は!?」

 クラウスに問いただすが、渋い面持ちで首を横にふるばかり。

 アルベルトはパルパティア王国本島を見た──


 ──辺りが焦土と化していた。


 部隊が配備されていたパルパティア王国沿岸は、壊滅していたのだ……

 特に、国王アーノルトのいた本陣は跡形もなくクレーターができていた。

 イージス艦も消し炭となって海の藻屑となっている。


 すなわちこの瞬間、パルパティア王国国王アーノルトの崩御が確認された。


「嫌……嫌……そんな」

 人の死。受け入れがたい現実に、このはが取り乱す。

「…………そんな、父上!」

 アルベルトが叫ぶ。


 ……取り乱す彼らに一瞬ためらうが、どうしても伝えるべきと、クラウスが進言する──

「先ほどグォーザスが甲板に現れ、パルパティア王国に宣戦布告。取り逃がしましたが、次の火焔転移砲攻撃まで時間があると言いました。魔法規模から考えて事実かと」


 アルベルトが涙を拭い、立ち上がる。


 彼もまた近衛師団第一騎兵連隊隊長にして大佐、すなわちノブレスオブリージュを担う男子王族だ。臣民を率いる王室継承者なのだ。一瞬の迷いすら許されない。

「王都に帰還し、叔父上に報告する!」

 アルベルトは拳を握りしめた。




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