高天原まで10万里

naka-motoo

天の声を聞いた夜

 天井の闇から声がした。


「行くのなら止めないさ」


 わらわは小さき頃から予言めいた声を聞くことがしばしばじゃったが、こんなざっくばらんな語り口は初めてじゃったわ。


 だからこう答えたもんよ。


「ああ。いいよ。わらわは行ってやるさ」


 答えた部分は完全に現実じゃったな。

 後は夢なのか、わらわの妄想なのか訳が分からぬわ。

 とにもかくにも、朝になって日が高く昇る前には婆に言いつけておった。


「婆! 水を持てい! それからあまーいものを大量にじゃ!」

「ほほ。ひいさま、遠足でもなさるので?」

「たわけが。遠征じゃ!」

「これはまた大げさな」


 そう言いながらも婆は支度してくれたわい。


「ひいさま。水を10瓶、塩と砂糖を5俵、干し肉と魚介の干物を10貫、馬車に積み込みましたぞ。あと甘ーい練り切りも山ほど」

「従者がおらぬわ」

「はて。いつもの者どもでは不服ですか」

「またあいつらか」


 当然だろうという顔をして小娘が3人、躍り出てきた。


「ひいさま、お嫌でしょうがウチらがお供いたしましょう」


 赤子セキコ青子ショウコ緑子リョッコの三人娘が、ちっこい背を自慢しながらニヤニヤして立っておるわ。


「下駄履きの日常じゃのう」


 わらわは山女王国の姫という立場を忘れて卑しい物言いをしながら、こういう気軽さで出発したもんよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る