第2話 瞬間の幽霊

 とりあえず一話終わったね。本当ならここで蝋燭を一つ消さなきゃならないんだろうけど、そんな準備はしてないからこのまま次の話に進むよ。

 怖かった?ははは、顔がひきつってるけど大丈夫?ふふ、まあ気遣ってる余裕はないからこのまま続けるよ。次の話はね———。


 ―瞬間の幽霊―


 アパートで独り暮らしをしてる人の話。なんてことないアパートの一室でね。家賃が妙に安い、なんてことはなかったらしいんだけど。

 ある日の夜、いつもみたいに真っ暗な部屋に帰ってきて電気をつけるとね、蛍光灯が古くなってたのか、パチパチって点滅したんだ。ほら、ひもで引っ張ってつけるタイプのやつ。よく点滅するでしょ?

 その時ね、蛍光灯がパチパチって点滅した瞬間、部屋の中に誰かが立っていたんだって。

 一瞬の出来事だったから驚くんじゃなくて、目の錯覚かと思ってそんなに恐怖感はなかったらしいよ。姿は一瞬だったからほとんどわからなかったって。かろうじて黒い影ってことだけは認識できたらしいけど。もちろん戸締りはきちんとしてたから部屋に侵入者がいたわけじゃない。疑問に思ってもう一回電気のひもを引っ張った。勇気があるよね、僕だったら絶対にしないよ。

 ところが一度つけたら接触が良くなったのか、もうパチパチ点滅はしなくなったらしいんだ。一回でちゃんとつく。何度やってもそれだから、しょうがなくそのまま過ごしてたらしいんだ。

 しばらくして、深夜に酔っぱらって帰ってきた時のこと。ほろ酔い気分で玄関のドアを開けた時、ふっと思い出した。あっ、そうだ。この前電気のパチパチの時になんか影が見えてたなって。

 酔ってたせいもあるのか、正体を確かめてやろうって気になったらしい。気が大きくなってたんだろうね。部屋に入って、真っ暗の中電気のひもを持って、腰をかがめて構えるみたいに目を凝らしてさあ、いざ引っ張ったんだ。

 その人曰く、そのモノは目の前に現れたらしいよ。まさに眼前って感じでね。ただ、その人はそれ以上のことは話してくれなかったんだ。話はそこで終わっちゃってね。

 ああ、こう言ってたかな。酔いなんか一瞬で覚めたって。

 それ以来、部屋の電気を最近のLEDのタイプに変えて点滅しないようにしたらしいよ。そういう問題なのって思ったけど、ふふ。その人はまだその部屋に住んでる。つくづく勇気のある人だよね。

 ああ、そうそう。こうも言ってたかな。

 黒い影じゃなくて、全部が髪の毛だったんだって。

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