閻魔様がおくりびと。

昭之ケイ

第1話

一体何十億年、何百億年と時間を費やし見てきただろうか。

裁判を受け然るべき道へ進まされていく魂達。

嘘を付いた者は舌を抜かれる、そんな現世での言い伝えは嘘だ。いや、正しく言い換えるともう止めたのだ。先代は律儀に行っていた様だが、一人一人の亡者に手を伸ばし態々そんな事をするのは只管に面倒だった。仕事と割り切るには余りに毎日同じ事の繰り返しで、ウンザリしていた。

ついでに言うと閻魔も死人の数だけ同じ苦しみを味わっているという話も嘘。毎日何十万と来る魂と一々向き合ってみろ。耐えられる訳がない。

悪い、そして怖いイメージだけが先行している名を少し、ほんの少し良くしようとしただけ。本当は苦労人なのだと。一体誰がそんな噂を現世に流したのやら。現世に俺のファンが居るなら是非見てみたい。

こんな考え方を持つようになったのも、ウジャウジャと流れ来る現代人達に染められた所為なのか、少しばかり俗世染みてしまった俺を地獄の住人どもは良しとしていない。先代と比べられてしまうのはあの世でも、いや俺からしたら"この世"の方か。いつの時代でも変わりはしない、誰しもが経験ある事だろう。


古参は言う、あいつは閻魔を名乗るに相応しくない。

じゃあ誰が務めれば一体相応しいのか。ただ選ぶだけ、然も善悪の調査や過去の事例を持ち出すのは俺の仕事ではない。優秀な部下が行い、俺はそれに耳を傾ける。で、選定。こんな単純作業だけで大王と名乗り踏ん反り返っているなら、偉そうに足を組んで座っている先代達よりずっと俺は、まだ良いイメージがあるんじゃないのか?威厳もクソも持ち合わせちゃいない、厳格に魂を振り分けている訳でもない。寧ろ今の世の中のニーズに合った選定をしていると思う。だってホラ、最近の亡者はちょっと目が合っただけで委縮やがる。すぐにバレる嘘を付くにも、正直に吐く真実にもどちらも同じ涙を見せられちゃ、こっちは溜め息を付くしか無い訳で。人間の小ささ・愚かさを威圧感で一蹴してたらそりゃ怖いイメージなんざ一生纏わり付くわな。

偶に自殺してこっちの世界に来たオッサンの話を聞くのは面白かったりする。妙に慣れた口振りで経緯を話す様子は流石役職付きと言った所か。会議慣れ、人慣れしてんのな。上からも下からも潰された身、「あるよねー」なんて会話を楽しみそして然るべき道へと。その背中は何処か清々しい。嗚呼、やっと楽になれたんだな。そりゃ良かったよ。


果たして俺の日々にも、抜け道はあるのだろうか。

無駄に設定付けられた尖った耳を掻きながら、今日も俺は亡者の魂を裁いていく。









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