第5節

 ユキの一方的な想いは儚く終わった。

 翌日からコダマはいつも通り配達をし、ユキやその他街の人に届け物をする日々が始まった。だが、明らかに、ユキの態度は一変した。労いの言葉はなくなり、両者の会話も少なくなった。あの日以来、ユキは明らかにコダマを『物』として見るようになっていった。


 二年ほどたったある日、コダマに異動命令が下った。バローナの定期便の任を解かれ、また地球と他星系との長距離航路に就くことになった。

 そのことをユキになんとなしに伝えても、何も言葉はなかった。


「やあ、惜しかったね。まさかキミを好きになる人が現れるなんてね!」


 地球への帰路で、スラッシュはコダマをはやした。


「まぁ物好きもいたもんだな」


「でも失礼しちゃうよね。キミがアンドロイドだって嘘の告白したらそれっきり、なんてね」


「後腐れなくて良いじゃないか」


「で、本音はどうなの? 惜しかったと思ってる?」


「いや全然?」


「ちぇっ」


   *


 二十年ちょっとぶりの地球だった。宇宙港は相変わらず騒々しく、何も変わっていなかった。


「あらコダマ。お帰りなさい」


 リズが受付カウンターにまだいた。相変わらず無機質な外見は、すこしオーバーホールされたようで小綺麗になっていた。


「オーバーホールされたのか? 綺麗だな」


「……! あ、ありがとう……」


 リズの電子頭脳は混乱しているようだった。不意を突かれたのだ。その様子を見て、スラッシュはまたはやし立てたくなっていた。


「そうだ! コダマ! お昼奢ってあげる」


「はぁ? お前オーバーホールされたくせに電子頭脳バグってるのか? カネが無いだろうカネが」


「ふふーん」


 そう言ってリズは巾着袋を見せつけた。中には小銭が沢山入っていた。


「三百年も務めていると、チップをくれる人が結構いるのよねぇ」


「……」


「さあさあ。スラッシュもいらっしゃい! 借りを返すわ!」


「僕もいいの?」


「もちろん。——ほらコダマ。はやくいらっしゃい!」


 ——参った。


 コダマは頭を掻きながら、勇み足でフードコートに向かうリズの背中を追った。

                                     

                                     了

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