2043 天上の力

 両者は10メートルぐらいの距離を置き、お互い臨戦態勢に入った。


「…日本刀か、お前、日本人か?」


「ああ、趣味でな、対してお前の得物は…」


「ああ、これだ。」


 錬火は右手を突き出し、なにもない空間から、一本の槍を取り出した。


 平凡なスピアだ、なんの装飾もない、木製の柄、鉄製の穂、ただの槍。


「…見たことのない超能力だな。」


「特別だからな。」


 錬火は、槍を構えた、そして天上も、刀を握った。


「では…いざ!」


「参る!」



 天上は走り出した、錬火はまったく動じない。


「まっすぐに来たか!」


 天上は一閃、左腰から抜き出した刀は、その勢いのままに錬火の腰に払った!



 キンッーーーー!



 え?


 錬火の右腰がいきなり…一本の鉄盾が現れた。


「ちっ。」


 天上は一撃後すぐ、後ろに大きく跳び下がった。


「ぬお!?軽い一撃だけで鉄盾がひびに入ったのか、すげぇな。」


「お前も大したものだな、物体創造か?」


「違うな、まあ、お前に教える義理もないしな。」


「そうだな。」


「じゃあこっちからいくぜ!」


「…くっ!」


 天上はいきなり身を傾き、そして天上の前にいきなり、一本の槍が上から地面に突き刺さった!


 どういうことだ!?またなにもない空間からいきなり…武器が…


「避けたか、すげぇな、あんなのも避けるのか。」


「…まさか、物体転移?」


「まあ、半分正解、小手調べもこれぐらいにして、どんどんいくぞ!」


 あんな渾名だし、発火系かと思ったが…まさか本名?本名なら、能力と関係ないのも頷けるな。



 そして、数分に渡り、激しい攻防が繰り広げた。


 天上のスピードは大したものだ、千月程ではないが、普通の人間ならほぼ見えない、実際にイブが作動していない千月の目ではまったく見えない、見えるのは僅かな白い軌道だけだ。


 しかし…妙な違和感が…、天上の動き、なんかおかしい、いや、おかしいのは錬火の方だ…、いやいや、両者共変な動きだ、どういうことだ?



 キンッ!キンッーーー!キキキンッーーー!



 おかしい…おかしいぞ?あんなスピードからの斬撃、全部防いだ、しかも全部ありえない形で…。


 錬火はまったく動じない、身の回りには剣、盾、斧、槍、とにかく色んな武器が、まるで天上の攻撃に合わせるように、いきなり現れ、攻撃を防いだあとすぐ消えた…まさか、自動防衛か?


「すげぇな、天上とやら、全然本気出してないのに、こっちの武器は全部一撃で破壊されたな。」


 天上は大きく後ろに跳び下がって、距離を置いた。


「お前こそ、全く攻撃しないとはどういうことだ?」


「いやー、流石に相手が悪かったな、相性最悪だ。」


「……降参か?」


「はっ!やってみないと分からねえだろ?」


 錬火は槍を収め…というより、消した、そして身の回りの空間から、数十本の武器が現れた、まるで守っているように、錬火の身を囲んでいる。


「そんじゃ、行くぜ!」


 錬火は右手の地面に突き刺さっている剣に触った瞬間…



 キンッーーー!



 天上が…いきなり刀を抜き払い、何かを切り落とした。


 それは…剣だ、錬火の触っている剣と全く同じの剣が、地面に落ちた、そしてすぐ消えた。


「複製…そして転移か!」


「そうだ!俺は触った事のある武器は複製し、いつでもどこでも呼び出せる、そして身の回りを予め配置し、自動的に防衛として現せる。」


「多重能力者…か。」


「ああそうだ、複製、転移、自動防衛ってな。」


 多重能力者!?つまり独りで複数の超能力を使いこなせる能力者ということか!


「なるほどな、確かに我の様な能力では、お前にとって最悪の相手だな。」


「そういうことだ…が、やってみないとわからねえって言ってんだろう!」


 また!今度は色んな武器を触って、あらゆる方向から武器が現れ、天上に攻撃した…が、悉く切り落とされた。


「参ったな、さっきの千月って子も苦手なのに、まさかお前も加速系の能力者とはな。」



 なるほど、攻撃手段自体は確かに速いが、本人はついていけないということか?つまり自動防衛がないと、すぐ負けるだろう。


 千月の事を見下ろしているのに、なぜ千月との一騎討ちを要求して来ないのか、これが理由か、さっき千月の指が後頭部に突き刺さったのに、自動防衛は反応していない、つまり速すぎると反応できない、相性最悪というのはこういうことか。


 てか天上も加速?なんか違う気がするが…



「勘違いをしたようだな、我の能力は加速ではない、逆だ。」


「…なに?」


 逆…?まさか!


「我が身を認識したもの全て、その反応が遅くなる。」


「なんだと…」



 そうか!つまり、千月と真っ逆だ!


 千月は自分の身の反射神経を上がり、相対的に周りの動きが遅くなる、だが天上は逆に、天上を視認したものの反射神経が遅くなり、相対的に自分の動きが早くなる。


 一番違うのは、千月は自分自身のみの強力の加速だが、反動を受けられる、天上は広範囲の減速だが、視認されないと効果がない、一長一短だな。


「それと、我はお前にとって、一番致命的な違いは、技量だな。」



 ああ、どうして錬火は全く動かないのか、その理由やっとわかった。


 天上のスピードについていけないのも理由の一つだが、一番致命的なのは戦闘技術、つまり技量だ。



「お前、超能力に頼り過ぎたな、武器が数多く持っているが、その武器の扱い方すら分からないだろ?もっと鍛錬を施せば、いい勝負になれるはずだ。」


「…………」


 なるほどな、さっきから全部転移攻撃ばかり、つまり剣か槍の扱い方もわからないから、投げ出すことしかできない、その転移攻撃が効かないいま、錬火はただ防戦するしかない、だって自分の手で攻撃することができないのだ、このままだと、いつか負けるのだろう。


「いい収穫でしたね、いーちゃん。」


 ああ?まさか…天上の力を知りたいだけで、この一騎討ちを作ったのか?


「…ああ、思い出した、天上…か、くっくっくっ…」


「なんだ?」


「ああ、お前、嘉義城の守護神っという渾名があるじゃないか?」


「…そう呼ばれたこともある。」


「なるほどな、嘉義から出た事ないって、報告にはあったが、なぜいきなりここに現した?」


「…訳あって、千月と同行することになった。」


「…そうか、やはりいい花には棘がある…か、ますます好きになったぞ。」


「お前、女の趣味についで何も言うことはないが、千月に手を出すつもりなら…」


「あん?まさかお前…」


「勘違いしないでくれ、千月はお前を受け入れるのなら、何の問題もない、だが強引な行動を取った場合、全身バラバラにされた後、頭を踏み潰されて死ぬぞ?」


「天上さん!何を言ってるんですか!私は殺人狂じゃないですよ!」


 いやそれについで同意だな、殺人狂だろ、お前。


「…くっくっくっ…はっはっはっ!ああ、面白い人達だ、さっきのセントとやらも、変なアピールをしながら、いきなり訳がわからん筋肉講義をしやがって。」


「ええ!?セントなにやってるんですか!」


「ち、千月様、時間稼ぎとか雑談とか、それだけでは、どうしたらいいかわかりませんぞ!」


 ああ…アホだ、ここにも居るのか。


 参ったな、さっきまでの緊張感が綺麗さっぱり消えてなくなったぞ。


「…くっくっくっ、千月、降参だ。」


 錬火の身の周りに置いている武器を全部消した。


「これ以上やったら、本当に殺されるだろうな、本気も出していないのに、ここまでの差があるとはな、守護神と呼ばれた訳だ。」


 そして錬火は後ろに向き、自分の部隊に向かって歩き出した。


「待ってくれ、副指揮官に指示を出す。」


「…待って、どうするつもり?」


「心配するな、俺は約束を必ず守る男だ、まあ今更お前達に掛かっても、全滅されるだけだろうな。」


 おお?ハッタリ効果まだ健在か、危うく忘れるどころだったぞ。


「副指揮官に命令を出した後、すぐ戻る、ここで待っていてくれ。」


「ちょっと待って…ください!」


「ああ?注文が多いな。」


「私も一緒に行きます。」


「ああ?なぜだ?」


「錬火さん、その部隊の中に、自分の領地に裏切りたくない人が大勢いるはずでしょう?」


「当たり前だ、俺は別にいいが、みんなも出来るはずがないだろ。」


「だったらまずみんなと話し合ってください、もちろん私も一緒です。」


「ああ?そんな必要はあるのか?従わない場合、皆殺しじゃないか?」


「反抗された場合そうなりますが、出来れば避けたいのです、さっきも約束したじゃないですか?みんなの安全を保証するって、だからみんなにも理解出来るように説明をしましょう、いらぬ反抗を起こさないために。」


「…くっくっくっ、お前…本当に、面白い女だ、俺は半年もこの部隊の指揮官としてやって来たが、まさかここで全部なくなったとは…、あの隕石は反則だな…。」


「いいえ、あなたは今まで通り、この部隊の指揮官です。」


「ああ?お前らの捕虜になっただろ?」


「そうです、しかしやはりみんなの信用をもらえる人の話なら、管理も反抗の抑圧も易くなるでしょう?」


「それもそうだな、わかった。」


「さあ!説得しに行きましょう、みんなを!」



 こうして、千月は数時間をかけて、2万人の説得を行っていた。


 結局、2万人は一切の反抗もなく、全員武装解除し、西螺城へ転進した。


 まさかこんな大勝利も取ったとは…、こっちは一兵も使わず、3万人相手に勝った、そして2万人の労働力という戦利品も貰った、戦術はなんと、ただのハッタリで…


 西螺城主はこの事を聞いた後、気絶しちゃった、まあ年だし。


 しかし妙だ、イブのサポートには、思考回転速度のサポートもあるって、赤毛言わなかったっけ?千月は戦闘用以外のサポートは使ったことないぞ?問題があって使えないのか?方法はわからないのか?それとも…必要ないのか?

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