1014 台湾の超能力者

 思えば、うちは一体どうしてここにいるんだろう?


 いや、そもそもうちらは、どうしてこんな星に来たんだ?


 地球人は、うちらと近い種族だ。


 文化、文明、思想など、ほぼ同じ。


 さらに、人体構造も大抵同じだ。


 ただし一つだけ、決定的な違いがある。


 それは……



 ………うぅ…。


 体が…痛い、とんでもなく…痛い。


 全身が、すべてが、痛くない所が…ない。


 涙が…出そうだ、自分の体があれば、思いっきり…泣きたい。



『……うぅ……』


「あ、いーちゃん、やっと起きました!」


『……千月、うち…痛いよ…。』


「あ……うん、ごめんなさい、無茶し過ぎました。」


 うちらは…まだベッドに倒れているようだ。


『……どれくらい、寝たのか?』


「もう心配しましたよ?私は3日、いーちゃんは12日も寝ちゃいましたよ?」


『……え?そんな…バカな…。』


 どういうことだ…なぜそこまでの差が出てくるんだ?千月が起きたら、うちは10分以内で起こられるはずだ。


『医者はなんと?』


「なんか、全身の筋肉が所々融解、あとなんとか神経も断裂寸前とかなんとか、特に足が酷い、だそうですね、へへっ。」


 ……こんなの、まだ笑えるのか?どうしてこんなに平気でいられるのか?普通死ぬ程の痛みだろう?


『千月、おまえ、痛くないか?』


「うん、痛いよ?全身が。」


『そうか?なんかおまえ、そんなに痛くないようにみえるぞ?うちはもう、いっそ死んた方が楽って程…痛い。』


「ふええ!?そこまでじゃないですよ?」


 やっぱりか…まさかうち、千月の痛覚を軽減して、その分うちの痛覚に上乗せされるのか?


 もしそれが本当なら…どうして?


『千月、痛覚以外、何かリンク前と違う所があるか?味覚とか触覚とか。』


「ありませんよ?確かまだ中国の研究所にいる時、試したことがあるでしょう?」


『…そうだったな、忘れてた。』


「いーちゃん、大丈夫?」


『…だいじょばないな。』


「そういえばいーちゃん、このリボンがあったら氷人から攻撃されないっていったでしょう?どうして攻撃されましたの?」


『こっちから攻撃したら反撃されるって言ったろう?』


「え?でも私、あのロボットに触ったことすらありませんよ?」


『あんな挑発は攻撃と同じじゃねえか!!』


 おまえのせいでせっかくの氷人と接触のチャンスも逃したじゃねえか!ああ…怒ったらもっと痛くなった…。


 それにしても、ここはどこだ?


 病院…の個室みたいだな、ベッドは1床しかない、何故か中華風の屏風もある、病院というより、ホテルみたいだ、だがこの匂い、確かに病院のものだ、そしてこの建物、どうやら現代の鉄骨構造だな。


 今は…午前11時か。


「起きたか?千月さん。」


 誰か部屋に入ったようだ。


「あ、先生、今日の飯はなんですか?」


「ははっ、会うたびに飯の話ばかり、千月さんは本当に食いしん坊ね。」


 この人、ここの医者か?中年の女性だ、なるほど、医者の白いコートを纏ってるな。


「起きたようだな、今日もキビナゴ?」


 湧にいか、医者のあとから付いて来た。


「はい!超美味いです、毎日でも食べたいです!」


『…おい、うちのこともちょっと考えろよ…。』


 まったく、味覚も共有だぞ?忘れたか?


「ははっ、いいとも、千月さんのご注文だ、食べたいものならなんでも用意してあげるよ。」


 ……え?湧にいの態度が、おかしいぞ?なんか、姿勢がちょっと低くない?千月のことは不審人物扱いじゃないか?


「では先生、後は頼む、俺は用意してくる。」


「はいはい。」


 湧にいは千月に軽い挨拶したあと、部屋から出ていった、やっぱりおかしい。


「あの、今日は、色々聞かせてくれませんか?」


「え?どうしたの急に、その話はいつも聞きたくないって言ってるじゃない?」


「ええ、まあ、今日は調子がよくなりました、ですから、教えてくれませんか?この前話した、戦争のことを。」


 …なるほど、千月のやつ、うちがいない間に、こんな重要な情報を一人だけで聞きたくないというのね。


 まったく、憎めないやつだ、ちゃんとうちのことも考えているじゃないか。


「ええ、いいよ、飯を待つ間に丁度いいね。」


「お願いします。」



 台湾の戦争についで、要約するとこうだ。


 隔離後、あのビームのせいで現代文明がほぼ破壊されたのは前にも聞いた、しかし現代化の比例は、都市と田舎はもちろん結構な差がある、だからビームによる影響も結構違う。


 都市の発展は高くなる程、危険性も高くなる、主にいつ倒壊するかわからない高層ビルと、漏れた各種の有毒気体と放射線、それゆえ、影響はそこまで深刻ではない田舎の町は、必然的に大勢の都会の住民が流れ込んていき、田舎と都の逆転現象が起こった。


 理由はもちろん安全性だけでなく、食料の確保も重要だ、作物の生産に使える土地は、発達しすぎた都には少ないのだ、さらに田舎にはこういった生産作業に慣れた人が大勢いるので、都会人にとって大きな助けとなる。


 ただし近代化設備の破壊による生産力低下、さらに一部の都会人は自力生産には不慣れか自暴自棄による生産人力不足、さらにあのビームは極力生き物を殺さない、だから生き残った人は思ったより多く、全国難民化現象が発生し、酷い飢饉が起こった。


 やがて人々は、難しい生産より、易い方法を選んた、それはつまり、略奪だ。


 そして略奪のための組織と守るための組織はいっぱい立ち上がり、争いの規模はどんどん拡大し、最後は戦争になった。


 最初はただ生きるための生存競争は、最後は主義主張の争いになった、どっちが悪いかどっちが正しいか、十数年後の今ではもう誰も気にすることはなくなった。


 あとどうでもいい話しだが、湧にいはこの辺りの村の指揮官らしい、指揮官といったが、実は階級などいない、ただの呼び名だ、戦闘員も全員軍人ではなく、ただ村人達は自発的に結成していた自衛隊のようなものだ。



「今の台湾では戦争ばかり、小さな台湾は数十の領地に分かれ、お互い略奪戦争を繰り返していた。」


「…みんなを纏めるヒーローは、ないんですね。」


「ええ、難しいからね。」


「氷人の方はどうなりましたの?」


「氷人は玉山辺りに占領したあと、最初はよく見かけるわよ、ロボットに乗ってあちこちに出現したの、ただ台湾人との接触は極力避けて、廃棄物だけが収集してる、氷人の占領地で何をしてるのか、だれも知らないわ。」


「最初?」


「ええ、台湾人の戦争は本格的に拡大したあと、突然姿をなくした、稀に出てこない、多分怖がっているでしょう。」


「え?怖がってますの?なんで?冷兵器しか使えないでしょう?あんなロボットがあるのに怖がりますの?」


「氷人が怖がっているのは、台湾人の…」



「超能力だ。」



 超…能力?


 あの時の氷人の小僧も超能力と言った、一体どういう意味だ?


「原因はわからないが、氷人による隔離のあと、生き物の変異が始まった、最初は大した問題はないので誰も気にしてないが、影響はどんどん顕着になった。」


「変異?」


「ああ、植物と動物の巨大化、凶暴化、そして人間は、体の変異だけでなく、映画の魔法みたいなこともできるようになった。」


 なん…だと?


 常識から逸脱した生き物の超常能力、だから、超能力か。


「しかし変異の個体差が激し、全ての生き物は例外なく何らかの影響を受けたが、毛髪の伸びが早くなるみたいなどうでもいいものから、千月さんみたいな瞬間移動ができる人までもいるわ。」


 なに!?こんな出鱈目なことを出来る人もいるのか、しかも、大勢いると?


「まさか…私みたいな人がいっぱい?」


「いえ、流石に一人だけで、しかも一瞬であのロボットを撃退出来る人はそんなにいないでしょう、そんなに強い能力を持つ人自体がかなりのレアケースね、実際今の澎湖では、ここまでの強さを持つ人間はいない、しかし互角に戦える人なら、それなりにいるわよ。」


 そういうことか、戦争は激化した原因は、超能力者の大量発生も一役を担っていると見える。


「なるほど、ヒーローが現れないわけですね、こんな超能力者がいっぱいいる世界では、確かに難しいですね。」


「そういうこと。」


「でも超能力があったら、氷人を追い出すことができるでしょう?隔離もなんとかできますよね?どうしてそれをしないんですか?」


「入れないからね、ただ詳しくは私達もよくわからない、本島に行けば何かわかるかもしれないね。」


 離島だからか、通信手段が乏しい今、遠い所では情報はあんまり入れないだろう。


 だったら澎湖に居ても仕方ない、早く本島へ向かうべきだ。

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