第10話 エルバート視点――旧友
記憶にある限りは、学生の頃は彼のことをそんな風に思っていなかったと思うのだ。では私はいつから彼に恋をしていたのか――――思い返してみることにする。
魔導学園を卒業し、彼はすぐに教師になった。
私は数年間冒険者に従事してから教師になることができた。
冒険者をしている間、彼とパーティを組んで依頼をこなすこともあった。
学生時代に戻ったようでこの上なく楽しかった。
この段階ではまだ恋ではなかった筈だ。
同僚として一緒に教師を出来ることになりさらに数年経ち。
突然彼が養子をもらうことになった。
「この才能を埋もれさせるには惜しい」、そう言って彼は平民の孤児を自分の息子にした。それから彼は家庭的な人間になった。
「自分は教えるのが下手だから」と彼の息子に剣術を教えることを頼まれた。
たまの休日に彼と彼の息子と三人で出掛けることもあった。
遊び疲れて帰りの馬車の中で寝てしまった息子の顔を幸せそうな表情で見つめる彼――――ああ、この瞬間かもしれない。
学生の頃は心の何処かで彼のことを化け物か何かのように思っていた。
いつ見ても勉強か生徒会の仕事か何かをしている。
そしてその努力は当然のように成績に反映される。
彼は人というより『優等生』という名の生き物のようだった。
彼を人間ではない何かだと思うことで、心の中の妬み嫉みを私は必死に宥めていた。
だから「彼も人間なんだな」と気づいたその瞬間、私は己の中の恋心を自覚したのだ。今更過ぎるな。
何度もこの恋心を胸の底に封じ込めておこうとした。
だが駄目だった。むしろ彼の存在は私の中で大きくなっていくばかりだった。
一方彼は私の想いに気づく様子はまるでない。
今日もだ。気づかないばかりか『きっと相手も受け入れてくれるさ』だと。
その助言に従って私がお前に告白をしたらどうするんだ。
お前は受け入れてくれるのか?
まったく。私が恋心を捨てられないのは彼のせいだ。
彼の言動の一つ一つが私の心を掴んで離さない。
恋心を抱えたままでいることは辛く、さりとて彼と友であることを止める勇気もない。まさかこの年になって思春期の若者のような煩悶を抱える羽目になるとは思わなかった。
「なあ、ケン」
学生時代の生徒会室。
私はそこで昼食を摂り、彼は勉強をしていた。
「卒業後はどうするんだ」
「学園からスカウトされてる。教師になるつもりだ」
「それはいいな。私も教師になりたいな」
この時私は何故教師になりたいなんて言ったのだったか。
私に劣等感を植え付けてきた相手からせっかく離れられるというのに。
「お前はいい奴だから、きっと生徒にも慕われるさ」
でもこの時の彼の笑顔が忘れられなくて、私は教師を目指すことにしたんだ。
きっと私はこの恋心も同じく忘れることができない。
いつか私は親友にこの想いを伝えることになるのだろう。
そんな予感がしていた。
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