第7話 恋人は常連客

「よかったわねー!あのお客さんとやっとくっついたのね!おめでとう!」

 桃は、まるで自分のことのように嬉しそうにはしゃいだ。

「みーちゃん、おめでとう」

 春彦も嬉しそうに言った。

「もっと教えてよ。ねえ、キスは?したの?」

「も、桃さん……。し、しました…」

 美優が言うと、桃と春彦は顔を見合わせた。

「本当か!?どっちからしたんだ?」

「守くんから…」

 美優は照れて言った。

「へえ、そうやって呼んでるんだ」

 桃はニヤリと笑った。

「で?どんな状況でキスしたわけ?」

 桃は前のめりになって聞いた。

「私が、守さんって呼ぶって言ったら、くん付けで呼ばないとだめって…。

 守さん、って言ったら、くんって呼ぶまで何度でもキスするよって…キスされちゃった…」

 美優は恥ずかしそうに言った。

「あらまあ。いいわね、若いって」

 桃は笑った。

「今日はまだ、来てないみたいだな」

 春彦が店内を見渡して言った。

「そうなんです。守くん、仕事が忙しいから…。

 遅くまで仕事があるときもあるらしくて。

 それに、忙しいからなかなか会えなくて…最近寂しいんです。

 付き合っているのに、あまり会えなくて…電話はしてるんですけど…」

 美優は俯いた。


 その時、カランコロンとドアが開く音がした。

「あっ…!守くんっ!」

 美優は嬉しそうに守に駆け寄った。

「お疲れ様です。お仕事は…」

「まだ、やることがたくさんでね。」

「そうですか…じゃあ、どうします?軽いものにします?」

「…いや、料理を頼む」

「えっ?」

「君の手料理が食べたい。だめ?」

「守くん…」

「君の料理を食べたら、もっと頑張れるんだけどな」

「もう、守くんったら。無理しちゃだめですよ」

 美優は守が握った自分の手を見ながら、守の手を握り返した。

「忙しいかもしれないですけど、しっかり食事は取ってくださいね?

 それと、あまり仕事をこん詰めちゃだめです」

 美優は守を見詰めた。

「わかったよ。今日の仕事はもう終わり。だから、まだ一緒に居られる」

「本当ですか!嬉しい…!」

 美優は笑顔で言った。

「ん。喉乾いたな」

「なににします?」

「君の…くちびる」

「…っ、もう、やだ。だめです、」

「いいじゃないか。付き合ってるんだから」

「恥ずかしいです、」

「だめ。我慢できないよ」

「もう…じゃあ、ふたりきりになってからです」

「わかった」

 守は美優を見詰めた。


 閉店時間になり、店じまいの準備をしていると、守が席を立った。

「もう帰ってしまうんですか?」

 美優が寂しそうな顔をした。

「まだ帰らないよ?君と、キスしてないし」

「も、もう…守くんったら」

 美優は顔を赤くした。


 閉店の準備も終わり、美優は守が座っているカウンター席へと座った。

 美優が隣に座ってくれたことに嬉しい気持ちでいる守だったが、

 最近なかなか会えずに寂しさが募り、美優を独り占めしたいと思っていた。

「みーちゃん」

「なんですか?」

「寂しかった」

「それは、私だって…」

「ん、」

「ん?」

「キスしよ」

「…っ、はい…!」

「キス、してくれる?」

「私…守くんのキスが好きなんです。だから、守くんから…っん!」

 守は美優の唇を塞いだ。優しく触れるキスだった。

「守くん…」

「ずるいなあ。そうやっていつも、強請るんだから。僕だって、君からのキスが欲しいのにな」

「キスなんて…私一度もしたことないんです、だからどうやってキスすれば良いのか…っ、」

 守が美優の唇を再び塞いだ。今度は少しだけ唇を啄むように。

「や、…もう…守くんったら」

 美優は唇を手で抑え、守の温もりを感じていた。

「みーちゃん、大好きだよ」

「私だって、守くん大好き!」

 美優は守に抱きついた。


 2人はずっと抱き合っていたが、夜が更けてきた。

「眠くなってきちゃいました…」

「あー、もうこんな時間か」

 守は時計をちらっと見た。

「帰らなきゃな」

「いやよ、帰っちゃいや…」

「みーちゃん」

「わかってます、ごめんなさ…い、」

 美優はとろんとした目で守を見て、守の胸で寝てしまった。

「みーちゃん…参ったな、これじゃ帰れないな」

 すると、桃と春彦がでてきて言った。

「泊まってけばいいじゃないか。部屋はあるから」

 春彦が言った。

「いや、でも…」

「みーちゃん、目が覚めたらあなたがいないって泣いたら、どーする?」

「え、いや…僕だってみーちゃんともっといたいです。でも…」

「そう、残念ね。みーちゃん、朝どんな顔するかしら」

「それは…」

 守は悩んだ挙句、美優を部屋に送り届け、ベッドに寝せた。

 美優の唇や額に口付けをしてから部屋を出た。

 美優の部屋にある机には一枚のメモがあった。

 そのメモには、達筆な字でこう書いてあった。


 ー大好きなみーちゃんへ

 また明日来る。君が好きすぎて、困っちゃうよ。

 明日はもっと、一緒に居られる時間作るから。だから楽しみに待ってて。

 愛してるよ、みーちゃん。

 みーちゃんが大好きな守よりー


 机の上には、綺麗な花束が飾ってあった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る