第20話 また布団に入れてもらった!

(11月第4水曜日)

11月の終わりはずっと雨が降っている。秋から冬に移る冷たい雨、山茶花梅雨だ。今日はまだ水曜日、寒い1日だった。仕事も結構トラブったりして疲れた。


昼頃に亮さんから、[外勤をしていて、関連会社で打合せの後に懇親会があり、遅くなるから、夕食はパス]とメールが入っていた。


10時を過ぎているのにまだ帰ってこない。また風俗に行ったのではと不安がよぎる。でもしかたがないとのあきらめの気持ちもある。亮さんを満足させてあげられていない。お風呂に入っていても気持ちが落ち込む。上がるとすぐに部屋に入って布団の中へ。


ドアの開く音がした。玄関まで迎えに行った方が良いか迷った。前の時のようにその痕跡を見つけるのが怖い。


そのうちに亮さんが浴室に入るのが分かった。匂いが付いているからすぐにお風呂に入った?


お風呂からはすぐに上がってきたみたい。しばらくして隣のドアの閉まる音が聞こえた。亮さんは声をかけなかった。後ろめたいから? でも確かめたい。しばらく迷ったけれど決心した。


ドアをノックする。


「理奈さんか?」


「はい、入ってもいいですか?」


少し間があった。戸惑っている?


「いいけど、大丈夫?」


部屋に入ると亮さんが布団から起き上っていた。私は少し離れてそばに座った。


「一緒に寝てもいいですか?」


「どうしたの? 何かあったのか? 身体の具合でも悪いのか?」


「いいえ、そばにいたくて」


「もちろん、いいよ、じゃあ入って」


亮さんは布団をまくり上げて横になって、ここへと隣に場所をあけてくれた。私はゆっくり横になるとすぐに亮さんに抱きついた。


突然抱きついたので亮さんは戸惑っていた。でも思い出したように私をしっかり抱き締めてくれた。抱き締められると緊張する。


「理奈さん、無理することはないのですよ。どうしたのですか?」


「一人で亮さんを待っていると、また風俗に行ったのかもしれないと思って、悲しい気持ちと申し訳ない気持ちとでやりきれなくなって、帰りを待っていました」


「理奈さんらしくないね。でも今日は行っていない。仕事で関連会社まで出かけて懇親会もあって帰りが遅くなった」


「私、本当はとても寂しがりやなんです。亮さんの前では強がって見せているだけです」


「会社で何かあったのか? 相談にのるけど」


「いやなことと言うほどではありませんが、時々あるようなことです。それもあって、今日はお天気も悪いし、少し気が滅入っていたのかもしれません。このままここにいてもいいですか? でも今までと同じで抱き締めるだけにしてもらえますか?」


「理奈さんの言うとおりにする。抱き締めて寝られるなんて、それだけで嬉しいから」


「じゃあ、お願いします」


「じゃあ、やっぱり後ろから抱き締めることにしよう。その方が眠りやすいと思う」


「そうですね」


「少し前かがみで丸まってみて、僕がそれを包み込むように抱いてあげる。理奈さんもその方が楽ちんだと思うよ」


「確かにそうですね。それに背中が温かくて」


「じゃあ、お休み」


「目が冴えてすぐには眠れません。何か話してください。私を寝かせる時に父はよくお話しをしてくれました」


「じゃあ、今思っていることを話そうか。今が一番良い時だって思っていること。いつだって今が一番いい時だといつも思うことにしているし、本当に今が一番だと思う。だって、理奈さんをこうして抱いて寝られるから」


「昨日はどうだったんですか?」


「昨日はハグしたときに嬉しそうに笑ってくれた」


「一昨日は?」


「コーヒーがとってもおいしいと言ってくれた。その時も今が一番と思った。昨日の今は昨日しかない。今日の今は今日しかない」


「そんなに私のことを思ってくれているんですか?」


「ようやく巡り会えた大切なお嫁さんだからね」


「入籍していませんが、それに」


「それはもうなるようにしかならないと思い始めている。少しずつだけど気心が通じ合っているし、一緒に暮らしてくれているのだから、そのうちに時間が解決してくれると思っている」


「ありがとうございます。一緒に寝させてもらってよかったです。おやすみなさい」


「おやすみ」


私はしばらく足を動かして亮さんの毛むくじゃらの足の感触を確かめていた。背中が温かくて気持ちよくなって眠ってしまった。


朝、目が覚めると、私はいつものようにそっと布団を抜け出した。

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