第5話 庭園の前にあるベンチで待ってるって言われた時は…ちょっと引いたんだけど。

 〇コノ


 庭園の前にあるベンチで待ってるって言われた時は…ちょっと引いたんだけど。

 一人でカチコチなって座ってる田中さんを見たら、何だか微笑ましくて駆け寄ってしまった。


 少し躊躇しながら、あたしは田中さんの隣に…

 隙間を開けないほど、密着して座った。


「待った?」


 顔を斜めにして、田中さんの顔を覗き込むと。


「い…いや、本当にさっき…来たとこ。」


 嘘ばっか。

 もう、15分は座ってたよね。

 音に早く行けって言われながら、あんなに人が見てる所嫌だよーって。

 あたしは教室から田中さんを見て、渋ってたんだもん。

 でもまあ…今となっては、早く来てあげれば良かったなって思うけど。



「コノちゃん…今日…良かったら、俺んち来ない?」


 いきなり、田中さんがそんな事を言った。

 まだ付き合い始めて四日。

 もうベッドに誘われちゃうの?あたし。


「えーっ、田中さんちに行って…何するの?」


 ニッコリ笑って言うと。


「なっな何するって…別に…CD聴いたり…とか?」


「あたし、あんまり音楽聴かないんだー。」


「あ…そ、そうなんだ…じゃあ…本…見たりとか…?」


 田中さん、体ガチガチだよ?


「ねえ、聞いていい?」


「…ん?」


「あたし…田中さんの、何人目の彼女?」


「え…ええっ?」


「何人目?」


 田中さんは、空を見つめて…指を折って数えはじめた。

 …本当にそんなにいるの?


「…七人目…かな?」


「ふふっ。田中さんって、経験豊富なんだーっ。」


「経験豊富って…それほどでもないよ。」


 あたしの言葉に、田中さんは少しゴキゲンになった。


「でも、あたし今日は買い物に行きたいの。だから、音と帰るね?」


「…え?」


「だって、女の子の買い物なんて…付き合うの嫌でしょ?」


「そっそんな事ないよ!!付き合うよ。」


「ほんと?」


「ああ…」


 田中さんの顔は、もう…デレデレ。


 あたし…

 これが初めての交際なんだよね…

 なのに…

 まるで、田中さんを手玉に取ってるみたいな付き合い方。

 …胸が痛む気もするけど…

 田中さんを、本当に好きになればいいだけだもの。

 うん。



「じゃあ、音には田中さんと帰るからって言ってくるね。待っててくれる?」


「ああ。いいよ。」


 あたしは走って教室に戻ると。

 自分のカバンを持って外に出た。

 ちなみに…

 音は、とっくに佳苗と帰った。



「お待たせ。」


 あたしが跳ねるように駆けて田中さんに近寄ると。


「…コノちゃん、本当に可愛いな…」


 田中さんは、あたしの髪の毛を…撫でた。


「……」


 ちょっと…粟立った。

 ガッくんにこうされるのは好きだったのに。

 …あたし、こんなので田中さんを好きになれるかな…?


 * * *

 〇ガク


「なんかさあ、最近田中がいい男になったと思わないか?」


「あー、分かる。髪型も前より全然いいし…」


「やっぱアレかな…付き合う女で男も変わるってやつか?」


 ……


 周りのそんな声を聞きながら。

 俺はさりげなく教室の後ろにいる田中を振り返る。

 …ふむ。

 確かに…以前よりあか抜けた。



「田中、最近クラブサボってるって?」


「ああ…辞めようと思って。」


「えー、おまえ県選抜とかじゃなかったっけ?」


「俺の青春、走ってばかりで終わらせたくないんだよなー。」


「何だそれ。彼女のせいで辞めたりしたら、顧問や陸女の先輩が黙ってないんじゃないか?」


「……それは…」


 田中が絶句した。

 こいつ…コノと付き合うために陸部辞めるのか?

 浅はかだな~。

 コノとそんなに長続きすんのかよ…


 そんな俺の想いとは裏腹に…

 田中とコノは、夏までもった。

 俺は二ヶ月で…やっぱり頬を叩かれて別れたと言うのに。

 しかも、コノは田中が居ながら他の男からも言い寄られていた。

 あいつ、まさに空前絶後のモテ期だな。


 仕方ないから、他のセフレと会った。

 でも…全然満足できない。

 だいたい、彼女にフラれたのも…

 あまりセックスが良くなくて、何とか良くしたくて会うたびに…それも、場所も時間も問わずみたいになってたから。


「嫌い!!ケダモノ!!」


 最後の言葉は、それだった。


 だけど、いくら俺がケダモノでも。

 俺をフッた女たちは俺の悪口を一切言わない。

 それは、自分がフッておきながら…俺の中でいい女として残りたくなるからだ。


「あの時はごめん…」


 と、謝ってくる女ばかり。

 もう、謝っても元サヤには戻らないのに。

 友達という位置ででも、繋がりを持っていたいらしい。



「田中、彼女とどこまでした?」


 後ろで誰かが田中に聞いた。


「…どこまでって…まだ何もしてないよ。」


 えっ!!


「えっ!!」


 周りより先に、俺の心の声の方が早く反応した。


「とにかく…可愛いんだ。大事にしてあげたいなと思って。」


「へ…へえ~…田中がね…」


 大事にするって…何もしない事が、大事にする事なのか?

 ましてやコノは気持ちいい事が大好きなんだぞ!?



「デートとかしてんのか?」


「ああ。こないだはプールにも行ったし。」


「うわー…おまえ…彼女の水着姿見て、欲情しなかったのかよ…」


「したさ!!もう、めちゃくちゃ可愛くて…反対に…ビビった…」


「……」


 …田中。

 おまえ、すごいわ。

 俺に田中の純粋さみたいなものが少しでもあれば…

 たまにできる彼女とも、長続きするんだろうけどな…



 そんな時…

 俺の最愛の姉、紅美が…


 血が繋がってない事を知らされた。


 紅美と俺に血の繋がりがない…それは、軽くショックだった。

 どういうショックなのかは…俺もよく分からない。

 紅美は俺にとって最高の女であって、最高の姉だ。

 そんな紅美と…血の繋がりがない…だからと言って、恋愛対象になるわけでもない。


 ただ血が繋がってないだけじゃなくて…

 紅美の実の父親は…大量殺人の犯人だった…


 その事実を、紅美が知って。

 俺も…知るところとなった。


 …何があったって、俺達の絆は変わらない。

 うん。

 そうだ。

 …と思いつつ…俺はどこかで、紅美の評価を落としたのかもしれない。


 それに気付いた時、そんな自分にもガッカリしたし…俺に『シスコン』を名乗る資格はないとすら思った。

 紅美を『最愛の姉』と、周りには引かれない程度に自慢してたが、俺のシスコンぶりは親戚内では有名だったと思う。



 夏休みが来て、夏休みの間だけって約束で、他の学校の女と付き合った。

 田中とコノは…相変わらず仲良くやってるみたいだけど…

 何をするにしても、俺は気分が乗らなかった。

 結局、夏休みの間だけの彼女とも、四回しか会わなかった。


 そして、秋が来て…紅美が家出した。

 自分の生い立ちを知って、ずっと悶々としていたであろう紅美。

 俺は…落ち込んだ。

 紅美に対して、今まで通りの態度をとれなかった事…

 気持ちのどこかで、壁を作ってしまっていた事…

 本当にバカだ…


 俺は自然と誰とも口を利かなくなった。

 紅美を愛して止まなかった沙都だけが、血眼になって紅美を探してくれてた。

 だけど、沙都からもいい情報は聞けなかった。

 そんな沙都に、探すのを手伝うとも言えない俺がいた。

 本来なら、家族である俺達が探すのは当然なのに。


 親父の実家である二階堂で調べてもらえば一発だろうに…

 親父はそれをしなかった。

 紅美が自分の意思で出て行ったなら、探さない。

 そう…結論を出したからだ。

 母さんもそれに反対はしなかった。


 俺は…

 自分が取った態度を思うと、何も言えなかった。



 紅美がいなくなって。

 誰とも口を利かなくなって。

 自然と学校に行くのも面倒になって。

 俺は、軽く不登校になった。

 その内、気が向いたら行ってみるか…ぐらいに思っていたが、なかなか気が向かない。

 授業なんて受けなくても、どうでもいい。


 だけど…紅美が出て行って病んでしまった母さんを、これ以上悲しませたくない。


 時々、学校に行くふりをして出かけては、どこかで暇をつぶした。

 そこで知り合った女子大生なり社会人の女とホテルで過ごしたりもした。

 でも…

 何もかも…

 気持ち良くなかった。



 もうすぐ、冬が来る…


「ガッくん。」


 聞いた事があるような声に、振り向くと。


「どうしたの?こんな所で。」


 コノが…立ってた。

 白い、可愛い服を着て。

 まるで…天使みたいだと思った。


「…コノ…」


 俺は、無意識にコノを抱きしめた。


「…ガッくん?」


 コノの柔らかい髪の毛に顔を埋めて…俺は…


 生まれて初めて…



 恋をしたい。


 と、感じた…。


 * * *

 〇コノ


 なんだかんだで田中さんとは…

 手を繋いだだけ。


 …じれったい!!

 これが、あたしの本音。


 気が付いたら半年も付き合ってて。

 夏にはプールにも行ったし、家にも遊びに行った。

 あたしは、そのたびに胸元の開いた服を着て行ったし…

 水着に関しては、ビキニだったのに!!


 田中!!おい!!

 男見せろよ!!


 内心そう思ってたけど…



「コノちゃん…可愛すぎる…俺、本気で君を大事にしたいって思ってるから…」


 って…

 真顔で言われると、ちょっと…

 うん…

 大事にされてるんだぁ…って。

 いい気にもなるんだけど…


 でも。

 やっぱりあたし…

 気持ち良くなりたいのにーーーー!!


 まだまだプラトニックなあたし達だけど、あまりにも頻繁に一緒にいるからか…

 周りからは、ヤリたい放題に違いない。なんて思われてる。

 まあね。

 あたし、すぐにやっちゃいそうな顔してるんだろうな。

 田中さんと付き合ってるって言うのに、すごくあちこちから声かけられるし。

 本当は、乗り換えちゃおっかなー…なんて気もなくはないんだけど。

 田中さん…

 ちょっと、美味しいんだよねー…


 あたしは知らなかったんだけど…

 桜花の陸上部のエース!!

 あたしと付き合い始めて、サボってたらしいんだけど。

 女子の先輩たちに…


「朝霧さん。あんたのせいで、田中が走らなくなったじゃないの。どうしてくれるの?」


 って、取り囲まれて。


「ええっ?何の事ですかぁ?」


 可愛い子ぶって言ってみた。


「……あのねえ…」


 すると、先輩の一人が言った。


 田中は、県代表に選ばれるぐらいのスプリンターなんだ、と。


 …それは…

 知らなかった!!


 そこであたしは、田中さんにクラブを頑張るように勧めた。

 渋ってたけど、応援するからってしつこく言うと…

 夏の大会では、すごくいい成績を出した!!

 やっぱ、男は何か一つ秀でた物がないとね!!


 そのご褒美にあたしを…って思ってたのに。

 田中さんは…

 キスさえしようとしない。


 くっそ~…

 身持ちの固い男め!!


 田中さんを夢中にさせるのが楽しかった時期もあるけど…

 もう、いい加減飽きた。

 次のデートでキスもなければ…もう別れようかなー…なんて。

 よく半年も続いたよ…あたし。


 そして。

 今日がまさに、その『次のデート』だったりする。

 あたしはいつもよりおめかしした。

 今日こそ、田中さんに手を出させてみせる!!


 意気揚々と歩いてると。


「あ。」


 ガッくんがいた。


 何だか…

 横顔でもやつれてるのが分かる。

 …あ…そっか…

 今、紅美さんが…行方不明なんだよ…

 紅美さんを大好きな我が兄の沙都ちゃんは、そりゃあもう必死で探してて。

 なんで捜索願出さないんだろう?って…

 ちょっと我が家でも話題になったんだけど…

 色々事情があるみたいで、あたし達は見守るしかないよね…って。



「ガッくん。」


 歩き始めたガッくんの背中に声をかけると。

 ガッくんは、振り返って…なんて言うか…

 今までみたいにクールな顔じゃなくて…

 寂しい顔してた。


「…どうしたの?こんな所で。」


 ちょっと…ガッくんには似合わない場所…って言ったら悪いけど。

 女の子が集まる場所に向かう道。

 もしかして、ナンパにでも?

 いやいや…こんなやつれた顔じゃ無理でしょ。

 なんて思ってると…


「…コノ…」


 え。


 突然、ガッくんに抱きしめられた。


「…ガッくん?」


 ガッくんはあたしの髪の毛に顔を埋めて。


「コノ…」


 もう一度、名前を呼んだ。


「……」


 あたし…

 今からデートなんだけどな…

 どうしよう…

 こんなガッくん、ほっとけない…って気持ちもある。


 でも。

 お互い、恋人がいる時は…って。

 最初に言ったのはガッくんで…



「…デートか。」


 あたしを抱きしめたまま、ガッくんが言った。


「…うん。」


「田中と?」


「うん。」


「……そか。悪かった。」


 ガッくんは、ゆっくりあたしから離れて。


「じゃあな。」


 手を上げて、歩いて行った。



 …何なのよ。

 そんな事したら…気になるじゃない。


 だけど…

 あたしは、ガッくんを追わなかった。

 だって…今日はあたし。

 勝負かけてるんだもん。

 恋人と、ちゃんと……


 できるの?あたし…


 待ち合わせ場所まで、もう少し。

 て言うか…

 まだ時間まで10分あるのに…

 田中さんの姿が見える。


 ふふっ…

 何だかソワソワしてる。


 付き合い始めた頃は、本当に…ここまで続くとは思わなかった。

 髪の毛触られて粟立ったぐらいだもん。

 ちょっと…その先の事なんて無理かもって思ってた。


 でも、本当にいい人なんだよねー。

 …だけど…

 なぜかいまだに…

 あたし、田中さんって。

 他人行儀な呼び方しちゃう。

 佳苗は、いつまでも新鮮でいいんじゃない?って言うけど。

 音には笑われちゃうんだよねー。


 ガラスに映った自分をチェック。

 うん。

 これで、少し息を切らして走って行く系で…


 グイ。


「え。」


 突然、左腕を引かれて。

 あたしの体は意に反して後ろに向かった。


「えっえっえっ?」


 首だけ振り返ると…


「…ガッくん?」


 ガッくんが、あたしの腕を引いて、ずんずん歩いてく。

 もちろん…待ち合わせ場所とは反対側に。


「ガッくん、ちょっ…ちょっと…」


 田中さんを振り返ろうにも、もう見えない場所まで来てしまった。


 えー!!

 あたしデートだって言ったよねー!?


 ガッくんはお構いなしにあたしの腕を引いて…


「……」


 ラブホに入った。

 途端に…あたしの体が疼き始める…


 でも。


「…あたし、彼氏いるんだけど。」


 ベッドに座ったガッくんを見下ろしながら、低い声で言うと。


「…れろよ…」


 ガッくんは下を向いたままつぶやいた。


「は?」


 腕組みをして眉間にしわを寄せると。


「別れろよ。」


「……」


 は?の口のまま…あたしは固まった。

 が…ガッくん…今…

 別れろよ…って言った?


「どー…」


 呆れて言葉が出て来ない。

 自分は好き勝手やってたクセに、あたしに彼氏がいると別れろって!?


「あのねー…」


「頼む。別れてくれ。」


「……」


「今…俺、コノの事…抱きたい。」


「……」


「頼む…」


 ガッくんは…ずっとうつむいたまま。


 …正直…

 あたしを抱きたいから、別れてくれって…

 嬉しい。

 だって…

 あの快感が今、今日、ここで。

 ……はっ、ダメダメ。

 あたしは、もしかしたら今日、田中さんと…


「…おまえがして欲しい事…なんでもしてやるから…」


 ピクン。


「…どういう…事?」


「二時間で足りないなら、一日中。」


「……」


 眩暈がしそうだった。

 欲求不満なあたし。

 一日中…あの快感を…!?


「で…でも…別れるって…」


 ガッくんは無言であたしのバッグを手に取ると、中から携帯を取り出した。


「えっ。」


「田中に電話する。」


「えっ、ちょ…ちょっと…」


 あたしが狼狽えてるのに、ガッくんは携帯を操作して田中さんに電話すると…


「娘とは、どういう関係だ?」


 ま…まさかの父親設定ーーー!?

 すると、つらつらと何か喋ってる感じの田中さん。

 ガッくんが目を細めてあたしを見た。


「……うるさい。別れろ。」


 うわっ!!何それ!!

 ガッくんはそう言うと、携帯をあたしに渡した。

 えーっ!!こんなの、あたし…困るし!!


「…も…もしもし…」


『あっ!!コノちゃん!?どういう事かな!!別れろって言われたんだけどさ!!俺、別に何も悪い事してないよね!!』


「う…うん…さっき…何か言ったの?」


『あっ…うん…実は今日、コノちゃんちに行こうかなって思ってたんだ。』


「はっ?」


『結婚の挨拶って言うかさ…』


「……」


『そしたら、別れろって言われて…どうしたらいい?俺達、結婚を前提に付き合ってるん』


「さよなら。」


 プチッ。


「……」


「……」


 まさか…

 結婚前提って思ってるなんて…

 結婚願望なんてないし、ましてや、体の相性も知らずにそんな事できない!!


「…コノ…」


「…一日中だからね。」


「分かった。」



 そして…

 久しぶりのガッくんは…

 もう。

 やっぱり…


 サイコーだった…!!




「…あさって、会わないか?」


 服を着ようとベッドから起き上がると。

 あたしの背中にキスしながら、ガッくんが言った。


「あさってはいいけど…あたしは明日がちょっと憂鬱。」


「なんで。」


「…田中さんに何か言われるよね。」


 実際…切ってた携帯の電源を入れると、着信のお知らせもメールも山ほど。


「…結婚なんかする気ないって言えばいーじゃん。」


 ガッくんはベッドに横になって。


「しばらく、男作んなよ…」


 天井を見ながらそんな事を言った。

 …しばらく男作るな?

 えーと…

 それって…


「自分に彼女がいないから、あたしで間に合わせたいって事?」


 目を細めながら問いかける。


「……」


 ガッくんは少しだけ拗ねたような唇になって。


「…なんつーかさ…」


 天井を見たまま。


「…おまえ以外の女と寝るの、なんか…つまんなくてさ…」


 すごく小さな声で、つぶやいた。


「……」


 あたしはブラウスのボタンを留めながら。

 今…ガッくん…

 らしくない事、つぶやいたな…

 なんて思った。


 ガッくんの事…

 好きだ。

 恋したかも。

 って、思った時期もあったけど。

 振り回されるのはこりごり。

 その気持ちが強くて、あたしは自分の気持ちに一線を引いた。

 ガッくんに本気になんか…なっちゃダメ。

 この人は、あたしの先生なんだ。

 そう、思おうとしてる。



「ま、ガッくんの事すごく好きな女の子だったら、恥じらいもあるだろうしね。」


 どこがいい、そこがいい、あれして、これして、なんてさ。

 おまえ、よがり過ぎ。って言われるぐらい、大きな声出しちゃうし。

 て言うか…

 ~過ぎって言われるあたしとのセックスが、そんなにいいのか?


 ガッくん…

 純粋なセックスって、もう無理なんじゃ…

 なんて、ちょっと心配してあげたりした。



「先生にそんな事言われるのは嬉しいけど、あさってはやめとく。」


「なんで。」


「んー。今日、一日中ヤッたのに、あさっては日が近過ぎるかな。」


「……」


「じゃ、あたし先に帰るね。」


「待てよ。」


 まだ裸のガッくんに、腕を取られる。


「…何?」


「…何でもない。」


 ガッくんは溜息と共にベッドに横になると。


「じゃあな。」


 天井に向かって、そう言った。



 すっっっっ…ごく、気持ち良かったガッくんとの一日。

 半年禁欲してたあたしには、これが…ダム決壊のキッカケになるかと思いきや…

 むしろ、半年の禁欲生活が効いたのか、セックスはしばらくいいかなー?なんて思えた。


 紅美さんの事で落ち込んでるであろうガッくん。

 だけど、それはそれ。

 あたしは…


 ガッくんの彼女じゃないし。



 ね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る