第15話 切っ掛け



「ふぎゃっ!」


 源治が手にした木剣が亜紀の頭を打ち据える。源治も本気で打ってはいないが、それでも木の剣で頭を叩かれるのは痛く叩かれた亜紀は頭を抑えてうずくまる。


「お前が俺と打ち合ってみたいって言うからしゃあねぇからやったけどよ・・・・弱すぎるだろお前」


 ため息を吐きやれやれと頭を横にふる源治。実際亜紀はとんでもなく弱かった。この日は十数度模擬戦をやったがその全てが源治の初手の一撃で決着がついてしまっていた。また徒手空拳でも同様であり、そのあまりの弱さに源治は頭を抱えていた。


「俺がさんざん手抜いてもこれって、お前どうやって試験突破したんだ?」


「いやぁそれが私にもよくわからなくて・・・気づいたら合格になっていました」


「よくわからないって何だよそれ・・・」


 えへへとはにかんで笑う亜紀を少し可愛いなこいつなどと思いながら放り投げた木剣は壁掛け用のフックに見事に収まり亜紀から小さな拍手が起こる。


「まぁその話は後だ。怪異狩り行くぞ。」


「っはい!」


 源治の言葉にすぐに立ち上がり姿勢を正す亜紀。


「俺がお前に言うことは唯一つだ。「死ぬな」それだけだ」


「・・・肝に命じます」


 普段とは打って変わって真剣な雰囲気を纏う源治に亜紀も緊張から生唾を飲み込む。


「30分後に出発だ準備しとけ」


 源治がそれだけ言うと二人は各々準備するために部屋へと向かった。



「おらさっさと乗った乗った」


 30分後亜紀が愛刀を携えて屋敷前へと赴くとすでに源治がバイクのエンジンを掛けた状態で亜紀を待ってた。


「これは・・・なかなか見事なバイクですな」


「おっこのダークノワールブラックシュバルツ号の良さが分かるか」


「・・・それ全部黒ですよ。まぁ私も一台持っていますからね」


「なら今度一緒に走るのもいいかもしれねえな。おら乗りな」


 源治に促され源治の背に抱きつく形でバイクに乗る亜紀。背中に柔らかい感触を感じた源治は


「E・・・いやFか?」


 そんな事を呟けば後ろから顔を赤くした亜紀に後頭部を殴られる。


「馬鹿なこと言ってないで行きますよ」


「へいへい」


 そして怪異が目撃されたという地点へと源治はバイクを走らせる。そこはすでに閉鎖された廃工場だった。源治はその入口にバイクを止める。


「ここだ」


「・・・とくに変な様子はなさそうですが?」


「俺だってそう思う。けどよゴキブリだってなにもないところから湧いたりするだろ?それと同じだ。とりあえず徒歩で虱潰しに探すぞ、まずは見つけねえと話にならねえ」


 そう言ってバイクから降りる源治。月明かりに照らされ背負った身の丈ほどの大剣が銀色に鈍く光る。同じく降りた亜紀の手にも一本の日本刀が握られている。


「ほんとにそれだけでいいのか?なんなら俺の銃貸すぞ」


「私はこれだけで十分です・・・というより銃はどうも苦手でして。止まった的にも当たらないんですよ」


 バツが悪そうな顔を浮かべる亜紀に対して一抹の不安をいだきながらも源治は亜紀を連れ立って工場へと足を踏み入れる。この1件がなければ亜紀は死なずにすんだかもしれない。今回の事件は源治にとっての苦い記憶の始まりであった。

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