第13話 岩永亜希

-15年前-



 源治は退魔部本部の廊下を歩いていた。その後ろを同じような格好をしたポニーテールの女性が付いて来る。源治が人気のない突き当りを曲がれば女性もついてくる。



 女性が角を曲がるとすぐ目の前に源治が立っており、ぶつかったことでバランスを崩し転けそうになる女性の胸ぐらを源治が掴み無理やり立たせる。



「お前、何のつもりだ?さっきからチョロチョロと。みにくいアヒルの子かおのれは」



「いえ!私はみにくいアヒルの子ではなく岩永亜希と申します!この度は源治殿にお願いがあってまいりました!ぜひ!私を!源治殿の隊に入れてください!!!」



 そのあまりの声量に思わず耳をふさいでたじろぐ源治。なおもなにか話そうとする亜希の口を塞ぐと。



「わかった、話は聞いてやる。だからもう少し声を抑えて話せ。いいな?」



 口をふさがれたままこくこくと首を縦に振る亜希。源治が手を離すと。



「この度は!このを岩永亜希を源治殿の幕下に加えていただきたく!むぐぅ・・・」



 手を離してもなお大きな声にもう一度手で口を塞ぐ源治。



「いいか、もう少し、静かに、話せ。俺は同じことを何度も言うのは嫌いだ。次大声を出したらその場でぶち犯して捨ててく。わかったら話せ」



 源治がゆっくりと手を話すと今度は普通の声量で亜希が話し始める。



「つい気が高ぶってしまいました、お許しを。私の名前は岩永亜希。この度は源治殿の幕下に加えていただくべく参った次第でございます。」 



 先ほどとは打って変わってその場に片膝をついて畏まった口調で話す亜希に思わず面食らう源治。



「幕下って・・・俺はまだ隊を持ってない平隊員だぞ。そんなやつ捕まえてどうしようってんだよ」



「いえ、源治殿が元いた隊を除名されこの度総隊長から独立して動くことを許されているのはすでに一部のものには知っております。」



「もう広がってんのかそれ・・・」



 護国退魔隊では原則単独での怪異討伐を禁止している。人よりも強靭な肉体を持つ怪異と相対するゆえに隊員は複数人で固まる「隊」で任務に当たることを義務付けられているがこの葛城源治という男、生来の無頼漢基質故に隊を率いる隊長とぶつかること数回、単独先行による命令違反は数知れず、ついには隊から除名処分を受けてしまった。



 しかし単独で何体もの怪異と同時に渡り合い圧倒する源治の戦闘力を遊ばせておくには惜しいと総隊長の兵部宗玄は特例として源治に便宜上は源治を隊長とした隊を作ることで源治が単独で動けるように取り計らった。それがつい昨日のことだ。



「源治殿を隊長とした隊であるなら隊員を選ぶ権限も源治殿にあるはず。それゆえに私を幕下に加えていただきたく思い参上したのです」



「断る」



「えっ!?」



 即答での拒否を示した源治に亜希の表情には驚愕の様がありありと浮かんでおり、心なしか頭上に「ガーン」という擬音も見える気がする。



「そこまで知ってるならなんで俺がそうなったかも知ってるだろ。嫌いなんだよ団体行動とか連携とか。わかったらどっかいけ」



 しっしと手で亜希を払いその場を去ろうとする源治の前に亜希が滑り込み額を床に擦り付け土下座する。 



「お願いします!どうか私をあなたのもとで働かせてください!」



 断れば今ここで腹を切ると言いかねないその気迫に源治はため息をつくとその場に膝を付き



「おら、顔上げろ」



 亜希の顎を掴み顔を挙げさせるとそこにはもしや許してもらえたのかと顔を輝かせた亜希が姿を現すが。



「そんなに俺の下に付きたいなら毎晩俺の相手しな」



「相手・・・というと組手でしょうか?」



「なにカマトトぶってんだよ。伽だよ、夜伽。夜の相手って言ったらそれしかないだろうが」



 そう言いながら亜希の乱暴に胸を掴む源治に対して亜希は頬を赤らめ一瞬手を払いのけようとするが、逆に源治の手を掴み自分の胸を掴ませたまま固定させると



「源治殿がそれで良いと言うなら不詳この岩永亜希、処女ではありますが精一杯お相手させていただきます。源治殿が望むならこの場ででも」



 空いた手で服をはだけさせる亜希の目尻には僅かに涙が浮かんでおり、諦めさせようとした魂胆が外れた源治はとてつもない罪悪感に襲われる。そして亜希の手を払いのければ



「わーったよ、好きにしやがれ。ったくこんな頑固な女は久しぶりだ」



 呆れたようにため息を付けば後頭部をガシガシと乱暴に掻くと亜希に背を向けて歩き出す。



「・・・伽はやらないので?」



「やるわけねえだろ!お前を試す嘘だよ嘘!ただし、どうなっても知らねからな」



 それを聞いた亜希の顔がみるみる明るくなっていく。



「はい!ご指導ご鞭撻お願いします!」



 廊下中に響き渡るような声で返事をした亜希が源治の後ろをついていく。これが葛城源治と岩永亜希の出会いであった。



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