第9話 凛と菫



「それじゃあ菫さんの所に行ってくるね」



「・・・・・」



 あれから一日。源治は一言も発さなかった。それどころか凛が何を言っても虫の居所が悪いのか憮然とした表情のまま何も話さずにそのまま部屋に籠もってしまう始末だった。


 翌日以降は部屋から出ては来たが依然として虫の居所が悪くそんな日が数日続くと凛も参ってしまい仕方がないので凛は源治の部屋の前で一言伝えると源治が昔使っていた原チャリ蒼く塗ったものを走らせて菫の元へと向かった。



「こんにちは、菫さん」



「ああ、待っていたよ。」



 事前に菫と決めていた待ち合わせ場所に凛が着くとすでに菫が待っていた。服装も普段来ているような白衣にジーパンなどではなくカジュアルに短めのジャケットに丈の長いズボンとシンプルなものだったが身長が高い菫がそれを着ているとスラッとした足が強調されそこらのモデルなら裸足で逃げ出していただろう。



「ごめんね、急に会いたいなんて言って」



「いやいいさ、源治の銃を作ってから暇だったしね。それに可愛い女の子に会えるなら大統領ですら私を止めることはできないさ」



 少し身をかがめて凛の手を取る菫。身長差のせいか菫の胸の谷間が凛の視界に入るとその大きさに思わず凛は



「神は死んだ・・・」



 自分の胸をペタペタと触った後にがっくりと肩を落とす。



「なに、静葉も君ぐらいのときはまな板だった。いずれ君の静葉のようになれるさ」



 菫は凛の頭を上からガシガシと乱暴に撫でればわずかにクマの残る目でニッコリと笑った。それを見た凛は昔同じ様に静葉に頭を撫でられたのを思い出す。



「・・・菫さんって姉さんと同期なんでしょ?」



「ああ、私が武器を作り静葉が使う。彼女はどんな武器も巧みに使いこなしてくれたから私も作り甲斐があったよ」



「できたら姉さんのこと教えてほしいんだけど・・・」



「構わないよ。どれ、立ち話もなんだしそこの喫茶店で話そうじゃないか」



 菫に促され喫茶店へと入る二人。菫はコーヒーを、凛はカフェオレとケーキを頼んだ。



「ここのケーキは絶品でね源治とのデートにはここを使いたいと常々思っているんだよ」



「そういうのって普通男のほうがリードするんじゃ・・・」



「あいつがそんな気配りができるように思えるかい?女性とのデートに牛丼屋を選ぶような男だぞ」



「うわっ・・・それよりもあいつ彼女いたんだ」



「(しまった・・・)おっケーキが来たみたいだよ」



 源治の彼女という単語を聞いた菫が凛には見えないように顔をしかめると露骨に話題を逸らす。菫の意図には気づかなかった凛はそれで今の会話に対する意識が逸れてしまう。



「んっ美味しい」



 そしてケーキに舌鼓を打つ凛。それから菫は静葉についていろんな事を話した。


 源治とはあったその日に殴り合いの喧嘩になったこと、二人で組んでからは近寄れば源治が斬り離れれば静葉の銃撃と術式が敵を討つ無敵のコンビだったこと。いろいろなことを凛は菫から聞いた。ある程度話したところで凛は菫に尋ねる。



「ねえ、話は変わるんだけどこの前からあいつが一言も話さないままなんだけどなんでか知らない?」



「この前というと?」



「私達が菫さんのところに行った時」



「HMM・・・それは、まだ語るときではないな。それは源治にとっても苦い思い出だからね、何も話さないのはそれを思い出してしまったからだろう」



「苦い思い出・・・」



「そうだな、少しだけ教えるならアイツには静葉の前に組んでいた人物がいたということさ」



「姉さんより前にアイツと組んでた人・・・」



 そんな事を考えていると凛の携帯が鳴る。源治からだった。



「仕事だ、今菫の所だろ。今夜指定する場所まで自力で来い。ダッシュでな」



 言いたいことだけ言うと源治はすぐに電話を切ってしまう。



「今の電話は源治かい?」



「うん、指定した場所まで来いって。あっ来た」



 そんな事を話していると凛の携帯に集合場所の座標がメールされる。



「そうか、なら私も同行しよう」



「はぁ!?」



 まさかの発言に驚く凛。それを気にせず菫は続ける。



「不機嫌な源治がやりすぎないようにストッパーがいるだろうしね。私をただの技術者と侮ってもらっては困るな。これでも君や源治には及ばないが結構強いんだよ?」



 こうして押し切る形で凛に同行した菫。果たして菫の実力とはどれくらいのものなのか次回へ続く。

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