第12話 ドキドキしてる

 雄ちゃんの顔が近い。

 ドキドキしてる。


「……七海。ラーメン食べる前にさ、一回告白させて」


 雄ちゃんは私たちがキスしたと言った。

 何度もキスしたと言った。

 もし、もし今ね、唇を重ね合わせたら昨日の夜のことを思い出せるかな?


「七海は気づいてなかったかもしんないけど、俺が辛い時には何度も七海が励ましたり慰めてくれたからさ。そうすると元気になった。他の友達とは違うと感じてた。それはホントはずっとずっと前からだったんだ」

「ずっと前からって……」


 雄ちゃんは私を抱きしめた。

 ぎゅうっと強く雄ちゃんに抱きしめられたら気持ちが良かった。

 安心した。


 静かな車内に雄ちゃんのため息が響いた。


「これ……、昨日も言った」

「ハハッ。……すいません」


 私は力なく笑い謝った。

 なんで大切な告白シーンを覚えてないんだろ〜!

 私のバカ〜っ。


 助手席と運転席にいるから体勢がちょっと辛いが、雄ちゃんのがっしりとした腕や体に抱かれながらこのままでいたいかもと願った。


「好きだ七海。俺と一緒にいて?」

 こんな風に、付き合いの長い雄ちゃんに…雄一郎くんに告白されるなんて思わなかった。


 男友達のいつもの雄ちゃんはどっかへ行っちゃって、目の前の雄ちゃんは態度も言うこともいつもと全然違う。


 雄ちゃんが私を女として見ることなんてないと思ってた。

 私も雄ちゃんを男として見ることなんてないと思ってた。


 こんな日が来るとは思っていなかった。

 昨日の私たちは長年の友達のラインを超えたんだ。

 

 頼りにしている男友達だった。

 こんな風に思う日が来たんだ。


「雄ちゃんを好きだよ。ずっと友達として好きだったよ。私の好きは今までと変わるのかな? 変わっていくのかな?」


 雄ちゃんは抱きしめている私の体を離した。

 そしてじいっと私を見つめる。


「俺が変えてみせるよ」


 雄ちゃんは私に顔を近づけて……私の頬を軽くつねった。


「やだっ! やめてよ〜」

「七海は昨日は付き合うって言ってくれたんだぜ。ひでぇな」 


 雄ちゃんは少しあきれた顔で笑っていた。


「ずりぃよ。お前可愛いすぎ」


 雄ちゃんの言葉にくすぐったい気分になった。


 

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