第5話 雄ちゃん家でシャワーを浴びる

 雄ちゃんは珈琲のお代わりを持って来てくれた。

 いい匂い。

 芳しい香りが頭をシャキッとさせてくれる気がする。それに、珈琲のほどよい温かさが気持ちをホッとほぐれてくる。


「七海、良かったら風呂入る?」

「ええっ? 雄ちゃん家のお風呂にっ!?」


 ドキッ! と心臓が跳ねた。

 私はびっくりして珈琲カップを落としそうになっていた。


「ばっ、馬鹿だな。変な意味はねえよ。シャワー浴びて酔いをちゃんと醒ましてさ、さっぱりして来いよ。で、メシ食いに行こうぜ。俺、腹減ったんですけど」

「ああ、そっか、そうだよね。うん、シャワー借りようかな。絶対に絶対に雄ちゃん、覗かないでよ?」

「覗くかっ! 七海にそんなんするんだったら、とっくのとうにしてらあ。無防備な状態の七海に俺から手を出すわけないだろ?」

「ふふっ。なんか雄ちゃん、かわいい」

「まったく。七海はさ、純情な俺をあんまりからかうな」


 わあ、雄ちゃんったら必死に否定してる!

 狼狽した雄ちゃんの顔は真っ赤っかだった。

 見られたくないのか、雄ちゃんはたくましい腕で顔を隠した。

 私はあまりにも必死に弁解する雄ちゃんがおかしくて笑ってしまった。


「七海の風呂なんか覗いたりしねえし。ああっ、あのさ、着替えなら俺のジャージでも着なよ」

「ありがとう。私たち友達歴が長いし。私と雄ちゃんとのあいだにあるのは友情だもんね。なんたって私は雄ちゃんのこと信用してますから〜」

「はいはい友達、友達。七海。俺のことをからかって遊んでないで、早く風呂に入れ」


 私は笑いながらちょっと雄ちゃんをからかって顔を近づけて言うと雄ちゃんに軽く人差し指でおでこを小突かれた。


「ふふふっ。ごめんごめん。じゃあ、お風呂借りるね。雄ちゃん」


 私は雄ちゃんから、白くてふわふわなバスタオルとわりとお洒落めなジャージを受け取って、そそくさと案内されたお風呂に向かった。

 学生時代に着たようなジャージじゃなくって、へえ〜意外にもシック。

 雄ちゃんの、服か。

 ――うーん、なんだか変な感じだよ。

 変に意識しちゃう。

 くすぐったいような気分。

 ……恥ずかしいな。


 雄ちゃんと二人っきりだなんて初めてだったからだ。

 熱いシャワーを浴びながら、ホワッとした不思議な気分になる。

 距離が近くて、雄ちゃんがちょっと男らしく見えちゃった。


 もうさ、雄ちゃんと知り合ってから十年以上が経つのに――。

 二人だけでこんなに一緒にいるのってなかったよね?

 ……ちょっとムズムズ、キスする振りしてからかわれたりしたからかな。

 雄ちゃんに必要以上にドキドキとしちゃったりするのかも。

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