第39話 飛翔の絶壁遺跡 クライム



 古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。

 しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。

 これはそんなトレジャーハンターの新人の物語であった。





――絶壁遺跡 クライム


「いやこれ、遺跡じゃなくてただの崖じゃねーか」


 絶壁遺跡クライムを探しいていた新人トレジャーハンター、シロネ団の二人はただいま絶賛、直立の絶壁を登攀中だった。


「ち、チカさん……もう私無理です……。腕がプルプルしてきました」

「ば、落ちんじゃねえ。落ちたら、絶対助けねーからな」


 治癒士のラルフィナに拳闘士のギィチカは、現在落下の危険と格闘中。


「ひどいですよ、チカさ……はぅっ、手が滑りそうに。し、下の景色が見えちゃいますっ!」

「あほっ、下見んな」

「わ……」

「いわんこっちゃない。おい、しっかりしろ。起きてるか」


 青ざめた顔で、必死で細腕で崖にしがみつくフィナの限界は近そうだった。


「い、今一瞬意識がとんじゃってました。でも、チカさん口ではああいいながらも、私の心配をしてくれてるんですねっ。嬉しいでっす。えへへ……」

「お前、実はまだ大丈夫だろ……」


 つい先ほどの危機をもろともせず、一転して顔をほころばせるフィナを見てチカはそう思った。





 そんなちょっとしたピンチを新人2人が乗り越えようとしている矢先……。


『ちょっとぉ、なんでこの遺跡スフィアがないのよ。ファイアー!』

『あっつぅ! 出会い頭に火炎放射すんな! あたし等だってそんなん知らないし』

『なるほどー、他のハンターさんに取られちゃったんだねー』

『火の粉さんがたくさん踊ってるよ、楽しそうっ。ポロンも踊らなきゃ』

『その辺にしたらどうだいルナ。スフィアがないからって燃やしてたら、ただの危険人物じゃないかい?』


 崖の上からそんな、おそらく他のトレジャーハンター達の声が聞こえてきた。





「あ、なんだ、崖のとこじゃなくて、崖の上にあったんですね。遺跡」

「普通はそうだろうな。誰が好き好んで崖の側面に建物なんか建てんだよ。お前がこっちの方面から行こうなんて言いださなきゃ、こんな苦労せずに……ぶつぶつ」

「あっ、チカさん。危ない!」


 ゴロゴロ。

 ぶつぶつ文句を呟くチカとフィナの事情から、大岩が降り注いでくる。


「うわ、何やってんだよ上の連中。岩が落ちてくんぞ」


 ゴロゴロ。

 そのうちのいくつかが、フィナの近くを落下していく。


「キャー、チカさーん!」

「フィナ―――!」


 ひときわ大きな岩が傍を落ちていったのに驚いてラルフィナが手を離してしまう。


「おい、嘘だろ……」

「ふー、びっくりしました」


 しかし、落下したはずのラルフィナは元の場所に戻ってきた。

 二人用の小型飛空機に搭乗して。


「お……、おま……、それ」

「これ、知り合いの人にもらったんです。えへへ……驚かせたくて。あれ?どうしたんですか、チカさん」


 チカは、これまでのクライミングの道のりをざっと頭の中に思い出して、叫んだ。


「それ、先出せよ!!」


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