第35話 追憶の研究遺跡 ラボラトリ―



 古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。

 しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。

 これはそんな者達、三人のトレジャーハンターの過去の物語であった。





 ――研究遺跡 ラボラトリー


 研究遺跡ラボラトリーの中の一室で、何人もの子供たちが暮らしていた。


「あーっ退屈! 毎日検査、投薬、訓練の繰り返しで新しいことが、まーったく、無い!!」


 その中の少女ミリは、退屈のあまり、部屋内をゴロゴロと転がり始める。

巻き込まれた子供たちが何人か、あべしっ、とか言いながらボーリングのピンのように弾き飛ばされて遊んでいる。


「でも、我慢しなきゃって言われてるからポロン我慢する。しょーらい役に立つことしてるのよ、って……けんきゅーいんさん達が言ってたから、ポロン頑張って我慢するっ! きゃべしっ!!」


 返答した少女ポロンちゃんは、言葉の最後にミリボーリングに巻き込まれて、弾き飛ばされた。


「でも、知ってる!? この遺跡の外のガキ共は、いろんな事してるみたいなんだよ。こんなの不・公・平だって!」

「そういえばこの間、けんきゅーいんさん達がそんな事言ってたって、ポロン思い出すよ。親が甘やかしてかほごな子供を、使うより……何とかって。親ってなんだろうね?」


 ポロン知らないよ、とポロンちゃんは首をかしげる。


「まったく、何でこんなところに閉じ込められなきゃなんないのさ!」


 ミリが最大出力で床を転がり、ボーリングゴロゴロを加速させる。

 リアクション待ちしていた子供達も、ちょっと青ざめる速度だった。


「こら、仲間で遊んじゃだめ。私たちがここにいるのは、いつか特別な人に仕えて、私たちの力を正しい事に役立てるためだって言われてるでしょ」


 吹き荒れる予定だった暴虐の嵐は、一人の少女レジーナの声によって止められる。


「それに、外に出たって。私たちの両親には会えないよ、たぶん。私たちの命は天から直接授かったものなんだから、産みの親なんていないの」


「それは悲しいよっ。どんなのか知りたかったって、ポロン思うのに」


 ボーリングが転がらなくなったので、退屈して話を聞いていた周囲の子供達もポロンと同じく、しゅんとする。


「ま、まあ、そんなんいなくったって生きてけるし! それはともかく、何か面白い事見つけるためにも脱走はしとくべきだって。あれさ、成長期に誰もが通る道。今後の経験のためにも一度経験しとくべきだって、ねえ?」


 空気を変えようと、話題を変えるミリ。


「もう、そんな事言って……」

「ふぁ、何か運転するの? 小型ひくーてーさんの訓練さん、いつかするっていってたけど予定が早まったのかなぁ」

「でも、退屈だって言うのはちょっと、賛成かな」


 レジーナは天井の通風孔を見上げる。見計らったように、その通風孔の格子の隙間からネコウが顔をだして、口にくわえていた物を落としていった。


「お手紙さん? って、ポロンンはそう見えるよ」

「文通だよ。これなら規則違反じゃないから」

「なるほど! さっすが、レジーナ! やるじゃん!」


 周囲で退屈していた子供達も集まって、レジーナは手紙を開けてみせる。

 中にはこう書かれていた。



 ―――(笑)。

「何だかしらないけど、いきなり笑われとる!」「このマークなんて読むんだろね、ミリちゃん」

 一文めにさっそくミリが突っ込み、ポロンが首をかしげる。


 ―――知りたいって言う話だから、外の事書くよー。

 ―――クラゲがしゃべるよー。ネコ科の生物ネコウがたくさんいるよー。しかも羽がついてて飛んでるよー。

「外のクラゲって、喋んの! 何それ」「ネコウさん、どれくらいいるんだろうね。ポロン想像できないよ」


 そんなどうでもいい事だが、そんな内容がつらつらと書かれていた。

 その部屋の子供達は夢中になって手紙を読み進める。 



「おもしろそうじゃんっ、ここに書いてあるトレジャーハンターってやつ! 外に出たらこれ、やってみようよ!」

「宝探しだねっ、ポロン、とっても楽しそうだからやってみたいって思う!」


 そして、結果的に脱走志願者が増えていた。


「トレジャー」「お宝―」「ハンターする」「だっそーう!」

「ええと、予想外かな。大人しくなってくれると思ったんだけど」


 レジーナの目論見は外れてしまったようだ。


「レジーナ! あんたも協力してよ! そんで三人で遺跡にもぐったり、冒険したりするんだよ!!」

「でも……」

「そうだよっ、レジーナちゃん。楽しいことは皆で一緒にやるのが一番だって、ポロン知ってるよ!」

「レジーナだって、本当はこんなとこ嫌なんでしょ。だから、よくわかんない誰かと文通してまで、外の事教えてもらったんでしょ」

「……それは、そうかもしれないけど」


 ミリとポロンちゃんの言葉に、ためらいつつも否定まではしないレジーナ。


「別に、一生いなくなるってわけじゃないんだから。ちょっとだけじゃん、一日だけ」

「……それなら」

「よっしゃあ!」「やったね! ポロン嬉しいなっ」


 ためらいつつも、レジーナが頷くと。歓声が沸き起こった。

 それが、後に世界的にいい意味でも悪い意味でも有名になる、トレジャーハンター二ャモメ団結成のきっかけとなる出来事だった。





 そして、そんな騒ぎをモニター越しに見つめる大人たちがいた。


「何やら良くない騒ぎが起きているようだな」「反抗の兆候6番7番……27番か、よくない空気だ」

「我々に従順ではない、駒がどうなるのか分からせてやらねばなるまいな」


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