第33話 地獄の猛火遺跡 ヘル



 この世界には、超古代の旧文明がいくつも眠っている。それらは超便利アイテム、スフィアとして、遺跡の中にあった。そんなスフィア……もといお宝をハントし生活の糧とする者たちのことを、トレジャーハンターと呼んでいる。

 これは、そんなトレジャーハンターたちのある二人(と、一人格)の話。





――猛火遺跡 ヘル


 暗黒団の男の放った見えざる一撃の力によって、赤風団のルナはその場に倒れ伏した。

 一人残されたガルドは、ルナを抱えて男と対峙する。


「ふははは、奥の手は最後まで取っておくものだ」

「く、ルナ……。早く手当てしないと」

「無駄さ。モノノフ遺跡で手に入れたこの刀の力は、目に見えない物を切るという力をもっている。精神など、人の心なんてどうやって治すというんだ?」


 ガルドは男の言葉に取り合わず、ルナを抱えて逃げようすとする。


「前の時もそうだったな小僧。確か、隣には女がいた。女に遺跡からスフィアを持ちださせたのは賞賛するが。だが、お前は、町にあふれる地獄の様な猛火に苦しめられながら助けを求める者達を見捨てて、自分の命惜しさに逃げだした。今度もそうするのか」

「……逃げたんじゃない。守ったんだ、僕は。彼女の命を……」

「つまり、助けられるか分からない大勢の命よりも、確実な身近な者の命を優先した……という事だろう。だが、その女もうこの世にはいない」


 足を止めそうになるガルド。しかし、抱えたルナの顔を見て、思いなおす。


「ふん、また逃げるんだな。臆病な」

「……か……じゃないわ」


 ルナの声が発せられた。


「臆病なんかじゃないわよ! ガルドは!!」

「ルナ……きみ、どうして」


 自分の足でしっかりと立ち上がったルナは、暗黒団の悪人に指をつきつける。


「ば、バカなっ! どういう事だっ!!」

「ルピエがかばってくれたのよ。私の為に……。まあ、アンタには誰の事か分からないでしょうけど。腹話術かなんかだと思っといていいわ。そこの悪人面、呆けてないでちゃんと聞いてなさいよ。ガルドは臆病なんかじゃないわ! 愚かでも阿保でも馬鹿でも愚鈍でも、鈍くさくもないんだから!」


 何やら余計な事までプラスされているようだった。


「……いや、そこまでは言われてないよ?」

「何があっても、どんな所でもついてきてくれる。あたしの最高の相棒をっ、侮辱するなっ!!」

「威勢のいいことを……。ふん、だが私の力に勝てるのか? 所詮、逃げ出す以外できないだろう?」


 暗黒団の男が、スフィアを掲げる。スフィアから、すべてを焼き尽くさんと地獄の猛火が溢れようよした時。


「ぐあぁっ、い、痛い……手が……。何だこれはっ! 誰の仕業だっ!!」


 その手に弓矢が刺さった。


「なら使わせなきゃいいじゃん、そんなもん」「間に合ったねー。三下って、勿体付けるのが得意だからねー」「……ポロン、走って息が苦しい……よ。きゅう」


 同業者である二ャモメ団の三人がいつの間にここに来たのか、悪人の背後にまわっていた。

 ルナは相棒と共に、愛用の火炎放射器を構える。


「くらうがいいわっ。アンタが焼き払った町の人の苦しみ、あたしをかばって散っていたルピエと、ガルドと離れて戦ってた友人の勇気、あたしとガルドの怒り……あんたに苦しめられた多くの人の魂の力、その身で味わいなさいっ!!」

「ば、ばかなあああぁぁあぁぁぁ」


 煌々と輝く赤い炎が悪人に殺到し、周囲もろとも燃やし尽くした。





『あれ、私無事ですか……?』


 斬られてしまったはずのルナの別人格ルピエが疑問の声を上げた。

 二ャモメ団がその場に連れてきた情報屋の手をかりて、悪人が屋敷遺跡から持ち去った「スフィアを修復するスフィア」の力を借りて、ドッペルゲンガーの精神分裂スフィアを修復したのだ。そして威力を調整してスフィアの力を行使し、ルピエを蘇らせたのだった。


「まあ、助けてくれたお礼いってなかったし……。もうあんたは、この赤風団の一員だしね」

『ルナさん……』

「でもやっぱりあいつには逃げられちゃったわね。ゴキブリ並の生命力よね、まったく。屋敷遺跡の修復スフィア落としてったのは助かったけど」


 まったく、と文句を言うルナはしかしそれほど怒っているようでもないようだった。

 その様子を隅の方で見守っていたキャモメ団はというと……。


「ほらさぁ、言いづらくなるから。さっさと出せばよかったんだよ、あの人を」

「別にいいんじゃないかなー。そこまで空気読まなくてもー。ほら、こっち来なよー」

「ふぇ、大変だったね。たくさんの人に追いかけられてて。ポロン達助けられてよかったよ。悪人さん嘘ついてたね。ポロン今度、めってしなきゃ」


 ひそひそとそんな会話をしていた。


「ちょっと、何やってんのよ。あんた達。って、その人誰よ」


 様子に気付いたルナが声をかけると、見知らぬ人間があらわれた。


「あ……君は、まさか……」


 心当たりのあるガルドは、声を震わせて近づく。


「この子達にギリギリで助けてもらったの。……久しぶりね、ガルド」


 そこにいたのは、ガルドの良く知る、失われたはずの彼女だった。


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