第10話 休息の楽聖遺跡 メロディア



 古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。

 しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。

 これはそんな者達、三人のトレジャーハンターの物語であった。





――楽聖遺跡 メロディア


 羊達がメェメェ鳴いてのんびり歩いている。小高い丘の連なるその場所に建つ楽聖遺跡メロディアには、ニャモメ団の三人がいた。


「さっすがー。天国に一番近い遺跡って言われるだけの所ではあるねー」

「他の丘より一段いちだん高いこの丘を選んで、しかも眼下に町が見渡せる得点つきとか、すっごい良いじゃん……この遺跡、久々にまともだわ」

「お空がとっても青くて綺麗。ポロン、手が届きそうって思えるよっ! んしょんしょ……ちょっと無理だったかなぁ」


 遺跡の一番天辺、草花が咲き誇り、噴水が水しぶきを上げている庭園にて、くつろぐケイク、ミリ、そしてポロンちゃん。

 穏やかな空気が流れるその場所で、シートを広げてお弁当をつつきお茶を飲んだりしちゃって、思いっきり和んでいた。


「なんかー。心が癒されるって感じだねー。あむあむ」

「あともうちょっとすれば、この遺跡名物の演奏が流れるからはずだから、それを聞いてから帰るってのも良いんじゃない? はぐはぐ」

「音楽あるの? ポロン楽しみっ! 遺跡の壁のあちこちについてた細長い管さんとか平ぺったい鍵盤さんとかが頑張ってくれるのなぁ。ぱっくん」


 もぐもぐ。ぱくぱく。ごくごく。ふはぁー。

 そんなまったりとした空間とは別に、殺伐とした空間が向こうには展開されていた。


「食べられそうになっているのではない、あえて食べられそうになってやっているのだ!」


 どこかで聞いたようなセリフを吐きながら一人の男が走っていた。

 その背後では、この遺跡の守護鳥が口ばしで男の背中をつつきながら追い掛け回している。


「ふっ、ボクの命の恩人達の未来の住処に悪さをしようとは、これはお仕置きが必要なようだね」

「その積極性を私が助力求めてる時も発揮しなさいよ。でもまあ、あんな事企んでおいてこのまま帰すわけにもいかないしね。しょうがないから手伝ってやるわ。あくまでも、しょうがないからよ」

「君が手伝ったら、遺跡ごと燃やし尽くしちゃいそうだ」

「アンタはいっつも一言余計よねっ!」


 飛び回る守護鳥の背中には赤風団のガルドとルナが乗っていた。何やら物騒な事を言っているがニャモメ団には関係ない。まったくない。

 その騒動を傍観者然とした様子で眺めながら、広げた昼食を片付け始める。


「あの鳥ってあれでしょ、サンドアートの遺跡で住処を探して迷い込んだらしいっていう」

「そーそー、何匹かはガルドさんになついてそのまま赤風団に居ついてるらしいよー。いいよねー、すっごくおいしそー」

「食料にする気かっ!? でも、あっちでも火炎放射女の近くにいて大丈夫なんでしょうね。まちがって焼き鳥にされたらさぁ……」

「ふぇ、焼き鳥にされちゃうの? ポロン鳥さん助けなきゃ」


 走り出そうとするポロンの襟首をミリが掴んで止める。


「ぎゅうっ……なの。あっ! ポロン見ちゃった! えっと、暗暗黒さんの悪人さんが泣きながら助けを求めてるよ……。ポロン、あの人助けなきゃっ……ぎゅうっ」


 守護鳥に追いかけられている男の様子が目に映ったのか、ポロンが走り出そうとしてミリが……(以下略)。


「あんなの助ける必要ないよ。今回だって、この遺跡を丘ごとくずして下にある町を押しつぶそうとした最低野朗なんだし。『スフィアが見つからないからとりあえず壊してみようか』って……、ありえないでしょ」

「だよねー。それにほら『これは泣いてるんじゃなくて汗を流しているのだ、助けを求めたわけではない助けを求めてやっているのだ』とか言ってるよー。救いようがないよねー、色々と」

「そうかなぁ、あぅぅ……でもでも」


 なおも心配そうな眼差しを送っているポロンの背中を押して、ミリとケイクはドライにその場を去っていく。

 暗黒団の男は庭園の角に追いつめられている。

 あわや守護鳥の口ばしが男を……という所で、鐘の音が鳴り響いた。


「わああっ、素敵な音楽だねっ」

「すごい音量。ちょっと頭に響くねこりゃ。ま、遺跡全体が楽器なんだからしょうがないけど」

「この分だと、町まで聞こえてるんじゃないかなー」


 遺跡についている細い管がこまかく振動していたり、銀色の鍵盤がガコガコ動いたり、一音一音奏でるために楽器たちはせわしなく働いているようだった。


「何か楽しい曲だねっ」


 おとなしく音楽を聴いていたポロンちゃんはそのうちつられて体を動かし始める。

 クルクルまわって飛び跳ねる。ステップをふみ、手拍子を入れる。

 

 青い空 赤い空 いろんな表情 いろんな顔

 毎日くるくる 変わってく

 暗い空 明るい空 色んなとこで 色んな人達

 どこかで皆 見上げてる

 たくさんの物語があるけれど 違う物語があるけれど

 少し顔 上げるだけ 同じ空が見えるよね

 

「こういうとこ見ると踊り子ぴったりじゃんって思うわ」

「逆に言うとそれ以外はちょっとアレだもんねー」


 曲にあわせて歌が作られる。

 今日初めて聴いた曲でポロンは即興の歌を作り出したようだった。

 どこか遠くで男の悲鳴が上がったようだが、三人の意識は気に止める事がなかった。

 何も問題は無かった。無問題だ。

 パチパチと拍手があがる。赤風団だ。


「すごいわね、そっちのボケボケ娘。中々いい声してるじゃない。ねぇガルド」

「そうだねルナ、ボクも素敵な舞だったと思うよ。町の広場でやったらそれなりのがくが稼げそうだ」


 顔をあわせれば火炎放射をあびせなければ気がすまないような連中だったが、ポロンちゃんのおかげか珍しくおとなしく喋るだけだった。

 赤風団においては喋るだけなら、おとなしいの範疇に入ってしまう。


「ま、だからといって次も今度も手加減するつもり無いけど。それじゃあね。あー、何か今日はすっきりした気分ね、どうしてかしら」

「あのいけ好かない男を、鬼のような形相で楽しそうにいじめてたからじゃないのかい?」

「なんですってぇ!」


 去るときには、結局すっきりしてなさそうな表情になっているが。


「さ、帰るとしますか。どうする、たまにはイルカ号じゃなくて町で泊まってみる?」

「いーねー、すごい久しぶりだよー。あ、僕この町の名物ルルル饅頭食べたかったんだよねー」

「ポロンもっ、泊まったり饅頭食べるのしたい」


 そしていつもの遺跡探索の苦労が嘘のようにあっさりと、平穏に終わった。


「覚えてろ、小僧ども! 小娘ども! 私をこんな目に合わせたこと後悔させてやるからなっ! ……ひぃ、落ちる。手元が崩れっ!」


 どこかでピンチの一人を除いて。


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