第7話 羽休めの休日 3 襲来のエッグエネミー

 


 古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型のものから、消しゴムのような小さなものまで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。

 しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。

 しかしそんな者達、トレジャーハンターにも休息の日々があった。正しく休息かどうかはさておいて。





 隙を見てマッカとメッカを逃がして数分……。


「ぶおー」「ぶおー」「ぶおー」


 奇声を上げて襲い掛かる、オムレツと、オムライスと、スクランブルエッグをさばく三人がいた。


「ぐああ、ちょっ……タンマ、って待つわけないかっ」

「うわー、なにこれー緑色の米粒発射してきたよー。すっごい勢いー」

「ひゃうっ、ポロンの髪の毛かすったよ。あっ、お米さん落ちたとこの床の周りが緑色になってく!どこまで広がってくのかなぁ。あ、止まった」

「せめて武器があれば……ぬああっ、スクランブルエッグの移動したとこ湿ってて足すべる」

「こっちは攻撃しない代わりに、床を滑らせる支援技でくるみたいだねー」

「ぴゃうっ、痛いよぅ。ポロン転んじゃった」


 武器が手元に無い相手が未知の生物なのとで、中々に苦戦をしいられる三人だった。

 しかし、幸運なのは三人が進んで卵料理エネミー達(今さっき命名)の標的になっていたおかげで時間を稼げたという事だ。


「皆さん、お待たせしました!」

「武器を取って来ましたよ!」


 隙を見て逃げ出したマッカとメッカが額から(正常な)汗を流して、全速力で持ってきたであろう武器を三人へ投げ渡す。


「さんきゅー」

「助かったよー」

「マッカさんメッカさん、ありがとー」


 ミリ、ケイク、ポロンは武器を手にする。


「反撃開始と行こうじゃないのさ!」

「しまっていこー」

「がんばるよっ!」


 三人は水を得た魚のごとく攻撃にかかる。


「うりゃうりゃうりゃっ。わが毒矢の力、存分に味わいな!」

「とりゃっ。僕が調合した薬品の力もあるんだけどねー。あ、動きが鈍くなってきたー。ちゃんとした生物かどうか分からない見た目なのに効いてるみたいだねー」

「そいやっそいやっ。黒かった表面に紫の点々が浮かび上がってきてるよ。ちょっと苦しそう……」


 ミリが矢を高速連射して卵料理エネミーの移動を妨害、周囲を包囲し、ケイクが短剣で攻撃を弾きながら交戦、そしてポロンちゃんはなぜかどっかの国のソーラン節という景気のいい踊りを踊って、踊り子として支援スキルを発動。味方の素早さや体力ステータスを底上げる効果をつける。


「あともうちょっとだねー」

「このまま追い詰めれば、何とかなるは……ず」


 勢いついでに明るい未来を想像するが、現実というものは非情だった。


「ぴゃう、後ろから茶色いお汁さんが飛んできたよっ! ぴゅーって」


 光を反射する茶がかった肌に、まん丸ボディ。

 それはまさしく新たな敵で


「むき煮卵!」


 だった。


「あ、煮汁吸ってるからあんな色なんだねー」

「なんで殺人卵増えるわけ、一体誰が作ったのさ! どんだけ増えるつもり!?」

「ひゃうっ、とっても素早いよっ。このむき煮卵さん」


 形成は悪い方に逆転。三人はあからさまに押されていた。


「このままじゃ、前代未聞的に卵に殺られる!!」

「斬新な最後だねー」

「卵さん、もうやめよっ。こんな戦い意味ないよっ 争いあっちゃダメだよっ」


 押されに押され壁際に追い詰められてしまう。

 しかし、


「ふふふ、このセツナさんがかわいい団員達のピンチに駆けつけないわけないじゃない」


 音よりも早く鉄の塊を飛ばすという、銃という細長い武器状態のスフィアを携えてその救世主は現れた。


「うちの子達をいじめてくれた借り、目一杯返してあげるわっ!! 今のどうっ? 惚れぼれするぐらいかっこよくなかった?」

「最後のセリフが余計なんだけど!!」

「しまらないねー。それでこそセツナさんなんだけどー」

「セツナさん、助かったよう」


 セツナさんはさっそくその武器を構えて、卵料理エネミーに突撃した。


「うふふっ、くらいなさい。緋色の弾雨クリムゾン・バレット!!」


 技名らしい単語を叫んで、弾丸の嵐をお見舞いする。

 卵料理エネミーはものの数秒で見事粉みじんとなるのだった。





 部屋の隅で事の成り行きを見守っていたマッカとメッカが壊れた品々や家具の片付け、ミリ、ケイク、ポロンの三人は粉々になった卵料理エネミーのなれの果てを片付けていた。


「こんなになっても動き出したらどうしようかと思ったけど、ただの細かくなった卵……だね」

「ねー、蘇生スキル持ちじゃなくて良かったよー」

「でもせっかく作られたのに食べてもらえなくて、ちょっとかわいそうって思うよ。後でお墓作ってあげなきゃ」


 恐る恐るホウキでそれらをかき集めゴミ袋に詰めていく。


「しっかしさあ、一体誰がこんな危険物作ったわけよ。しかも食べもせず置いとくとか」

「もし食べてたらその人タダじゃすまかったかと思うよー。何か用事があって一時的いちじてきに離れてたんじゃないかなー」

「じゃあ、ここで待ってれば戻ってくるってワケ? こんな騒ぎになっちゃってさ……、それこそないわー。あーあ、せっかくの休日なのに命がけとか普段やってる事と変わんないじゃん。まったくさぁ……」


 ぶつぶつと文句を言い続けるミリの横でポロンは、


「そっかあ、作った人わからないんだぁ。ポロン、食べ物作ったらちゃんと食べて上げなきゃって、めってするつもりなのに」


 どこにいるか分からない、顔も知らない誰かに心の中で、めっとしていた。





 セツナさんはというと奇妙な静けさを伴って、鍋の中にある煮卵の漬かっていた漬け汁を眺めている。


「あれがどうしてこうなちゃうのかしらねぇ……」


 ぽつりと一言。

 偶然通りかかったマッカとメッカが、何か恐ろしい者を見るような目でアネキさんを見つめ、足早に鍋の近くから離れていった。


「でもま、いっか。言わなきゃバレないバレない」

 

 

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