第3話 滋養の温泉遺跡 ホットレスト



 古代文明が生み出した遺物スフィア、それは今を生きる人々にとって超便利アイテムとして重宝されていた。飛空艇という大型の物から、消しゴムのような小さな物まで、その形や大きさは様々だ。だが大抵は、厳重な防護を固めた遺跡の中にそれは眠っている。

しかし、そんな場所に眠っているスフィアを、遺跡から発掘して生計を立てる者達がいた。

これはそんな者達……、三人のトレジャーハンターの物語であった。




――温泉遺跡 ホットレスト


 かこん。

 どこかで鹿威しが音を立てた。


「ということでここでおとなしく待っててよ、ポロンちゃん」


「お菓子置いとくから食べてもいいけど、中入ってきちゃだめだよー。ポロンちゃん」


 ミリとケイクに左右から言われて、ポロンはきょとんとする。

 海中の中にある温泉遺跡ホットレストの一画、赤と青の暖簾の前にニャモメ団の三人はいた。


「ふぇ、どうして? ポロンも、ミリちゃんとケイク君の手伝いしたいっ」


「うーん無理かなぁー。僕達ウェットスーツ着て潜る事になるんだけどー、かなり軽装になっちゃうんだよねー」


「そこをライバルのトレジャーハンター共に襲われたら困るわけ。だから、誰か一人見張ってもらわないと」


 うるうる瞳のポロンに言い含めるように説明した後、スーツ一式を持ってさっさと暖簾をくぐろうとする二人。


「わ、分かった。ポロン頑張る。えいえいおーっ」


 奥へと消えていく二人を見送りながら、拳をつきあげて気合を入れる。





 数十分後。


「ふあー。暇だよー。ポロンも何かしたいー」


 しかし、暖簾の前であっさりと我慢の限界に達していた。


「ポロン、見張りも大事だってのは分かるけど、やっぱりミリちゃんとケイク君のお手伝いがしたいって思う」


 暖簾の前に立ち定番のマークとにらめっこ対決に入る。


「むむむむむ……」


 いいよね?

 やっぱりだめかも……。

 でもでも……ちょっとくらいならいいよね?

 いやいや、やっぱだめ!


「ふぁぁぁ……」


 そのうち目が疲れてきてしまって、顔をそむけて対決は終了。


「二人とも大丈夫かなぁ。スフィア、ゲット出来たかポロン心配だよっ」


 今度は、右から左へ。左から右へ。

 通路を行ったり来たりしながら腕をくんで考え事タイム。


「温泉のマークさんは、クラゲさんのマーク。水の中には、びりびりするクラゲさんがきっといっぱいでとっても危険。温泉……、それは激しい電流に耐え己の体を徹底的に鍛える修行の場なのだ、ってミリちゃんとケイク君が言ってた。きっととっても恐ろしい所なんだろうな」


 かなり間違った脳内温泉想像によって、体を震わせるポロン。

 吹き込まれた嘘とは知らずに。


「どれくらい恐ろしいのかなぁ、きっととっても恐ろしいんだろうなぁ……、ぴゃっ! 何か踏んじゃった。よく分からないけどごめんねっ」


 足の下にあるものは透明でゲルゲルした物体だった。

 生きているのかいないのか、判別できないがポロンはとりあえず謝った。


「あれ? なんだか足元が水浸しになってる。何でだろ……」


 さっきまでは、いくら海中遺跡といってもスフィア的な技術か何かで道に水の一滴も滴ってなかったというのに、いつの間にか足首くらいの高さまで水が満ちている。


「ふぇっ! なんだかよく分からない透明さんがどんどん増えてきてる!」


 どこから集まってくるのか、ゲルゲルした透明な物体があちこちから近寄ってくる。


「も、もしかしてクラゲさん……? 初めて会っちゃった。あ、自己紹介しなきゃ。始めまして、ポロンっていうんだよ。よろしくね」


 名乗りと共に深々とお辞儀をした。

 反応が無い。ただのクラゲのよう……ではなかった。

 ポロンの言葉に答えるように一匹のクラゲが、他のクラゲをかきわけ、かきわけ足元にやってきた。

 そしておもむろに口を開いた。

 どこにあるのかはおいといて。


 「我等はクラゲール族なり、そして私は長老のクラゲイルである。人の子よ、我が一族を助けてほしい」

 「喋ったよっ!?」

 

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