第9話(都市にやってきました、いえーい)

 途中の宿ではアオイとリンの二人と一緒の部屋になるという、素敵なハプニングすらなく都市にやってきた僕。

 当たり前の話だが物語は都合良く出来ているんだなと実感させられる。

 エッチなイベントが少しくらいあったらなと思いもしたが、何もなかった。


 もちろん心の中で思っただけだが。

 ただ、以前あげた魔石のお礼として、アオイとリンが都市を案内してくれるらしい。

 すでにカップケーキをもらっていたからそこまではと思ったけれど、アオイ曰く、それでは釣り合わないらしい。


 あれくらいの魔石は村の森に行けば魔物を倒したりして手に入れられたんだけれどな、と僕は思う。

 とはいえ詳しい人に案内してもらうのはいい機会であるのでお願いすることにした。

 都市の観光名所である、一番高い建物で、魔法電波を発信して魔法ラジオが聴けるようにしているラノアタワーはもうすでに行ったと僕が伝えると、


「ふ、都市にいる人間ほど行かないという、あそこに行ったのね」

「? そうなのですか?」

「そうそう、そして私がそんな貴方に案内するのは、魔法学博物館よ!」


 ドヤ顔で告げたアオイを見ながら僕は魔法学博物館というとと、これまで行ったことはなかったけれど話としては聞いていたのでそれを思い出しながら、


「確かこれまでの魔法学の歴史が見れたりするという?」

「それは常時やっている展示物よ! 今、特設会場で“悪い魔女エーデルの軌跡”という、あの伝説の魔女が起こした数々の災厄に関する秘蔵の記録が特別展示物として公開に!」

「魔女エーデル……あれでしたっけ、自称・女神ティラスの妹女神で、歴史上に数々のくだらない罠を仕掛けて人々を不幸に陥れたという、

「ごふっ」


 そこですぐ傍にいた女性が、噴き出した。

 髪の毛で目元を隠しているからよく分からないが、鼻と口の形は整っているように見える。

 脚も長くて体型も出る所はでて引っ込む所は引っ込んでいる感じだ。


 けれどそれ以上に印象的なのは黒くて大きなとんがり帽子である。

 物語に出てくる魔女の様相で、一昔前の流行の格好だ。

 ただ流行はしばらくするとまた同じようなものが流行るそうなのでもしかしたなら時代遅れから流行の最先端になっているかもしれないが。


 それはいいとして、彼女の様相に僕は注目する。

 飾りとして、星の形をした宝石と青い縞模様のリボン、白いレースが付けられている。

 服装もお腹と足の肌色が眩しい様な格好だ。

 けれど周りの人はそれを気にしていないようなので、都市ではこの程度当り前の恰好なのかもしれない。


 でも僕が見た仲では一番の美人だった気がする。

 流石は都市、美人が多いんだな~と僕は思った。

 するとそこで黒い帽子を被った女性はいぶかしそうに僕を見て首を振り、けれどまだ僕も見ていたせいかもしれない。


 慌てたように近くの路地に消えていった。

 と、クスクスと笑い声が聞こえて、見るとリンがやけに楽しそうに笑っていて、


「あのね、伝説の美女なんていっちゃ駄目。なにせ、ここのお姫様の呪い、その魔女がかけたんだし」


 リンがお腹を抱えながら僕に言う。

 そうだったんだと僕が思っているとその話に補足をするようにアオイが、


「歴史の中で、やる事はくだらないのに影響が大きくて大変と言われているの。そういった魔女の一族がいるのだろうという説が一般的なんだけれど、中には本当に女神の妹で、悪い事をすると姉である女神にお仕置きされるのでしばらく歴史の表舞台に出てこなくなるとか言われているわ」

「へぇ、そうなんだ。そういった話は知らないや」

「ふふ、魔法学を学ぶ人間としては当然よ。もっともこれから行こうと思っている魔法学博物館ではその魔女の歴史についても、専門コーナーがあって……」


 楽しそうに説明しだすアオイを見ながら僕は気づいた。


「もしかして、アオイが見たかったりするのかな? その博物館に行って」


 滔々とうとうと得意げに語っていたアオイが凍りついた。

 やけに詳しいし事前チェックも完ぺきなようだから、そうなのだろうかと僕は思った。

 するとアオイ次に顔を真っ赤にして、


「な、何よ、文句があるの?」

「いや、魔法が好きなんだなって」

「……うぎゅ」


 悶絶してしまったアオイが顔を手で隠している。

 こうして見ると可愛いなと思って僕が見ているとリンが苦笑して、


「裏表のない性格は好感が持てるけれど、アオイはチョロいからほどほどにしてあげてね」

「ふぁ、誰がチョロいのよ!」

「ははっ、でも、その魔女エーデルとは私、ちょっと因縁があるんだ」


 大した事はないんだけれどね、と笑うリン。

 僕は何か思う所がある様な気がして聞こうとしたけれど、そこで都市に入る為の審査の場所に来てしまい、リン、アオイ、僕の順番でそこで審査をしてもらったのだけれど、


「君は十五歳、男性かね?」

「はい」

「では本日の、“姫様鬼ごっこ”に出てもらう事になるがよろしいかな?」


 そう僕は、審査の人に言われたのだった。

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