第28話 ポイント制

「・・・やられたな。不公平ハンディキャップバトルだ」


宿名が苦々し気に言う。


「設定の確認を怠りましたね・・・まあ、敗北に特に罰則は無いので大丈夫でしょうが」


紫苑が呆れた様に言う。


「何かあったのか?」


俺の問に、茜が答える。


「ルールが、打ち合わせと違うんすよ。普通は到着順、早く着いたほうが勝ちにするんすが・・・今の設定は得点順。何れかのチームがダンジョンクリアする迄に稼いだ、ポイントの量で順位を決めるっす。高レベルダンジョンの方がポイントが多いので・・・」


「つまり、低レベルのPTが不利って事か」


卑怯だが・・・実際、負けても、相手の要求をこちらが飲む必要は無いので。

意味が無い。

まあ、負けたら悔しいのは事実だが。


「他に、特異魔物ユニークモンスターとの遭遇、撃破、等でポイント入るので、逆転の目が無い訳では無いっすが・・・」


<チームレッドがコモンシンボルを取得しました。30ポイント獲得>


得点多いな!


「上位レベルのダンジョンの方がイベントも多いし、ポイントも高い」


宿名の説明。

詰んでる。


「ちなみに今のは宝箱の中身です。オフィシャルダンジョンでは、装備品や道具は入手できません。リソースが多く貰えたり、ダイバーポイントが貰えたりしますね」


まあ、レアアイテム出てもめても面倒か。


ふと、強そうな魔物が立ち塞がる。


ガッ


斧でクリティカルを叩き込む。

茜も流れる様にクリティカルを連打し。

ゴゴゴ。


宿名の魔法で魔物が沈黙した。


<チームブルーが青銅級ブロンズ特異魔物ユニークモンスターを撃破しました。12ポイント獲得>


焼け石に水。


「なお、倒せる訳が無い魔物が出る事も有ります。その場合は、適切に撤退の判断、迂回して下さい。強い魔物から逃げる、この対応が評価され、ポイントが得られます」


紫苑の補足。

なるほど、出会っただけでポイントになるのか。


<チームブルーが、3階層に到達しました。12ポイント獲得>

<チームレッドが、3階層に到達しました。31ポイント獲得>

<チームブルーが、4階層に到達しました。13ポイント獲得>

<チームレッドが、4階層に到達しました。32ポイント獲得>


凄まじい勢いで点数の差が広がっていく。

これは・・・無理だ。


<チームブルーが、5階層に到達しました。14ポイント獲得>


最終階層。

到着順なら、俺達の勝利なんだが・・・


また立ち塞がる強敵。


俺はまたクリティカルを連打、茜もクリティカルを乱打。

敵が1体の場合、盾でブロックするより、攻撃してクリティカルを連打した方が良い場合がある。

クリティカルの効果の1つ、のけぞりの発生だ。

のけぞらない敵だと別の方法が必要になるが、のけぞる敵であれば、クリティカルを間断無く浴びせれば、行動を封じる事が出来る。

・・・が、こいつ、強い。

生命力が全然減らない気がする。


「フリーズアロー!」


紫苑の指示に従い、氷の矢を放つ宿名。

弱点属性であるはずのそれは・・・あまり効いていない?!


此処は・・・


「くらえ!」


俺は、エーテルチャージを発動。

防御無視と、威力アップ。

そして・・・


赤い線の中心を狙い・・・トゥルークリティカル!


そして放つのは・・・武技!


「全霊斬!」


高い威力を誇る代わりに、一定時間行動不可となる大技・・・

盾となるべきウォリアーが使うべき技では無いが・・・


暴れ散りそうになる力を、細い赤い線を通し・・・


ゴアッ


派手なエフェクトと共に、魔物が大きくのけぞる。


「スピアドライヴ!」


茜が放った武技が、魔物を貫き──


「コキュートス!」


紫苑が放った大魔法が、魔物を凍結・・・粉砕した。


「エンジェルリング」


宿名が放った光が、俺達を包み・・・一定時間行動不能の状態が・・・治療される。


・・・色々とつっこみたい事があった気はするが、今は目の前の勝負に集中・・・だ!


<チームブルーが黄金級ゴールド特異魔物ユニークモンスターを撃破しました。5000ポイント獲得>


ああ、強いと思ったら、逃げて正解って奴か?

もうゴールしなくても勝てるんじゃね?


<チームレッドがリタイアしました>


あ。


--


「・・・見事だ、お前達の勝利だ」


レンヤが言う。


「いや、ルール設定でせこい事をしておいて、今更格好つけても・・・」


俺が半眼になって言う。


「その手違いに関しては、許せ・・・だが、言い訳させて貰えば、先にゴールするのは我々であった」


「・・・いや、私達が最終階層に到達してたのに、みなさんまだ4階層目だったっすよね」


茜が半眼で告げる。


「私達はこう見えて、全国レベルの強豪校でしてね。普段は同一レベルのダンジョンで凌ぎを削っています。つまり、可変レベルのダンジョン、というものに慣れていないのです。本来のルール、同じレベル帯で勝負すれば、貴方達は1階層も進めなかった・・・つまり、そういう事です」


カリンが胸を張って言う。


「そもそも、そんな格上の方が、まったり系同好会に絡まないで欲しいのですが・・・酔っ払いじゃないんですから、まだ日が高いですよ?」


紫苑が困った様子で言う。


「そもそも、そこの男性が、カリンにノーマナー行為をしたのが原因ですよね!」


向こうのPTメンバーの1人が言う。


「だから人違いだと・・・俺達が勝ったんだから、せめてそれくらい認めろ」


宿名がうんざりして言う。

だよね。


「此処での勝負などお遊び・・・我々と本気で戦いたければ・・・全国に来い。コーラルマーメイドに、敗北は無いんだ」


レンヤはそう言い残すと、去って行った。


「・・・なんか勝った気がしないな・・・途中で勝負放棄されたし」


俺はうんざりとして呟いた。


「でも、強力な特異魔物ユニークモンスターを倒すのは気持ちよかったよ」


茜が言う。


「それは、確かに」


同意する。

通常のダンジョンなら、激レアアイテムとかが手に入っていたのだろうか。


「コーラルマーメイド・・・あいつらの言っていた事が嘘でなければ」


宿名がぽつり、と言う。


「珊瑚高校、か」


俺が続ける。


「珊瑚高校?!地区大会の優勝候補筆頭じゃん?!」


茜が驚きの声をあげる。


「本物でも、2軍、という可能性も有りますしね。ただまあ、強い方達だったとは思います」


紫苑が言う。


「つまり、俺達の力、全国でも通用する、のかな」


俺の言葉に、宿名は苦笑すると、


「残念ながら・・・全国大会は、可変レベルでは無い。50レベルのダンジョンの、無限階層だ。1階層あたりのレベル上昇量も、5。つまり、5階層で既に70レベルに達すると言う事・・・」


「なるほど、レベルが足りない、か」


俺は理解し、頷いた。

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